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文化・経済・心の3つのバランスを取ることの重要性を考える

同志社大学のビジネススクール時代の恩師・村山裕三教授から教わったことの大事な要素の一つに「文化性と経済性」のバランスを取ることがある。これは、工芸などの地場産業が持続的な仕組みを確立していくときに考えるべきことを示している。つまり、経済的にしっかりと収益を上げて人材を確保・育成したり、必要な投資を行っていけるようにすることと、その際に地域およびその産業の軸となる「文化の芯」を失わないようにする(=「文化ビジネス」と呼称)ことの重要性を意味している。
「文化の芯」を失って「経済性の罠」に嵌った例として、本来は夏の暑いときに涼を取るために始まった鴨川の納涼床を取り上げられている。現在は、まだ暑くもない5月のGWに床を出すようになっている。観光客が多く来るので儲かるからだ。肌寒い中で料理を食べるのは、果たして文化と言えるのか。こういった事例は枚挙に暇がないだろう。

目の前の経済を回すために、文化の芯を失い、長期的に品質も落ち、魅力も失い、最終的には消えていく。これは日本だけのことではない。最近は、カマンベールチーズの事例も記事になっていた。いかにバランスを取っていくのか、このあたりは自分たちの足下に流れている文化および歴史を超長期的な視点で捉えて、自分たちなりにどうあるべきかを多種多様な地域の人たちとの議論を通じて、自分で思考を深めていくことが大事だろう。

そして、この文化性・経済性に加えて、個人的には「心」、言い換えると「ときめき性」を加えていきたい。これは作り手と使い手の心が通い合い、共にときめいているかどうかの要素と考えている。つまり、地域の文化の芯もしっかりと込められている独自のものであり、経済もしっかりと回っているけれども、商品やサービスの提供者(=作り手)とその使い手の心が全くときめいていないものは、果たして良いものなのだろうかということである。

これは僕が現在、同志社大学で「文化イノベーション」についての講義を持っているのだが、受講している学生から気づかせてもらった概念でもある。フィールドワークで京焼・清水焼のエリアで河井寛次郎記念館や陶磁器会館などを訪問した。その際、作品の展示をしていた職人とも交流していたので後で
「100均のコーヒーカップと、職人さんが作ったコーヒーカップは機能としては同じだけど、何が違う?」
という質問を投げかけてみた。するとその学生からは「朝、これでコーヒーを飲むときの心のときめきが違う」といった感想が口々に返ってきた。

これはとても大事な概念であると気づかされた。やはり作り手自身がそのモノづくりをしているときに心がときめいているかどうか、そして使い手もその作り手の背景・思いを理解して、使っているときに使い手との交流との思い出や背景の文化を思いを馳せたりして、心がときめいているかどうか。

ちょうど現在は沖縄に来ていて、芭蕉布の職人さん(昨年、僕が講師を一部務めた沖縄県の染織関係の職人さんの次世代人材育成研修にも参加された)を訪ねた。その職人さんは「芭蕉布づくりは、芭蕉を育てて刈って乾燥させ、その繊維をつなぎ合わせて撚って糸にして織るので、とても大変。だけども芯の部分は食べられて、糸にできなかった細かな繊維は紙の材料になるし、なにより織り上げた布はとても美しい。良いことしか無い。」とおっしゃっていた。もちろん大量に生産して大量に販売できたりするものではなく、経済的にどう成立させていくのかは課題ではあるが、文化と心の部分はとても満たされているという状態であると感じた。

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↑芭蕉の糸

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↑乾燥させた芭蕉。茎の部分を用いる

このように考えてくると文化ビジネスに必要となる3つの要素として
 ①文化的価値
 ②経済的価値
 ③心的価値

が挙げられる。この3つがどれかに偏り過ぎるのではなく、しっかりとバランスを取っていくように取り組むことが重要であると考える。

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