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「岩井、毎日ATMをやるってよ!?:みずほ銀行に勤めている◯年前の私へ(大手町支店編 3)

「大丈夫!そのうち、キャッシュレス時代が来る」

入社した支店で忘れられない仕事の一つが出張窓口の仕事。

当時の中小企業金融公庫(現:日本政策金融公庫)、日本開発銀行(現:日本政策投資銀行)や日本輸出入銀行(現:国際協力銀行)など、いわゆる政府系の金融機関に行って、1時間ほど出張窓口を開設、職員の方々を対象にお金の引き出しや入金を行うという仕事がありました。

言ってみれば、人間ATM。お客様が通帳と払い戻し請求書を持って来られるので、

通帳に押してある副印鑑で印鑑照合する
 ↓
払い戻し請求書の記載された金額をその場でお渡しする
 ↓
通帳をお預かりし、記帳した上で翌日返却する

という仕事があったのです。

この仕事、大手町支店では新入社員は、入社して半年ほど過ぎた時期から、ほぼ毎日いずれかの金融機関に行っていました。

どういう経緯で、このような仕事が始まったのかについて、当時は確認しませんでした。けれども、おそらく、前述の政府系金融機関と取引をするにあたって

各金融機関の職員の方の給与振込指定を第一勧業銀行の大手町支店にしてもらう
 ↓
その代わり、銀行員が出張窓口業務を行なって利便性を図る

という何らかの合意があったものと推測しています。

銀行の数ある目標の一つに個人の給与振込指定口座の獲得があります。

給振指定口座は指定されてない口座に比べて、平均の金額が大きいと言われています。そして、多くの人は給振指定口座を自分の公共料金の支払いや住宅ローンの支払いにあてるので、いわゆるメイン口座となります。

また、いったんメイン口座として定着すると、他の銀行口座に変えるのは面倒です。このため、銀行から見ると、給振指定口座を獲得するのは、個人取引を強化する上でとても大切な布石という訳です。

その戦略は理解できるのですが、出張窓口の仕事は苦手だった札勘の実践的練習の場としては意味はあったものの、かなり神経を使う仕事でした。

支店からは仮払金として一定の現金を持ち出します。そして、出張窓口で行なった入出金の金額を精査して、支店に帰ってから仮払金を精算するという一連の流れがあります。

しかしながら、なんと言っても、現金その場かぎり。もし、こちらが金額を間違えて記載された額より大きい(もしくは、小さい)金額をお渡ししてしまうと、最終的に金額が合いません。

出張窓口は通常は1時間なのですが、25日などいわゆる給料日はお金を引き出すお客様も多いので、件数も多く、時間も2時間以上かかることがありました。

支店の窓口でテラーをやる人は経験を積んでお金の数え方も慣れている人ばかりです。一方、新入社員である私はお金の数え方もまだ半人前。このため、支店に帰ってきてからお金が合うかどうかは確認するのは、毎回ドキドキでした。

幸い私は金額が合わないということはありませんでした。けれども、交代で出張窓口を担当されていた先輩が、ある時金額が合わないことがあり、支店を上げて伝票を何度も見直すなど、大騒動になったことがありました。

銀行はミスを許さない風土がありますが、特に現金の取扱いは厳しいものがありました。もちろん、これは信頼を守るために必要なことです。

けれども、現金の出し入れのような正確性は要求されるけれど、特にそこに付加価値を生まないような仕事は、人ではなく、システムがやる方がベターな仕事です。

給振指定口座の獲得が大切なのは分かるものの、そのために、貴重な人材をATM代わりに使うというのはどうかと思います。今はこのようなことはやらせていないと思いますが、人を育成するという視点がまったく欠如しています。

今はキャッシュレスが進んで、私も普段はできる限り現金を持ち歩かない生活になりました。けれども、30数年前はまだまだ現金が主流の時代。

私の人間ATM の仕事は3年近く続きましたが、今振り返ってみても、「やらなくても良かったかなぁ」と思える仕事の一つです。

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