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『ヨーロッパ学入門』 IVヨーロッパの言語(新田春夫)

7回に渡って『地中海世界』(フェルナン・ブローデル)を読んできて、今回からは『ヨーロッパ学入門』を読んでいく。武蔵大学人文学部ヨーロッパ比較文化学科編ということで、学生の人たちに向けた語り口になっていて、僕のようなヨーロッパの門外漢からすると、大変読みやすくありがたい。

今回は、1回目だが「Ⅳ ヨーロッパの言語」を読んでいく。前回、歴史の専門家である東京大学の山本浩司先生に歴史を読み解いていく上での様々な視点をいただいた。そのうちの一つが穀物や綿などの具体的な対象から歴史を見ていくというものだったが、今回はヨーロッパを「言語」の観点から見ていくということで、そういう視点で見ていく意味でも興味深いものとなった。

【概要】
世界中には3千−4千もの言語があり、30超の国があるヨーロッパ(範囲をどう定義するかはその他の章に記載)では50−70の言語があり、インド・ヨーロッパ語族が多い。その中に名前の通りのモンゴル系の子孫のハンガリーや北極海などのフィンランドやエストニア、バスクなどの少数の言語も存在している。大きな言語体系として同じゲルマン語族である英語・ドイツ語、そしてラテン語に由来するイタリック語族のフランス語を取り上げながら言語の成り立ちや変遷について展開されている。歴史を読み解くということについては、以下の5つの点に着目できる。

①文化・自然科学
ギリシャ・ローマにおいて成熟したこれらの分野については、ギリシャ語・ラテン語に由来するものが今も多い。

②宗教
ローマ帝国がキリスト教を国教として普及させたこと、公用語をラテン語としたことにより、宗教用語にはラテン語の影響が大きい。

②民族移動
『ガリア戦記』(ユリウス・カエサル)にもあるようにヨーロッパにはガリア人(ケルト人)がもともと多く住んでいたが、ローマ人の支配地域の拡大でローマ帝国に同化していったり、辺境に追いやられていった。ゲルマン人がさらに続き、今はスコットランド等の辺縁部のみに住んでいる。このような経緯から地名等にガリア語が残る。フランク王国はドイツのフランケン地方からの移住が由来なので、フランス語にゲルマン語の影響がある。また、中世のノルマン人(ヴァイキング)のフランスやイギリスへの移住によっても言語が影響を受けていっている。
余談だがヴァイキングのヨーロッパへの進出状況は、ドラマ化されているので(若干史実とは異なるが)分かりやすい。

③国家体制の変遷
封建主義社会においては、地方で様々な文化が形成されており、その中で独自の言語に派生していった。近代以降の統一国家へと変遷していく中で国家の統制の必要性から「国語・標準語」の必要性が生まれ、人為的・政策的に共通語が浸透していった。このようにして少数言語が消失していった。

④国家間の発展状況の違い
ヨーロッパの中で発展状況の違い、そして交流を通じて各国が持つ得意分野については、その国の言語が他国の言語にも大きな影響をもたらしていった。産業革命が起きたイギリスからは科学技術用語が、宮廷・貴族的な用語はフランス語が他国に影響を与えていった。

【感想】
ヨーロッパという地域の中に多民族・多言語が多種多様に存在している中で、人の活動そのものである様々な交流・交易・戦争も含めた移動などが複雑に入り組むことで言語が成立し、そして今も影響しあっているということが分かる。
このダイナミックな相互影響は、地続きではない島国に生まれ育った日本人には即座に理解しにくいかもしれない。しかしながら、言語が違い過ぎて中央での情報戦や駆け引きに加われなかった戦国時代の薩摩のように(そして、今もやはり九州南部や東北の言葉は方言というレベルではなく全く理解できない言葉が多数存在している)日本でもこういった事例は見られる。

また、ゲルマン人の移動や、中世を席巻した「ヴァイキング」の影響などのようにそもそものヨーロッパの国や社会、文化を大きく変えてしまったことが言語の変遷をたどっていく中でも見て取れる。
1000年前のヨーロッパは、今我々が目にするヨーロッパとは人種も言語も文化も全く異なっていたのだ。ヴァイキングがイギリスにノルマン王朝を築いたように日本でも元寇が成功していたら、もはや全く異なった言語や文化体系になっていたのかもしれない。

言語の成り立ち、変遷を辿ることで人類の歴史を紐解いてたどっていくことにも繋がるのだということを今回の章で感じることができた。

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