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現代に活かす、エドノミーな暮らしの知恵−衣①

COS KYOTO代表・エドノミー®研究家の北林 功です。エドノミー®には現代の社会に活かしていくべき、自然風土の中で育まれた地域の暮らしの知恵がたくさん眠っています。足元にあるそんな叡智や事例を「衣」「食」「住」「遊」「創」といった切り口から、ご紹介していければと思います。

エドノミー®:江戸時代の日本が国内の限られた資源の範囲内で、循環型で高度な近代的社会および成熟した文化を育んだ仕組みを指す。
江戸時代(Edo)と経済の仕組み(Economy)を組み合わせた造語。

COS KYOTO北林 功(2021)

無駄を出さない設計思想

現代の洋服は、生地から服になるまでにおよそ3割が裁断くずなどとして利用されず捨てられていると言われます。生地が生み出されるまでの膨大なエネルギーも考えると、衣服の地球への負荷はとてつもなく大きいと言えます。(数値的なところは以下参照)

この裁断くずを利活用して、できるだけ資源ロスを減らすといった動きももちろん出てきています。しかしながら、そもそもこの裁断くず自体を「出さない」という設計を最初からしておけば、問題を根本から断つことができます。それをしていたのが、日本の衣服の設計思想です。
こちらの着物の展開図面を見ていただければわかるように、一切の生地の無駄が出ないようになっています。

着物の展開図面(出所:Jennifer Harris 『5,000 YEARS OF TEXTILES』(1993)を参考に筆者作成)

着物を1着仕上げるには、絹の場合、蚕が約2,800−3,000匹必要と言われます。それだけの蚕の命が必要となり、またそれだけの桑の葉(約100kg)と膨大な人手とエネルギーが必要となります。
だからこそ貴重な生地を全て使い切るという設計となっています。

現代におけるアップデート事例

現代の生活では着物のスタイルが合わないといった現実はあります。しかしながら、この根本的な設計思想を軸に、現代に合うファッションも生まれてきています。例えばこちら。HERMESのデザイナーとしても活躍された寺西 俊輔さんが始めた「ARLNATA(アルルナータ)」もその一つの例。

また、技術の進化により、そもそもロスを出さない作り方ができる島精機のホールガーメント(ニット編を応用した機械)なども世界中に急速に広がってきています。

川崎和也さん率いる「機械学習や生命工学を応用した新たな表現を探求するスペキュラティヴファッションラボラトリ・Synflux」も新たな技術と発想により、これからのファッションのあり方を提示しています。特に「Algorithmic Couture」では生地から廃棄が出ないように型紙を自動生成して、オートクチュールをデジタル化していく取り組みです。これからこういった技術が発展していくのも期待されます。

これらの事例のように、発想の根本を従来から培われてきた要素に置き、技術と感性を柔軟に組み合わせて現代にアップデートしていくことが、まさにエドノミー®としても大事にしたい姿勢です。
引き続き、エドノミー®の考え方や過去の事例、そして現代の事例などをご紹介してまいります。

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