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生存率5%以下の大病を経験した話②

目覚めたのは、手術から3日後でした。

夢やお告げはなにもなく、真っ暗な闇の中まずは人の声が聞こえてきます。上の姉と妻が話す声が聞こえ、日常の対応を話し合っていたのようで、慌ただしい雰囲気の会話です。そして、ゆっくりとですが目を開けます。ぼんやりと光に包まれた霧の中のような不思議な空間にいるようです。

目を開けると、妻と姉が見えます。二人はまだ気づいていません。相変わらず慌ただしく話し合っている二人を眺めていると、妻が目を開けていることを気づきました。

「わかる?よく頑張ったねぇ!」

「美香姉ちゃん!ダンクン目が覚めたよ!

姉は慌てて看護師さんを呼びに行き、妻はウンウンと頷きながらこちらを見ています。不思議ですが、自分の置かれた状況がまるで他人事のように感じながら、感動とは程遠い意外にも冷めた感覚で見ていました。

看護師さんは慌てて駆け寄ってくると、私に声をかけながら機械を操作しています。

「菱田さん!わかりますか?」

何度かそう声をかけながら、機械に表示される数値や記録簿のようなものを見ています。そのうち光に包まれた霧のようなものが晴れてきて、頭がはっきりとしてきます。応えなければと思い、返事をしてみますが、声はのどに呼吸器が入っているので、まったくしゃべれません。頷こうとしても、上体も頭にも全く力が入いらないし、右手も左手もピクリとも動きません。

『俺の体はどうなった?』

足も腕も指でさえも全く動きません。

動くものはまぶたと目だけで、何とか意思を伝えようと瞬きを数回してみます。3回瞬きしてしばらく待って、また瞬きを3回しました。けれど、打合せしているわけではないので、妻も姉も看護師さんもわかるはずがありません。3人は意識が戻って良かったと互いに喜んでいます。私は一人取り残され現状が把握できません。

もう一度体を順番に意識してみます。足も腕も指も全く感覚がありません。

『寝たきり』『植物人間』『障害者』というキーワードが頭に浮かんできます。ここでようやく自分の置かれた状況が把握できました。

耳は聞こえ、目は見えて頭もはっきりしているけど、一生寝たきりの人間になってしまったと。

自分の心臓の音が聞こえます。『ドクン・ドクン』それが、次第に大きく早くなってきます。そうすると、周りにある機械から、次第にアラームが聞こえてくるようになりました。『ファン・ファン』とか『ビー・ビー』といろいろ合わさって鳴り始めました。

「菱田さん!落ち着いてくださいねー

「大丈夫ですよー!」

看護師さんは冷静にそう声をかけてくれますが、こちらはパニックです。

大きな声で叫びたい気持ちでしたが、体がそれをかなえてくれません。

体中が熱くなり、鼓動が大きくなってきました。アラーム音は相変わらずけたたましく鳴っています。そうしていると、白衣を着た男性が入ってきて、点滴の管に何やら薬を入れ始めました。その直後また意識はなくなり、暗闇に落ちました。

目を開けるとリーチマイケル(似)がいました。

意識が戻るときには、やはり耳からなのだと思います。

下の姉の話し声が聞こえてきて、ぼんやりと霧の中から視界が開けてくるように、目覚めます。目の前にはリーチマイケル(似)がいます。(義理兄)

濃い顔が眼前にあると、想像以上に驚きます。久しぶりに見る義理の兄の顔は、こういう状況では遠慮したいものです。相変わらず反応しない体と、見ることだけしかできない目があるのみです。みんなが語りかけてくれてもこちらの意思は全く伝わりません。ただ呼吸して、心臓が動いているだけです。生きていることの辛さを初めて実感しました。

口には呼吸器、左右の手には無数の点滴、左足は壊死した筋肉が露出した状態です。ここで一度病状を整理しておきます。

病状の説明

大動脈解離

心臓の出口の血管(大動脈)が元から鼠径部まで一気に裂けました。血管は3層構造になっていて、その一番内側の内膜が裂けて破裂はしていません。しかし、裂け方が大きいので、確か「ブラックフラッシュ」と言われる状態だったと後日聞かされました。その時の説明で、武士が袈裟切りに斬られる痛みだそうです。(日本刀で斬られたことがないので比較はできませんが、これまで経験してきた痛みの10倍は痛いです。)


コンパートメント症候群

大動脈解離の影響で左足膝から血液が流れない状態になりました。その影響で左足膝下の筋肉は壊死して、足を切断する判断を迫られた状態です。足の組織は切り開かれ、組織液のようなものを循環させている状態です。(足がパックリ内部が見える状態で、ストローが2本刺さっている感じ)

icu内

その時の私です。怒られるかもしれませんが、知り合いがコッソリ撮ってくれていました。撮った友人はどんな思いで撮影して後日渡してくれたのでしょうか? 元気になったら渡そうと願掛けのように思って撮ったのか、今度聞いてみたいな

③へ続く

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