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海外ノマド、オンライン日本語講師をしているけれどオンライン日本語講師を勧めないワケ

海外ノマド生活をしている私は、現在(2024年夏)オンライン日本語講師をしている。そんな私の日々や、日本語教授の日々、そしてクラスの様子…。そしてそんな私は実はオンライン日本語クラス反対派なのだが、どうして反対なのか?ということを綴っていきたいと思う。

★これは、第二言語学習という分野を研究して、「どうしたら言語を学習できるか」ということが目標なので、オンライでの学習では日本語学習の向上力という視点では私はオンライン日本語学習ということにあまり賛成していない、ということだ。


業務委託で企業内オンライン日本語講師

実は私はオンライン日本語講師だが、フリーランスではなく、フルタイムである企業へ業務委託という形でオンライン日本語講師をしている。私の仕事の形態は少し変わっているかもしれないが、オンラインでフルタイムで、業務委託なので、かなり安定した仕事でもある。

本来は会社に行き、9時~5時に会社でオンラインで日本語を教えるというものだった。ただ、私の会社はベトナムにあり、本来ベトナムに滞在しながら、会社に通い、その会社の社員へオンラインで日本語を教えるというものだった。
元々正社員の仕事で労働許可証を取得してもらう予定が、会社の都合で労働許可証が取れず、「クラスはオンラインだから」と家に戻ってオンラインで教えることになった、というのが現状だ。

会社はベトナムのハノイにあったのだが、多くの支社があり、学習者はハノイ、ダナン、ホーチミン、または日本の学習者がいるので、クラスはオンラインで行っている。中には対面クラスもあるようで、本来ならオンラインと対面クラスがあるはずだったのだが、私の場合はある程度決まったクラスをオンラインのみで教えている。

ここで問題なのは時差があるので、私は通常なら朝4時~仕事をしなければならない状況だった。それでも、会社へ業務委託として仕事ができると、拘束時間は1日8時間、その中で8コマほど日本語を教えるというのが本来の勤務形態だ。私は時差のせいで、教える時間を少し少なくしてもらい、その代わりに教材制作などを多くしてもらっていた。

本来は正社員だったので、その場合で考えるとオンラインではあるものの、会社に行かなければならなかったし、自分の都合で教えられるわけではない。ただし、正社員であればかなり安定した職業として継続することができる。

また、私のように業務委託の場合は保険などの福利厚生がないので、ある意味フリーランスと似たような状態ではなるが、自分で生徒さん探しなどもなく、一応毎月固定給が入ってくるという点は利点かもしれない。

企業内オンライン日本語教材、クラスについて

企業内の日本語教師は、テキストもあるし、教えるシラバスもあり、PPTもあるので、それに従って教えればいい。逆に言うと皆が同じように教えないといけないので、シラバス通りに教えなければいけない。同じことを繰り返すことが嫌いな人には向いていないかもしれないが、それでも、学習者は変わるので、同じことを教えていても、それはそれで「同じ授業」にはならないので、私にとっては問題ないが、先生によっては単調になることもあるだろう。

私の会社ではオンラインで日本語会話のクラスを担当するので2名までの少人数クラスだ。そして、希望者が参加しているので皆やる気もある。ただし、社内での日本語クラスのため「会議が入ってしまいました。」などの理由で急遽欠席などもよくあり、社内でのことなので、こちらはどうしようもない。ただし、クラスの様子はオンラインなので録画されているので欠席した人はその録画を観て自学学習をすることになっている。
私のところでは国際交流基金の「いろどり」や「まるごと」を使用している。この教材、特に「まるごと」はオンラインでダウンロードできるし、様々な言語の教材があるので便利だ。

これを使ってPPTにしているので、PPTと音声教材も使って教えることになる。国際交流基金の教材は恐らく日本人講師でなくても教えやすいように、なのか音声教材がかなり多く含まれている。なので、せっかくの会話のクラスであるが聴解も多い。
1クラス30分だがその代わり週に2~3回勉強する。自習も必須になっているので、30分クラスはその自学学習のサポートのようなイメージでもあるのだが、中には予習、復習をしない学習者もいるので、聴解も1回でOK(予習済み)のクラスや3回聞かないと分からないという学習者もいるので、同じ30分でもちゃんと終わる時もあれば、終わらない時も出てくる。そのあたりは先生次第だ。

会話クラスは初級(N4)中級(N3)上級(N2)に分かれており、各クラスで教科書を1冊終わらせるというイメージのようだ。ただし、そのレベルによって3クラスに分かれており、今問題なのは1クラス終わってそのまま進級してもらいたいのに、なかなか継続しない傾向にある。フリーランスで教えるときも、恐らくどれだけの人が継続してくれるか、が給料にも関係してくるので、大きな問題となるが、社内で教えているときはこういった問題もなく、又新しいクラスができる。
私の教えている会社は大企業ということもあり、かなりの社員が日本語学習に意欲的だ。また、日本への支社転勤希望者や転勤経験者も多く、日本語学習継続希望者、日本語学習をして日本語会話力向上希望者が多い。

オンライン日本語クラスの使用言語や教え方

私はベトナムの企業で教えているので、学習者は全員ベトナム人だ。では私はベトナム語を使って日本語を教えているのか、というと実は日本語のみのダイレクトメソッドのみで教えている。
私の印象ではオンライン日本語講師の方は資格を持っていなくても教えている方もいて、その代わり外国語ができるので、日本語を教えやすい、という利点があるようにも思う。

けれど私は日本語だけで教えている。もしも必要というのであれば、恐らく英語やフランス語でも日本語を教えることはできるのだが、日本語教師や外国語学習経験者の私にとって、一番大切なのは日本語のインプット量だと思っているので、やはりなるべく日本語のみで対応したいと思っている。
ただし、それは学習者のレベルによるかもしれない。オンラインで日本語を教えている方の中で「大半は初級者」と言っていた方もいたのだが、その場合は英語やその学習者の母語を使用する方が説明しやすいかもしれないのだが、ある程度のレベル、特にN3レベルであればたとえ分からない言葉があっても日本語のみで相手に説明できるようにしたいと思っている。私はたまたま中級レベル(N3)のクラスを主に教えているのだが、なぜか既にN2を持っている学習者や、日本に数年住んでいた学習者もいて、既に日本語がかなりできる人も多い。逆にいつも彼らに
「なんで中級のクラスに来たの?」と聞くくらいだったが、まだまだ完璧に話せるわけではないから、と中級クラスにいる学習者も多いので、なるべく発話を多くできるように、間違いを修正するように心がけている。

教え方というのでは、オンラインだと淡々と教えるようなイメージもあるかもしれないが、私は逆に、オンラインだからこそ、なるべく相手に思いが伝わるように、手ぶりなども少し大きくしたりすることもある。

現在多くの日本人教師がいるのだが、私たちはオンラインで教えていることとで他の先生たちと情報共有する機会が少ない。特に私は一人家に戻って完全にオンラインで仕事をしているため、他の先生たちとの交流や情報交換も少ない。そのため、他の先生がどうやって教えているかは分からないだが、私が心掛けていることは

●学習者がちゃんと学習できるように教える
●学習者の日本語が向上できるようにする
●学習者が日本語学習を継続したいと思えるようにする。
●学習者が日本語学習が面白いと思って、クラスに参加することが好きでいてもらえるようにする

ということだ。1日30分勉強しても日本語力はそこまで向上しない。自分で学習しないといけない。だからこそ、この30分は自学学習のサポートだと思っている。それはどのクラスでもいつも思っていることで、クラス受講だけでは日本語力は向上しないと思っている。

学習者からの感想

教え方については学習者からの感想で自分の教え方がどんなものか改めて分かることがある。1クラスは大体3カ月ほどで終了するようになっているのだがその後クラスを継続する際には又会社に申請するそうだ。その場合、クラス受講可能な時間を申請する方式らしく、先生指定はできないようだ。
けれど、クラスが終わる時に
「クラスが終わってしまうのが残念です。」
「また先生に教えてもらいたいです。」

と言ってくれる方もいた。

また、他の先生から私のクラスに来た方もいて
「先生の教え方が良いです。」
と言ってくれる方もいた。また、
「日本語をちゃんと直してくれる。」
と言われた。先生として、教えると言うことは、学習者の発話の間違いを直すことも仕事だと思っている。直し過ぎてもいけないが、クラス内ではある程度学習者の日本語を直すことも仕事だと思っている。
私も外国語学習者だったので、今でもやっぱり日本語を直してもらいたいと思うことがある。

先生の中には熱心に共有しているPPTを自分仕様に修正する方もいるようだったが、私はそれはしないで、クラス内で、別の追加情報などはオンラインのチャットで送ることが多い。オンラインの利点は、チャットで他の情報なども送れて、それを長期的に共有できることでもある。

オンラインで教えてみてこそ感じるオンラインには賛成しない

私はコロナ禍でもずっと別の機関でオンラインで日本語を教えていた。そして、その後対面クラスになった時に愕然としたのだ。コロナのせいとは言え、オンラインで勉強していた学生の日本語レベルは驚くほど低かった。

私はその頃大学で教えていたのだが、のクラスは20人以上のクラスもあり、そんな中で文法だけではなく、会話や聴解などを教えようとするとオンラインではやはり無理があった。そして、朝のクラスでは出席しているものの、ビデオを付けないで寝ている学生もいた。やはりやる気という意味ではオンラインはなかなか集中力を継続させることは難しいし、オンラインでPCを見続けるということは教える側も教わる側もかなり目に負担がかかる。

現在のクラスでは一応カメラを付けることを必須としている。私もカメラを付けるが、自分の顔が見えて教えるということはとても精神的に負担になる。自分がどんな顔で教えているか見える分、どうしていつも笑っていなければならないという気持ちが強くなる。そのせいで、ずっと笑っていないといけない、疲れた顔ができない、というこの仕事はなかなか難しいと感じた。
対面クラスでは、例えば何か問題を解いてもらったり、誰かと相談してグループで相談させたりするときに、ちょっとふっと自分の時間ができたりする。オンラインクラスの場合はそういうちょっと気を抜く時間がない。

現在のクラスは1クラス30分なので、今ではそれがちょうど良い長さだと感じている。それ以上になると集中力が続かない。1時間だと45分くらいするとダレることがある、という印象だ。オンラインは集中力、特にカメラを見ていなければならないとなるとかなり負担がかかると感じている。

そして、言語というのは決して言葉そのものだけではない、コミニケーションはイントネーションやジェスチャーなど言葉以外でできることも多い。だからこそ、他の教科なら良いのだが、日本語という言語、特に会話を教えるにはこのオンラインというのは日本語力向上という点では最適な方法ではない。

オンラインは便利だが、学習者への利点は少ない

「オンライン日本語教師は良い」という声は聞くが、これは
いつでもどこでも教えられる
いつでもどこでも学べる

からであるが、実際の言語力向上という点、そして学習者にとって「いつでもどこでも学べる」以外の利点はあるのだろうか、と考えた時に私には他に浮かばなかった。

ある文献(参考文献① 参照)では教室の方がいいと答えた学習者の方が多かった

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jlp/1/0/1_30/_pdf

オンラインではインターネットの関係で聞こえにくかったり、せっかく日本語を発話してもそれが聞き取りにくいこともある。発音の練習などはかなり難しい。


https://www.jstage.jst.go.jp/article/jlp/1/0/1_30/_pdf

この表からしても、学習者にとって実際の語学学習という点での利点は少ないのではないかという印象があった。これは大学生のオンライン学習における調査であるが、個人授業でない場合はやはり他の学習者との対話なども大事なインターラクションであり、それがオンラインでは難しいという印象がある。

別の研究では


https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/4377786/56_p057.pdf

というオンラインクラスのメリットとデメリットが書かれているが、このメリットも便利さという点が多く、学習という点ではデメリットが多いという印象だ。特に学習、勉強という点では「勉強した気にならない」「勉強している実感がわかない」「学習意欲が沸かない」など、学習という点ではオンライン学習のデメリットが多いと言える。

オンライン日本語教師と言う仕事を、教師という自分の為の仕事、教師の立場で考えた場合は確かに移動しなくてもいい、いつでもどこでも教えることができるという便利さ、そしてオンライン日本語講師であれば、日本語学校のように資格がなくても教えられるという利点もある。
ただし、これはあくまでも教師側、教師という仕事を選択した人側にあるのではないかと思うのだ。

もしも日本語講師として、学習者の日本語学習、日本語学習能力の向上ということを一番に考えた場合は、オンラインが最適だとは私は思えない。それは今まで教えていた経験からも感じることで、また、こうしたデータこの記事では1つの文献した用いていないが、こういうデータを参考にして、本来のオンライン日本語教授に対してそれが本当に有効か否かということを考えるべきだと思っている。

日本語学習者のことを考えるのならばオンライン学習は最適な方法とは言えないだろうし、もしも今後オンライン日本語クラスが増加してしまうと、その便利さ、手軽さで日本語学習者も増加するかもしれない。それは便利であるが、最適ではないということは日本語講師も認識していてほしいと思っている。

そんな私が今オンラインで日本語を教えているが、自分の日本語教授の哲学には反しており、自分の哲学に反する仕事をするのは少し心苦しい。本来は現地で教えるはずであったので、今は仕事を継続させながらも、シラバスやクラスそのものに関してはあまり意見を言える仕事環境ではなく、あくまでも一日本語教師でしかないので、それも踏まえて今後のことを又改めて考えていきたいと思う。

オンライン日本語教師に資格は必要ないが…

また、オンラン日本語講師の利点は資格が必要ないことだ。学習希望者がいればそれで良い。そして学習者がそのクラスに満足して継続したいと思えばそれで良いのだ。そこに問題はない。
日本語講師が2024年4月から国家資格になったが、これは日本の日本語学校で教えるときに必要な資格であって、それ以外の機関や諸外国で教えるときにはまだこの国家資格を必要とする機関は少ないだろう。

私も国家資格は持っていない…。
以前の日本語資格と言われていた420時間日本語教師養成講座を修了して、大学の日本語学科修士課程を修了している。それが私の日本語教師の資格として、色々な組織や、大学などで教えることができるのが現状だ。
できればオンラインではなく対面で、クラスで教えたいと思っているし、できれば大学という機関で教えたいと思っている。
実は私は日本語教師を目指していたわけではなくて、大学の日本語学科で日本語や専門科目を教えていて、その後に企業内日本語講師になってしまった。だからこそ、自分のしたい仕事とは異なっているから、ということもあるので、日本語教師を目指している方であれば、オンライン日本語教師も、資格がなくて日本語を教える仕事をしても、教え方には色々あるし、教える場所も色々ある。
ただし、日本語を教えるということは、日本人だから教えられるということでもないし、日本には国語文法と日本語文法という外国人が日本語を学習するときに学習する文法は異なるので、やはりちゃんとした文法学習や、外国語学習、異文化理解などある程度知識も必要だと思う。
もちろん知識だけで経験がなければ教えられないかもしれないし、経験だけで知識がなければちゃんと教えられないこともある。

先日、ある2つの日本語の単語について他の先生がたが意見交換をしていたのだが、それがなんともちゃんと考えない、ちゃんと調べていないような意見交換がされていたので、愕然とした。先生も、学習者なのだ、教える立場だからこそ、学習することがまだまだある。学習者の質問にその場で全て答えられなくても良いと思うがちゃんと自分で勉強して次のクラスには答えられるようにしたい。先生も宿題があるのだ。

先生には誰でもなれる、けれど良い先生かどうか、というのはもちろん学習者が決めることでもあるが、やはり学習者がちゃんと日本語を学習できること、これが一番大切なことだと思うのだ。だからこそ、「質の良い日本語講師を」ということで日本語講師が国家資格になったんだと思う。逆にそのせいで、日本語講師資格が必要ないオンライン日本語講師が増加してしまったりしてはけないと思っている。

参考文献
①河内彩香, 村田晶子, 長谷川由香, 竹山直子, & 池田幸弘. (2021). 教員と学習者はオンライン授業をどうとらえたか Zoom と Google Classroom を併用した日本語教育. 多文化社会と言語教育, 1, 30-45. 
②李相穆,コロナ時代の非対面オンライン外国語授業についての一考察,言語科学,九州大学大学院言語 文化研究院,56巻,pp. 57-62,2021

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