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膝ではないところが寒くなった話

発端はこの記事であった。

フォローさせて頂いているSuzuki Takeshiさんがお風呂にハッカ油を垂らして涼をとってみたものの、膝が異様に寒くなったという話である。

そして、これに私の大好きなぽかさんが便乗した。彼女のフットワークの軽さは驚くべきである。フットワークの軽さと実行力を持つ彼女は、幸福を取りこぼすことなくそれを手にしているはずだ。

ぽかさんがSuzukiさんに触発されてハッカ油をお風呂に垂らしたのはこちらの記事だ。ご家族にも好評だったようだ。

私も花粉症がひどかった時期に購入したハッカ油を持て余していたので、さっそく朝風呂の時に垂らしてみた。

花粉症の時に鼻がスースーすると聞いて購入したもの。
鼻詰まりが改善するのかと思いきや、事実上、鼻の下が痛いくらいにスースーするだけであった。

Suzukiさんのアドバイスによれば、10滴が適量ということであった。ぽかさんは5滴くらい落としてみたものの、十分な効果があったと述べていた。

私の家のバスタブは通常より大きい。私が小さいという話もあるが、この際その話は脇に置いてバスタブが通常よりも大きいということで話を進めたい。

私は調整が利かない女である。
茄子を料理しようと思ったら、一人であるにも関わらず一袋使い切るし、卵も一個より二個、二個より三個派の女である。ポテトチップスは一気に食べ上げるのが社会のセオリーだというのに半分くらい残して湿気らせるし、翌日は早起きが決まっているのに深酒をしたりするのだ。

私はバスタブにハッカ油を20滴入れることにした。
しかしどうだろう。10回も小瓶を振っていると、その辺りから中身がダバダバ出てきて雫単位では数えていられない。結局、私は結構な量のハッカ油をバスタブに入れることになった。調整が利かない女ここに極めりである。

ハッカ油はお湯の表面に虹色に輝きながらまだらに浮かんでいた。浴室は爽やかなミントの香りでいっぱいになった。これが入浴剤ではなく自然のハーブから抽出されたものであることが、ひどく健全な気にさせた。

私はミントの香りのするお湯に足を沈めた。ミントだからお湯が冷たく感じるのかと思ったが、普通にいい湯加減であった。体を沈める。バスタブから湯が大きな音を立てて溢れていく。ちなみに、これは私の体が大きいからとか重いからというわけではない。どんなに設定を少なめにしても、お湯の量がたぷたぷになってしまうバスタブなのだ。調整の利かない女には、調整の利かないバスタブが割り当てられる。世の中とはそういうことわりで成り立っているのだ。

バスタブから湯が溢れたせいで、表面張力で浮かんでいた虹色のハッカ油がすっかりなくなってしまってはいけない。

私は”追いハッカ”を試みた。

浴室にフレッシュなミントの香りが充満する。ああ、なんて爽やかなの。さわやかといえば、静岡のソウルフードの肉汁たっぷりハンバーグ。さしずめ私は浴室のハンバーグ。湯船から溢れるお湯はミントの香りの肉汁よ!

ハンバーグ妄想が進むうちに、なんとなくくるぶしの辺りが痛いようなスースーするような気がしてきた。男性の突起物にミントが襲いかかるとひどい目に合うことは容易に想像できるが、女性の突起物、とりわけくるぶしに刺激が来るとはどういうことなのだろう。深く追求すると、フランス書院文庫的な展開になりそうなので、少年少女のためにいろいろ目を瞑りたい。

ミントの香りのするお湯で顔を流した。唇の周りが少しピリピリとした。

これか…!

私は満足した。膝が寒くなるは、きっとこの感覚だ。私は奇しくも唇でそれを受け止めた。いや待て。お湯に浸かるくるぶしに感じるこれは、まさに「寒い」ではないか?

湯船に浸かりながら、私は廃屋をうろつくYouTuberの気持ちだった。今、椅子を引く音がしたが、これがアレなのか。誰もいないのに外で突然カラスが飛び去った現象はもしや…のように、自分の身に起こる未知の体験にワナワナする。

じわりと額を濡らした汗が、雫となって鼻から滴る。いつの間にか、二の腕にも初々しい汗の粒がにじみ出ていた。まるで孵化直後のナナホシキンカメムシのようだ。

おもむろにバスタブから出て、水を浴びた。真夏の水はぬるい。例えハッカ油の影響があったとしても、水は冷え切っているとは言いがたかった。普通にぬるい。

浴室のドアを開ける。間取りの関係で脱衣所にはエアコンが効いている。そこへ私は小型扇風機の風を体に当てる。火照った体に冷たい風が当たり思わず声が出る。

くるぶしが、くるぶしがキテる。

まるで見えざる存在がくるぶしに取り憑いたかのようだ。Suzukisさんが膝だったのなら、私はくるぶしにソレが来た。なんだろう。年齢によるものなのだろうか。歳を重ねるほどに寒い位置が下に行くとか。だとすると、人口の半分以上は足の裏より遠いところが寒くなることになる。

少し冷めた体を再びバスタブに沈めた。
浴室は相変わらずミントのいい香りが漂っていた。しかし、湯の中で私のくるぶしがスースーすることはもうなかった。ウェンディがピーター・パンにさよならを告げる時が来たかのような寂しさを感じる。

さよなら、スースー。さよなら、ちょっと特別だったくるぶし

Suzukiさんはまだ若い。
もしかしたら、Suzukiさんが感じたソレは、清らかな心を持つ者だけが知り得る特別なスースーだったのかもしれない。薄汚れた私では、その後ろ髪をつかむ手に力も入らない。

私は一抹の寂しさを覚えつつ、高速で回転する扇風機の羽に向かって「ワ レ ワ レ ハ …」とつぶやくのであった。

#夏のハッカ湯遊び #ハッカ湯は朝風呂に限る #入浴時間はお昼だったけれど

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