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売上パターンから見た資金繰り対策

仕事柄資金繰りに関するご相談を受けることがありますが、「資金繰りがちょっと・・・」と経営者がおっしゃる場合、売上のパターンから考えると、大きく分けて5つに分類されます。

その5つとは

1. 「売上が上がっていない」ケース
2. 「売上の絶対金額が少ない」ケース
3. 「売上が減少傾向にある」ケース
4. 「売上は上がっているが、過去の・・・」というケース
5. 「売上は上がっているのに、なぜか・・・」というケース

資金繰りは単純に考えると、「現在残高+入金金額―出金金額」。

そこで、資金繰りを改善するためには、「入るを量りて出ずるを為す」ことになる訳ですが、「入る」の大半を占めるのが会社の場合、売上高です。

しかし、実際には売上のパターンによって、資金繰りに対する対応の仕方も異なります。そこで、まずは売上のパターン別にどういう対応方法がポイントになるのかを見ていきたいと思います。

もし、資金繰りがちょっと不安だという場合、御社の売上は先の5つのパターンのどれに当てはまるでしょうか。

「売上が上がっていない」ケース

これはいわゆる売上高=0円、もしくは限りなくゼロに近いというケースです。

私自身、最初に転職した会社でこれを経験しました。

2000年9月、私はインターネット専業の銀行を立ち上げるという趣旨に賛同して、日本電子決済企画株式会社(現在の楽天銀行株式会社)に入社。

日本電子・・・って初めて聞く名前だとおっしゃる方も多いと思いますが、銀行を設立するための準備会社で金融庁から銀行の免許を取るまでは銀行という名前を使えないため、当初はそういう社名を使っていたのです。

いわゆる設立準備会社であるため、当然のごとく売上はゼロ。しかし、銀行を作るためには人を雇い、システムを開発しなければいけません。このため、準備会社において最大かつ最重要な仕事は資金調達、いわゆるお金集めです。お金が集まらない限り、何も始まらないという訳です。

私が入社した時の資本金が4億円。そして、3年後に退職した時の資本金が約135億円。3年間で131億円以上のお金を集めたという計算になります。したがって、今振り返ってみても在籍中の大半は資金調達をやっていたような印象が残っています。

銀行の立上げなどはやや特殊なケースかもしれませんが、システム開発型の会社やバイオ系のベンチャー企業の場合、同じような経験をされておられるのではないでしょうか。

このように初期の先行投資が必要で、開発が成功してから初めて売上があがるという場合、資金繰りを考える上で資金調達抜きには考えられません。

そして、この場合のポイントは

1.毎月の所要資金の金額
2.研究開発等にかかる費用と期間の見積り
3.計画と実績の軸のぶれ

まず、「毎月の所用資金の金額」ですが、これはいわゆる割り算の話です。

仮に毎月にかかる諸費用が150万円、現在の預金残高が1,000万円とします。

1,000万円÷150万円=6.67

今から6ヵ月後も売上高が0円とすれば、7ヵ月目には手元のお金がなくなるという計算になります。したがって、そろそろというかすぐにでも次の資金調達の準備を始めないとお金がなくなってしまい、今年の秋には事業を続けることが不可能になります。

このように書けば、「そんなの当たり前だろ!」「小学生でも分かる話では?」と思われた方もおられるかもしれませんね。しかしながら、当事者の立場になった場合、分かっていてもなかなか動けないという事情があります。

それが次のポイントである「研究開発等にかかる費用と期間の見積り」とも関連してきます。

つまり、当初3,000万円、6ヵ月で開発終了と計画していても、システムの不具合発生や仕様変更等によって、費用の2,000万円が2,500万円に、開発期間が6ヵ月から9ヵ月にずれ込むということはざらです。しかも、それが残り1ヵ月とか2ヵ月前になって突然分かるということも・・・。

やっている本人達からすると、松竹梅という3つのシナリオがあれば、どうしても上手く行く松のシナリオを信じたいという心理が働き、面倒な資金調達はどうしても後回しになります。しかし、現実は梅はおろか、春になってもまだ硬いつぼみのままで一向に花が咲く気配がないこともままあります。

また、「営業なら俺にまかせろ」、「システム開発なら何時間でも熱中できる」という経営者で、「金融機関との交渉は苦手」だとか、「他人に頭を下げるのはどうも」というケースがあります。この場合は嫌な事は更に後回しになりがちで、資金調達に着手した時にはお尻に火がついているという事例は多々あります。

ましてや、資金調達が上手くいかずに開発が途中でストップするとさらに計画が後寄せになり、ますます資金繰りが逼迫してきます。

いずれにせよ、売上がゼロという場合、既に売上の実績が上がっている会社に比べても不安定要素が大きく、計画通りには事が運ばないという前提で動かなければいけません。

そして、その際大事なのが「計画と実績の軸のぶれ」です。

売上ゼロの会社でよくあるのが、「商品Aを開発します」と言ってお金を集めたにも関わらず、途中で商品Bの開発が始まっているというケースです。

商品AがA´やaぐらいならまだ良いのですが、商品Aとは全くコンセプトが異なる商品Bだと最初にお金を出した人からすれば、「何なのそれ?」ということになります。

もちろん、開発や研究の過程で誤りや勘違いに気づき、軌道修正することはありです。けれども、売上高ゼロで資金調達に苦労している会社に限って、

・当初の調査不足
・検証の仕組みがない
・社長の気まぐれ(笑)

等の要因で急に路線が変更されていることが多いように思います。

これでは山あり、谷ありの状況において、最初の山は登れても、次の谷からは這い上がって来られません。計画や予定を変えるにしてもきちんと責任をもって第三者に説明できるか、どうか。会社の力量が問われる分野です。

以上いろいろと見てきましたが、売上があがっていない場合、通常よりも資金調達は難しいのが現状です。ましてやアメリカなどに比べると日本の場合、リスクの高い新規事業に積極的に投資をしようとする仕組みがまだできていないという現実があります。

したがって、当面売上がゼロという事業をやっている、もしくはこれからやろうとしている経営者の方は先に上げた3つのポイント

1.毎月の所要資金の金額はきちんと把握できているか?
2.研究開発等にかかる費用と期間の見積りは常に検証しているか?
3.計画と実績の軸はぶれていないか?

をいま一度見直しましょう。そして、手元の預金残高と当座いる資金とを比較して、いつ資金不足が発生するかを予測。それが半年以内ならすぐに資金調達に着手することをお薦めします。

「売上の絶対額が少ない」ケース

これは前述の「売上が上がっていない」ケースと違って、既に商品は売れ始めているが、まだ、採算ベースにあっていないという場合です。

売上の絶対額が少ないために、毎月預金残高が減っているということが想定されます。

話を単純化するために、1個10,000円のかばんを製造・販売している場合で考えてみたいと思います。なお、1個のかばんを作るのに原材料費が3,000円かかっているとします。

この場合、かばんが1個売れると、この会社は
 
10,000円―3,000円=7,000円

の利益が上がる計算になります。

これって「荒利(売上総利益)のことでしょう。」と思われた方もおられるかもしれませんね。この数字が売上総利益と等しいかどうかについては、いろいろと考慮すべき事項も多く、説明し出すと長くなるので、また別の機会にします。

いずれにせよ、ポイントはかばんが1個売れるとこの会社は7,000円の利益が出るということをまずは頭に入れていただければと思います。

売上の絶対額が少ない時、多くの経営者がやることは、「なんとかして売上高を増やそう!」ということ。

しかし、商品を販売してその売値が100%利益になる場合は別にして、商品を販売するにはそれを製造し、仕入れる費用がかかります。そして、この費用は商品の販売数が増えると当然増えてきます。

つまり、売上高を増やそうと努力すればするほど、それに伴って費用も増えているという訳です。

この場合、よく陥るパターンは値下げをして販売数を増やそうというケース。例えば、今まで10,000円で販売していたものを9,000円に値下げして売るという場合です。

原材料費が変わらないとすると、値下げ後にかばん1個当たりの利益は

9,000円-3,000円=6,000円

となり、当然のことながら値下げ前に比べて1,000円下がってしまいました。

したがって、この会社が月間200個のかばんを販売していて、100万円キャッシュ・フローを改善しようとした場合、他の条件は変わらないとすれば、

値下げ前:7,000円×200個=1,400,000円
値下げ後:6,000円×400個=2,400,000円

つまり、値下げ後に今の2倍の数量かばんを販売しないと100万円分資金繰りが改善しないのです。これって現状の販売数量が200個の会社にとって結構大変ですよね。

値下げして販売数量を増やすという作戦ももちろんありですが、その数量が一定以上増えないと結果的に資金繰り改善にはつながりません。

このケースで言うと、値下げ後

6,000円×234個=1,404,000円

ですので、今までより34個以上売れて初めて資金繰りの改善に寄与します。

200個を400個に増やすよりは現実的かもしれませんが、今のご時勢、10%以上販売数を増やすのもなかなか簡単にはいかないのではないでしょうか。

このような場合、値下げして前月よりも販売数が増えていると喜んでいざ蓋を開けてみると資金繰りが改善するどころか、以前よりも悪化していることにもなりかねません。

そこで、私が売上高の絶対額が少ない場合にまず経営者の方にお願いしているのが、商品やサービスの1個当たりの収益を出してもらうことです。

先の事例で言えば

(10,000円-3,000円)×200個=1,400,000円

を示してもらうことです。

人件費や交際費等の経費削減策を除くと、資金繰りの改善に寄与できるのはこの1,400,000円の部分です。

これを増やすには方法は3つ。

①10,000円を上げるか
②3,000円を下げるか
③200個を増やすか

そうすると次にやるべき事が自ずと見えてきます。

しかし、売上の絶対額が少なくて資金繰りが厳しいという場合、

本来は上げるべき販売価格を下げる傾向にある
商品1個当たりいくらのコストがかかるのかをきちんと把握できていない
何個売れば会社として採算がとれるかという数量を指標として設定していない

というケースが多いです。

毎月売上はあがっているが、「商品1個当たりの利益は?」とすぐに数字が出てこない経営者の方がいらっしゃれば、まずはその数字をきちんと知ることから始めてはいかがでしょうか。

「売上が減少傾向にある」ケース

この場合、先の「売上が上がっていない」ケースや「売上高の絶対額が少ない」ケースに比べると、ある程度業歴もあり、以前は資金繰りも問題なかったという場合が多いかもしれませんね。

一方で、このような場合、売上高に関係しないいわゆる固定費が毎月発生しているものと考えられます。

そこで、売上高が減少傾向にある場合、多くの会社がまず実施するのは、固定費の削減です。

・事務所を賃料の安いところに移転する
・交際費の予算を削る
・事務用品等の使い方を見直す

などなど。そして、やはり何といっても人件費。給与の削減や人員カットと言った話はよく耳にするところかと思います。

もちろん、これらの策は王道であり、会社に余裕がなくなってきている以上、無駄な経費は多いに削らなければいけません。

私が最初の職場を辞めようと思っていた頃、ちょうど金融危機の影響や他社との合併話もあって、会社全体に経費削減という雰囲気が漂っていました。

今でも覚えているのは、

・仕事で使う赤鉛筆を1本総務の人に出してもらうのにいちいち上司の印鑑がいる
・通勤定期で降車する駅は会社に近い最寄り駅の方は駄目で、一駅手前のちょっと遠い方の駅までしか認められない

といったようなせこいこと(笑)。まあ、社員数も多かったので、1件当たりの削減金額は小さくても、塵も積もればということなのかもしれません。

しかし、通勤定期の方は百歩譲るにしても、仕事で使う事務用品ぐらいはあまりうるさい事を言わずにすっきりと出してほしいと思ったものでした。(実際にはいちいち申請するのが面倒なので、自分で買ったものを使っていました。)

売上高が下がってきて会社の雰囲気が何となく悪いのに、そこに経費削減やボーナスカット、給与の20%OFFなどが重なると益々会社の空気が重くなります。

やや話がそれたかもしれませんが、売上が減少傾向にある時、資金繰り対策として固定費を削るはありとしても、それに伴う派生的な影響は決して無視できないということです。

私が今まで見てきた企業の中で、売上が減少傾向にある会社でその後資金繰り改善につながっている先に共通して言えるのは、「お金と時間の再配分をきちんとやっているか否か」ということ。

つまり、その後業績を立て直した会社は、削減すべき事項は思い切って削る一方、投資すべき項目にはきちんと時間とお金を投入しているのです。しかも、その姿勢が社外の人にもきちんと伝わっています。

恐らく大手企業の場合はこの辺りがきちんと出来ている先が多いのだと思いますが、中小企業の場合、

・社員の給料は減っても、社長の役員報酬はそのまま据え置きで社長は高級ベンツを乗り回し中

とか、

・既存先との取引量が減っているにも関わらず、新規開拓は全く手付かず

といったことをよく見かけます。

その結果何が起きるかと言うと、

・受注量が減って定時には帰れるはずが、日中ちんたら仕事して、なるべく残業代を稼いで給料の削減分を補填しようとする社員が出てくる

とか、

・新規先はおろか、既存の大事なお客様まで知らない間に他社に取られてしまっているのに気づいていない

といったような現象です。

売上が減少傾向にあるという時は、まだある程度時間的にも余裕があるはずです。

今まで手を広げすぎていたものを縮小し、本業に回帰するのが正解の場合もあれば、今までの本業以外の新規分野に重点を置いた施策をうつべきだとか、状況は会社によってまちまちです。

しかし、少なくとも、新たな投資なくして売上なし。売上減少を食い止め、売上の横ばい、そして増収へと持っていくために何かにヒト、モノ、カネをつぎ込まなければ、そのうち米櫃の底がついてしまいます。

経費を削るには比較的簡単。けれども、お金をいくらどこに使うかは非常に難しい問題です。

削減+α

資金繰りを中長期的に改善するために、場合によっては一時的に資金繰りがより厳しくなる策も充分ありえるということを経営者は頭の片隅に置いておきましょう。

「売上はあがっているが、過去の・・・」というケース

今までの各ケースのポイントを簡単にまとめると、以下のようになります。

「売上が上がっていない」ケース:あと何ヵ月で資金がなくなるかをきちんと計算し、計画と実績を常に検証しつつ早めに資金調達する

「売上の絶対額が少ない」ケース:まず、商品やサービスの1個当たりの収益を算出し、それを伸ばす方法を売上高アップ、費用削減、販売数量アップの3つの観点から考え、実行する

「売上が減少傾向にある」ケース:お金と時間の再配分によって、何を減らし、どこに投資するかを決めて実行する

そして、今回の「売上は上がっているが、過去の・・・」というケースですが、この「・・・」のところは会社によって様々です。

・バブルの時に銀行に勧められて買った不動産が大幅に値下がりし、不動産を売却しても借入金が返済できない
・商品の研究開発に多額とお金と時間がかかり、研究開発用に借りた資金の返済負担が重い
・資金繰りが厳しくなりつつあった時にほとんど採算ギリギリの条件で結んだ契約条項が足かせとなり、販売量が増えても自社の収益はわずかしか増加しない

などなど。

いわゆる「負の遺産」を引きずっているため、何とか当面の運転資金は確保できているものの、既存の借入金の返済までには至らず、銀行にリスケを依頼したり、経営者の自宅を追加担保に入れたりして、何とかしのいでいるところも多いかと思います。

この場合、会社によっては

・債務超過に陥っているため、新たな資金調達ができない
・営業や広告に力を入れて販売量を増やそうと思っても、人件費の負担や広告宣伝費の捻出までには至っていない

というケースがあります。

このため、後戻りはしないけれど、次の一歩も踏み出せず、歯がゆい思いをされている経営者も多いのではないでしょうか。

もちろん、現在の事業が非常に有望であり、将来的なキャッシュ・フローが充分に見込めるのであれば、今は会社分割等の手法を使って事業再生に結びつけることも可能です。

けれども、私の実感としては会社分割等を使えるのも一定の売上規模があり、ある程度企業体力が残っている会社が中心です。売上が50百万円未満では手間とコストを考えると、専門家の先生も巻き込んで本気で事業再生に取組むのは現実問題としてはなかなか難しいようにも思います。

そして、このような場合、経営者がよく口にするのは、「あと、30百万円ほどあれば、何とかやれるのだが」という言葉です。

仮に

売上高:20百万円
費用等:20百万円
リスケ中の借入金:25百万円
  
とした場合、何とか現状の売上で費用分はまかなえているので、30百万円分を増資のような形で調達できれば、リスケを解消しても手元に5百万円残ります。そこで、新たな投資資金として営業強化につなげることができる計算になります。

でも、多くの場合、私は落とし穴があるように思います。それは経営者の考え方や会社の中に潜在的にある問題です。つまり、「本当に問題はお金だけなのか」という点です。

負の遺産がある場合、経営者も以前の失敗に懲りて、経費等は思い切って削り、無駄な出費をしていないのが多いのも事実です。

しかし、よくよく会社の状況を調査してみると、以下のような事象が見受けられます。

・新規の契約を取る際にも気後れして好条件で締結できていない
・営業を販売代理店等に任せているため、エンドユーザーの真のニーズを把握できていない
・最後はまた何とかなるさという感じで客観的に見るとやや強引な発注を行う

そして、何よりもこのような会社はマーケティング力が弱く、継続的に受注に結びつける仕組みができていません。

したがって、仮に現行の資金繰りを一気に改善できるだけの資金調達に成功しても、また、暫くすると資金繰りに窮しているというケースが多いように思います。

もちろん、なんとか資金繰りが回っており、また、何やかんや言いつつも事業を継続できているという背景には、経営者の粘り腰と従業員の頑張り、そして、扱っている商品やサービスの魅力・ニーズがあるからに他なりません。

しかし、この現状から抜け出し、新たなステージに一歩でも二歩でも上がっていくためにはお金の外に強力な自己改革ともいうべきものが必要です。

先に「採算ギリギリの条件で結んだ契約条項が足かせとなり」と書きましたが、多くの場合、その条件は所与のものとして、先方と交渉すらしていません。

理由を聞いてみると、返ってくる答えが、「以前、ウチが厳しい時にお世話になったので」とか、「あそこには言ってもどうせ無駄だし」といったようにはなから諦めムードが漂っている感じです。

でも、仮に料率の変更に成功し、売上が20百万円から22百万円に増えたらどうでしょうか。少しは資金的も余裕が出来て厳しい環境の中、頑張っている従業員の給与を増やしたり、社長が会社への貸付金を一部回収に回せたり、という場合だってあるはずです。

しかも、この交渉は余計なコストがかからず、仮に上手くいかなくても現状からは失うものは何もありません。

もちろん、交渉は相手のある事なので、そうそう成功するとは限りません。しかしながら、私が申し上げたいのは、

ゼロベースでもう一度なぜ現状資金が足りないかをすべてピックアップしてみるということ

そして、

その要因を解消するためのアクションを全て実行すること

これをやらずに仮に資金の手当てできたとしても、過去の経験を活かして大きな失敗はしないまでも、大きな飛躍はなかなか期待できません。

現状起きていることはすべて何らかの要因があります。それを知った上で改革に取組むか、見てみないふりをしてやりすごすか。

自分の腕一本でやってきた中小企業経営者の場合、今までの自分のやり方や考え方を一部否定することにもなるので、かなり難しいことです。しかし、それを経営者がやり、従業員にもその事がきちんと伝わった時、過去の遺物は昔の苦労話の一つに変わっているのではないでしょうか。

「売上は上がっているのに、なぜか・・・」というケース

この5番目のケース、今までと違って「資金繰りの悪化がまだそれほど表面化していないけれど、思ったほど手元にお金がないなあ」というようにリスクがまだ顕在化していない場合があります。

このような場合、決算書の貸借対照表(バランスシート、B/L)を見ると、多くの場合、売掛金の存在が気にかかるところです。

上場会社などでは、きちんと売上をあげる時のルールが決まっており、定期的に監査法人等のチェックが入るため、いい加減な形で売上を上げるのはそう簡単ではありません。

一方で、中小企業。

顧問税理士がチェックするといっても先生によって確認の仕方も様々。ましてや、ほとんど自社で経理業務をやっていて税理士先生は税金の計算業務に特化しているような場合、社長の一存で売上の金額が変わるという先もあるのではないでしょうか。

まあ、社長自らが売上計上に関与している場合は、社長自身も自覚があるのですが、問題はある程度社員の人数がいて、社長が個別には売上計上に携わっていない時です。

社内では営業部を中心にいかにして売上を上げるか、日々頭をひねっておられるかと思いますが、多くの場合、各営業担当者の目標は売上高ベースで設定されています。つまり、契約をとれてなんぼ、受注できれば目標クリアという訳です。

この場合、とれた契約から入ってくる売掛金の入金があって初めて会社の資金繰りはプラスになるのですが、担当者はそこまでなかなか頭が回らないのも事実です。バブル期と違って今はなかなか売上を伸ばすのも難しい時代。話題性のある商品は別にして、飛ぶようにモノやサービスが売れるという時代ではありません。

そんな中、なんとかして売上を上げようと必死になって働いている社員からすれば、まずは契約を取ることが最優先。その後のお金の回収は経理部などの管理部門まかせで、営業担当者はノータッチというところも多いかもしれません。

以前私がご支援させていただいたある製造業の場合、決算書を見ると、売掛金がかなり膨れていました。

まだ当時は売上も順調に伸びていたため、資金繰りは全く問題なかったのですが、気になったので、何人かにインタビューしてみると、

「売上がいつ入金になったかは知りません」
「それって、経理でチェックしているから・・・」
「未入金の電話なんか取引先にしたことがない」

という答えが返ってきました。そして、売掛金の中味をよく調べてみると、中には既に当初の入金予定日からだいぶ日数の経っているものもあったのです。

その後、管理部長と相談し、売掛金の溜まっている先に個別にトレースしたところ、中には業績が悪化してお金が払えないという先もあったのですが、大半は、

「すぐ払います。」
「すいません。つい忘れていました。」
「請求書って送られてきていましたっけ?」

といったようなケースでした。

つまり、その会社の社内目標が売上の計上ベースで設定されていたため、資金繰り的には大切なポイントである売上金の入金、売掛金の回収がどうしても手薄になっていたのです。

幸いその会社では不正な売上計上はなかったのですが、会社が売上至上主義に走ってしまうと、目標達成ができない社員の中には架空の売上をでっちあげるという場合も想定されます。この場合、会社の売掛金チャック体制が甘いといつまでも未回収の売掛金が溜まり、蓋を開けてみると、売掛金の大半はほとんど実態のないものだったという事にもなりかねません。

そこで、私は売掛金の回収までやって初めて目標達成になるという評価の導入をお奨めしています。これは一つには資金繰りに寄与するという効果があり、もう一つは不正防止にもつながるという意味で二重の効果があります。

したがって、「売上は上がっているのに、なぜか・・・」というケースでは、

売掛金の残高&中味をチェック
回収が遅れている売掛金について要因分析
営業の目標設定が売上計上ベースになっている場合、売掛金の回収も評価項目に入れる

ということを実行されてみてはいかがでしょうか。

これはほとんど追加の投資をやらなくても、資金繰りをすぐに改善できる方策です。ただし、社員の意識や行動を変える必要があるため、強力なリーダーシップを持って推進する必要があります。

何事も改革するのは困難。でも早めに手当てをうたないと、ボディーブローのように効いてきます。まだラウンドの早いうちに一度目標を見直していただければと思います。

おわりに

さて、以上で売上パターンから見た資金繰り対応は一旦終了です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ただ、現実問題はこれらのいくつかのパターンが組み合わさったりして複雑なケースが多いのも事実です。もし、自社の場合はどうなのだろうと疑問に思われた方は当社までお気軽にご相談いただければ幸いです

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