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仕込んだ伏線を回収した日 前編

私の高校は女子校で、世の中で言うところのお嬢様学校だったように思う。でも、本当のところはよくわからない。私、普通の家の子だったし。

出来たばかりの学校で、校内の空気は希望に満ちあふれていた。校訓は『考えることの出来る女性ひと』というだけあって、校則はほとんどなく、生徒手帳に書かれた校則は「学生らしい髪型」「学生らしいコート」「学生らしい振る舞い」くらいなものだった。だからなのか、私の高校の同級生の現在はみんな独立心が旺盛でバリキャリの独身が多い。

高校時代、私はこの学校生活だけは絶対に目立たない!と心に固く決めていた。それまで、私は幼稚園、小学校、中学校と目立たなかったことはなかった。素行が悪くというよりは、何かと注目される要素が多かったのだと思う。歌の発表会では独唱を命ぜられ、大して真面目でもリーダーシップが取れるわけでもないのに学級副委員長をやり、演劇をやるとなれば主役をやり、生徒会副会長を務め、市の文集では何度も私の作文が取り上げられ、作詩をすればコンクールで優勝し、まー、とにかく注目されるのが常だった。

おまけに、中学校では学校の先生の車の助手席に座り、レストランに連れて行ってもらったり、ディズニーランドに連れて行ってもらったりもしていた。同級生は「おぬき、またセンコーの助手席に乗ってらー」みたいに思っていたそうだ。今なら大問題だ。あはは。

なんかやりすぎたかなー、みたいな気持ちから私は高校生活は地味に生活しようと決意していた。手を挙げない、声を上げない、まとめない、を三原則とし生活するつもりだった。だから先生から「生徒会役員は今年に限り指名性にします。おぬきさん、お願いします」と言われた時は必死に抵抗した。後の役の割り振りでも、いつもなら会長か副会長であろうところを「書記にします」と今までやったこともない役に就いたくらいだった。

私の高校ももれなく一軍、二軍、三軍という階級システム©トミー は存在していたが、私はどの軍にも所属しない ”その他” であったことに、今振り返っても間違いはない。常に一軍とつるんでもいるし遊んでいるが、二軍の子とも三軍の子とも言葉を交わし、多くの子から恋愛相談を受けていた。彼らから言わせれば、私はとても大人っぽかったのだそうだ。

「よく、校門の前におぬきのことベンツで迎えに来るおじさんとかいたよねー」

と今でもからかわれる。ああそうよ。なんなら二台鉢合わせちゃってしょぼい車の方を返したこともあったわ。

私はとにかく意図せず独自路線と貫いていたので、毎日一緒にランチを食べる友達や通学する友達、放課後遊びに行く友達と、まーいろんな友達がたくさんいた。自分の中ではそれぞれ全部繋がっているので「私が所属するグループって大所帯なんだな」と信じて疑わなかった。ちなみに、卒業写真は落書きいっぱいの黒板の前で撮影した。全員は入りきれなかったので、グループを小分けにした。小分けされたどのグループに入ったとしても私は問題なかった。なぜなら、誰と一緒にいるかは私の興味のないことであり、そのどの子ともそれなりに思い出があったからだ。そして、私は卒業後にこのアルバムを親や誰かに見せたりすることはないだろうと確信していた。なぜなら、黒板に描かれた落書きには「きょこん」「ぜつりん」という単語がさりげなく写り込んでいるからだ。

卒業してずいぶん経ったにも関わらず、未だにぼちぼちみんなと連絡を取り合っている。先日、超久しぶりの友人から連絡があったので、せっかくだからと連絡を取り合う4人で集まることにした。

かつてモデルとして活躍し、車マニアの雑誌ではアイドルだった ”みょん” がどうしても夜遅くまでは無理というので、キャリアウーマンの ”さっちゃん” と ”なっちゃん” 二人は午後休を取った。私はその日仕事を入れずにお休みにしておいた。午後の早い時間から飲むために、みんな気合十分だった。

集まってグラスを合わせ、あれやこれやと話に花を咲かせた。お腹がよじれるくらい笑ったり、上・中・下巻の長編になりそうな苦労話に神妙になったりもした。久しぶりにアルバムを開いて「きょこん」「ぜつりん」の文字をみんなで確認した。そして、その単語は私へのオマージュだったことも思い出した。どうしてそうだったかは、また今度綴りたいと思う。

ふと、なっちゃんが「そういえば、中学だったか高校だったか忘れたんだけど、気持ち悪い年賀状をもらったことがあるんだよね」と言い出した。彼女いわく、それは差出人が不明で、宛先はきちんと書かれているのに裏には不気味に歪んだ変な絵と「なっちゃ」と中途半端に名前が途切れた文字が書かれていたという。

「なっちゃん、じゃなくて ”なっちゃ” で終わっているところも不気味だったのよね…」

と彼女は言葉を結んだ。彼女の母親は相当気味悪がって、変質者や今で言うストーカーの存在を疑ったのだという。

「それ、私だよ」

と私は揚々と手を上げた。

(つづく)


長くなったので前編後編に分けます。

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