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SDGsを現実の事業戦略に落とし込むには?【第2話】

CSR・CSV・ESG・ルール形成・SDGs。ぜんぶ出所はおなじです。

 今回の第2話から本格的な話を進めていきますが、最初にちょっと肩慣らしから始めましょう。前回、GCNJのマニュアルをご紹介しました。「CSR」という言葉がおおく出てきましたが、これはSDGsを理解するヒントになります。

企業の社会的責任(きぎょうのしゃかいてきせきにん、英: Corporate Social Responsibility; CSR)とは、企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的(ボランタリー)に社会に貢献する責任のことである。(Wikipedia

 用語の解説だけ読むと、なんだかSDGsに近いような気がしますよね?企業が社会的責務を負うべきであるとする考えは昔からありました。そもそも、日本には近江商人の経営哲学である「三方よし」がありますし、けして新しいものではありません。

近江商人の経営哲学のひとつとして「三方よし」が広く知られている。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方だ。(伊藤忠商事「近江商人と三方よし」

 さて、このような企業の社会的責務を現代の企業活動にあてはめると、次の3つに分類することができます。

①ガバナンスとしての企業倫理
②マネジメントとしての経営理念
③プロモーションとしての社会貢献活動(CSR)

 企業は活動によって利潤を生んで(永続して)いくのが存在意義の第一です。となると、上記には企業活動の根幹ともいえる「オペレーション」が抜け落ちていることになりますよね?そうです。昔から企業の社会的責務が求められているといえども、実際にオペレーションにそれを反映するか否かは企業次第でした。

 もちろん、国が定める品質基準や業界団体の自主基準、法令遵守などは事業遂行と密接にかかわりますが、それらはあくまでも①や②の領域だったわけです。ところが、近年は、この企業活動の根幹ともいえるオペレーションに直接的に影響が及んでいるのです。それが従来のCSRに加えて登場した「ESG投資」や「ルール形成」といったトレンドです。これらが企業活動にどう影響するかを示したのが次の図になります。

図1

 ESG投資は、SDGsへの取り組みが長期的な企業価値向上につながるとするもので、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が世界に先駆けて全資産でのESG投資を決めたことから、いっきにトレンド化したものです。

 ルール形成は、ISOやらIEEEといった従来の規格標準化や国際協調の流れをくみますが、さらに一歩踏み込んで社会課題の解決や実現といった“共通善”的視点からグローバルな規制をおこなうという新しい流れです。欧州が得意とする強力なビジネステクニックで、10年ほど前から我が国政府も危機感を感じて産業界を後押ししており、近年はやられっぱなしだった日本企業が善戦するケースも出てきました。

 ESG投資とルール形成について知りたい方は下記をご覧ください。

ESG投資(GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人)
企業戦略としてのルール形成に向けて(経済産業省)※PDFファイル

 ここまで出てきた「CSR」「ESG」「ルール形成」を、それぞれ同じ土台から出てきたものだと考えると、それは共通善または共通価値という概念になります(※1)。従来と異なるのは、CSRが概して企業のプロモーションにとどまっていたのに対して、ESGとルール形成は企業の外側からのアプローチ(外圧)を通じて、企業の事業戦略そのものを社会的責務を果たす方向へコントロールしよういう強制力があることです。

(※1)共通善と共通価値は厳密にいうと違うのですが、経営学の分野では、共通善が組織論(野中)で共通価値は戦略論(M.ポーター)という分け方ができます。現在のSDGs系の議論は、後者の戦略論が暗黙の前提になっているので、共通価値(CSV)の用語表現がほとんどです。

 このような現代のトレンドを先ほどの企業活動の分類にあてはめると、新しく④が加わります。

①ガバナンスとしての企業倫理
②マネジメントとしての経営理念
③プロモーションとしての社会貢献活動(CSR)
④オペレーションとしての“共通善/共通価値”事業戦略(CSV)


 企業活動について、すこし俯瞰してみると、企業が直面するビジネス環境の構造的変化としてもとらえることができます。仮にこれまでの企業像を19-20世紀型と定義し、今日のそれを21世紀型と定義すると、次の図のように示すことができます。

今日的携行

 これまで企業は、あくまで利潤最大化を目的とする企業活動を適正ならしめるために「市場」(Market)との対話において企業の社会的責務が必要とされていました(左の19-20世紀型ビジネス)。市場に対してよりよい製品とサービスを供給すれば、それに対する対価として利益と評価が得られます。投資がそのサイクルをまわすためのブースターでした。

 ところが現代は、企業が対話するのは市場よりも広い概念である「社会」(Social)です(右の21世紀型ビジネス)。よりよい製品とサービスの供給はできて当たり前で、社会貢献活動(CSR)が必要とされました。そして、インターネットによる情報技術革新は他者とのコラボレートによる共通価値の創出を生むようになり(CSV)、これは企業活動にとっても無視できないリソースとなります。

 そして、共通善からの要求は、SDGsというグローバル規範としても成立し、ESG投資やルール形成を通じて、企業に対して事業活動そのものを通じた積極的関与をなかば強制するにいたったわけです。

 このような21世紀型の企業活動に対する経営学からの回答は多岐にわたります。次の第3話と第4話では、ひとかどの理論として成立している代表的な2つの理論についてご紹介します。

(第3話につづく)



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