父の夢を見た
夢の中の父はがんだった。
でも、以前のように元気で、私は「前とは見違えるようだ」と思っていた。
私と母が様子を見に訪問していて、見たことのない工事現場のジャケットを着て、仕事に行くところだった。
「悪いなぁ、来てくれたのに」
そういってバタバタ用意する父。
「いやいいよ、大丈夫。また明日も寄るね」
「そういえば、息子がまたおじいちゃんとテレビ電話したいって。」
「そうかあ、テレビ電話か…
お父さんずっと使ってないアップルウォッチあるぞ」
ここらへんは夢らしい、よくわからない。
ただ、息子が父とテレビ電話をしたいというのは本当で、父はアプリを入れられないし、やり方もわからないのでできていない。それが、気がかりな私がよく現れている。
アップルウォッチを渡して、父はでかける。
アップルウォッチはなぜかベルトが錆びていて、いかにも父らしく杜撰な方法で保管されていたことがわかる。
私はなぜかラーメンを作りながら、父にタブレットをあげたらテレビ電話できるかなあ、とぼんやり思っている。しかし、パソコンがあることに思い至り、後で設定しようと決める。
簡易コンロでぐつぐつ茹でられるラーメン。この辺り、記憶とは違う父の部屋。
掃除するために買い物行かなきゃ、という母を横目に、卵くらいないかなと冷蔵庫を開ける私。
中にはたくさんの薬袋。がんの薬だろうか。父らしからぬまめにふくろに分けて、整理されて入っている。その角の方で、いちごが干からびている。
「パパ、前より断然元気だね」
「そうなの、今のうち、あなたの子どもと夫に会わせたいのよね」
そうか、コロナも落ち着いてきたし、今なら、と頭にスケジュールを思い浮かべる。
そして、買い物のために母と家を出て、夢らしい意味不明な展開になり。
ハッと私は、急に夢だと自覚し、目を覚ます。
夢の中の父は元気だった。
でもガンだった。
この前会った時からまた会った時、という連続性もあった。
これは、私の願望だ。
強い願いだ。
父が元気で、こうあればいいと。
それに気づいて、横で寝る息子を起こさないよう泣きながら、今これを書いている。
それもこれも、きっと仕事がひと段落し、母と父の話をLINEでしたからだ。
介護度1だった、という。
要支援じゃなくてよかったねと言い合った。
介護ベッドのレンタルを考えていると母は言ったが、夢の中の父は普通のベットだった。
ああ、なんて夢は残酷なのだ。
記憶の中の都合のいいところだけくっつけて。
私の奥底の抱いてはいけない希望を、あんなにリアルに再現するなんて。
ああ、父に会いたい。
もう一度会いたい。
今すぐ飛んで帰りたい。
それをしない、自分が
やめよう。
電話しようか、どうしようか考え、父にショートメールを送る。
パパの夢を見たよ、愛してるよパパ。