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こういう時あなたなら食べる?食べない?

いらっしゃい。
今日もお話を聞きにきたの?
それじゃこんな話はどうかな。
これは友達のあまめちゃんから聞いた話。


祖母が亡くなりその葬儀に参列するためN県に行った。

祖父の家には長いこと帰っておらず、祖父とも久々の再会であった。

祖母は長いこと病にふせっていたので、祖父もそこまで気落ちすることもなく、むしろ闘病生活を支えきった満足感まであるような感じであった。

葬儀、納骨等も終わり、親戚一同はサッと帰ってしまい残されたのは私たち家族と祖父だけになった。

居間でくつろいでいると、祖父がコーヒーとお茶菓子、そして果物を持ってきてくれた。

このままもう一泊することなっていたが、やることもないのでぼんやりしていると、退屈を察したのか、祖父が「面白い話してやろうか?」と、笑顔で言ってきた。

真面目が服を着て歩いてるような祖父が面白いというのだから、これは余程の話だろうなと思い耳を傾けた。


祖父がまだ中学生だった頃、少し離れた山奥に幽霊が出ると有名な廃墟があった。

いつの時代も中学生が考えることは同じなようで、数人の仲間と肝試しに行こうということになった。

祖父はあまり乗り気ではなかったが、ガキ大将に「もちろんお前も行くよな?」と、言われて断れずついていくことになる。

ちょっとした食べ物をリュックに詰めて、祖父含め4人は日の出とともに出発、詳しい場所を誰も知らなかったので、迷いながら行った結果、廃墟にたどり着いたのは昼すぎになっていた。


森の中にひっそりと佇む廃墟。

瓦葺の家は確かに古く感じたが、廃墟というにはきれいな印象だ。
木々に覆われ薄暗いこともあり、苔に覆われた庭は美しくすらある。

「ここほんとに廃墟…?」
と、誰かが口にしたが、自分たち以外の気配は感じない。

変な雰囲気になっていたが、ガキ大将が突然「ごめんくださーい!誰かいますかー?」と、大きい声で呼びかけた。

この肝試しの発案者でもあった彼は引き下がれなかったのだろう。
だが、彼の呼びかけに返答はなかった。
入り口の引き戸を開けると彼は再び、ごめんくださーいと言いながら入ってしまった。

こういう廃墟は、ゴミが散乱したり荒らされた跡があるのが普通だと思うが、この家はあまりに片付いて清潔感があった。

土足で上がるのは忍びなく、皆、草履を脱いで上がった。

手前の部屋から見て回る。外見からは想像もつかないほど広く、廊下を挟むように3〜4部屋ほどあるようだ。

各部屋を見て周り、一番奥の部屋にたどり着いたところで不思議なものを見る。

どの部屋にも物が置いていなかったが、この部屋だけ小さなテーブル、いわゆるちゃぶ台が置いてあった。

そしてその上にりんごが一つ。
どう見ても新鮮なりんごで赤々としている。

4人は顔を見合わせなんでりんごが?といった感じであった。

そもそも廃墟であるならば、リンゴはとうに腐っているはず。
ひょっとしたら置物?と思い、実際手に取って匂いも嗅いでみたが明らかに本物だった。

どうせなら廃墟探訪の土産にでもしようと思い、
祖父はそれを着物の袂に突っ込んだ。

他に特に面白いものもなかったので引き返そうとした時、仲間の1人があっと声をあげた。

彼は一つ前の部屋を見ている。
皆の視線がそこに集中した。

そこには先ほどまでなかったりんごがひとつ、畳の上に置かれていた。
ガキ大将が「誰かりんご…」と言った瞬間、皆、悲鳴を上げながら慌てて駆け出した。

恐怖のあまり、脱いだ草履を履くことも忘れて外に飛び出し逃げ帰った。


翌日、学校ではその話で持ちきりだった。

あいつら幽霊屋敷で怪異と遭遇したらしいと。

ところが、例の廃墟に行ったことのある、別の同級生が不思議なことを言い出した。

廃墟は瓦葺ではなく茅葺だった、あと、人が立ち入れないほど荒れ果てている、とのことだった。

そんなはずはない。確かに俺等は不思議な屋敷に行ったんだと主張したが、ただの留守宅に忍び込んだだけと馬鹿にされる始末だった。

納得のいかないガキ大将はその後、調査隊と称して再びその屋敷を目指したが、そこには二度と辿り着くことはなかった。

祖父たちが行ったのは一体何だったのか…


そこまで話すと祖父は嬉しそうに
「どうだ?面白かったか?」と、聞いてきた。

私は気になっていた、例の持ち帰ったリンゴはどうしたの?と尋ねると実はあのあと帰り道で迷ってな、腹が減って食べてしまった、とのことだった。

よくそんな気持ちの悪いものを食えるなじいちゃん…と、引いていると、実はその後の話もあってなと再び話し出す祖父。


祖父が例の廃墟から帰って数日後、不思議なことが起こり始めたらしい。

ふと気がつくと家の中にりんごがひとつ置いてある。

最初は家族が置いたものかもしれないと思っていたが、同じようなことが何度も続いたらしい。

あまり裕福ではなかった当時、腹が空くと毎回現れるりんごに何度も救われたと話をしていた。

それって今でも…と、聞こうと思って言葉に詰まってしまった。

茶菓子と一緒に出されたこのりんご、もしかして…

祖父はただ笑顔でこちらを見つめていた。


どうかな?面白かった?
今度おいしいアップルタルトを用意しておくから、また遊びにおいで。
それじゃ、また。


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