生存率5%以下の大病を経験した話①
2019年11月5日午前9時私は大動脈解離になりました。
私は岐阜の田舎で作業手袋(軍手)を製造・販売しております。
いつものように朝6時に起きて、パートのおばちゃんが出勤するまで機械を整備しながら、一人で製造を始めます。8時にパートさんが出社してくるので、そこでようやく朝ごはんです。NHKの朝のドラマを見ながら朝食を食べ、コーヒー豆を挽いて香を楽しみながら一息つきます。
工場と自宅が隣接していますので、すぐに仕事に戻ります。
「今日は暖かいし、製品倉庫の整理・掃除をしよう!」
「痛い!」
突然胸を刺すような、激しい痛みが走りました。
30秒ほどでしょうか、呼吸もできないほどの痛みです。涙が出ます。
かろうじて意識を保ちながら、スマホを取り出します。
Googleさんに打ち込みます。『胸の痛み 突然』
検索結果から見つけた、『突然死の予兆』という文字。
自分は死ぬのだと、素直にそう思いました。
深呼吸をして、隣接する自宅へと向かいます。ゆっくり本当に長く遠い道のりに感じました。先ほどまでいたキッチンに行き、水をコップに注いで一口飲みます。まったく味がしない水を飲みこんで、ソファーで横になります。
42歳で死ぬのだろうか?
自分は世の中に必要な人間で、選ばれた人間だと思いこみ、簡単には死なない80歳や下手すると、100歳まで生きるんじゃないだろうか、そんなことを普段から考えている自分に突き付けられた、『突然死の予兆』
胸の痛みはあるが、意識ははっきりしている。しかし、今死んだらどうなるのだろうか?妻や子供達はどうなる?会社は?
身支度を整えている、妻のもとへ向かいます。
「すまん!胸が痛くてひょっとしたら死ぬかもしれない!」
「生命保険の証書の場所は事務所の棚の左上にある!」
そう告げてベットに横になりました。妻は怪訝な表情で、一瞥して身支度の続きをしています。冗談を言っているとしか思っていませんでした。けれど、治まっていたいた胸の痛みはまた復活し、心拍が耳元でなっているかのように、心拍が強くなってきました。これは本当にヤバイ!
「すまんが、病院に連れて行ってくれ」
そこで初めて、ただ事ではないと思った妻が、車まで走ります。私はノロノロと車まで行き、倒れこむように何とか乗り込みました。救急車を呼んだ方がいいのではないかと聞く妻に、ここは田舎だからいろいろ面倒が多い、とにかく救急車の常駐している消防署まで行ってくれと頼みました。向かっている道中は今まで以上に長くゆっくりに感じました。胸の痛みは激しくなり呼吸もできなくなってきました。痛みで指は反対に曲がり、数十秒おきに意識が飛んだり、痛みで現実に戻ってきたりを繰り返しました。
消防署に着き、妻に救急車を頼んでもらいます。
出てきた消防署員さんも驚いていました。2日前に地域の消防行事でお会いしたばかりでした。至急救急車を手配してくださったのですが、たまたま出動したばかりで、救急車がありません。別の消防署から来てもらうしかありません。時間にして数分程度だったと思うのですが、数十分にも数時間にも感じられました。署員さんからいくつか質問されましたが、とても返答できません。自分が生きれるのか、死んでしまうのか、それだけが知りたくてたまりませんでした。
救急車に乗り、病院に着きストレッチャーに乗せられます。
その先はテレビドラマの世界です。
署員さんが症状を説明したり、先生が質問したり、看護師さんが声をかけてくれたり、しかしここでいったん意識を失います。
気が付くとMRIというのでしょうか?ドーナッツの穴の中に居ました。 「ブォーーーン」と不気味なうなり声をあげているドーナッツの穴の中で両手を挙げた状態でした。胸の痛みはずいぶんましになり、点滴が2本ほど刺さっていました。体が段々熱くなり、うなり声はさらに大きくなります。 スピーカーから声がします。
「大きく息を吸って!」
「はい!止めて!」
無理!痛くて苦しくて無理!また意識を失いました。
次に気が付くと、なにやら手術室のような部屋です。
ストレッチャーに乗せられ、天井を眺めていると、男性2名と女性1名の顔が見えます。女性は忙しそうに指示を出しています。一人の男性は扉が開くのをイライラしながら待っています。もう一人の男性は私に語りかけてきました。
「心配事はありますか?」
小さく答えます。
「会社が心配です。」
「今は、体を治すことだけ考えましょう。」
この時ふと思いました。もう駄目なんじゃないかと、会社も家族も自分の体もダメになるんじゃないだろうか?
「ブオン」と音がして扉が開きます。みんなの視線がそちらを向き、乗せられているストレッチャーも同じ方向に進みます。この時涙が出ました。
「私たち医療チームが全力で治療にあたります。」
語りかけてきていた男性が力強い声でそう言ってくれました。
「頑張って病気を治しましょう!」
諦めたような、希望を抱いたような不思議な精神状態で目を閉じました。
麻酔に入るときに、効いたふりして起き上がるギャグはできるのだろうか?そんなことを考えていると、一瞬で意識がなくなりました。
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