Mリーグ 6位争いと実況者の是非

さすがにほぼ決まりでしょう

今日現在でTEAM雷電はレギュラーシーズンの全日程を終了。
残る8チームも各2試合を残すのみとなりました。
現在6位のEX風林火山は-114.9ptsで7位のBEAST Japanextは-299.1pts。その差は184.2ptsです。
レギュラーシーズン最終日に直接対決があるこの両チーム、BEASTがひっくり返すためには1-1がほぼマスト。その上で風林火山には4-4もしくは4-3(3-4を引いてもらわなくてはいけません。もしBEASTが1-2(2-1)ならば、風林火山には箱ラスレベルを2回引いてもらわないと難しく、さらにはBEAST1-1であっても風林火山4-3(3-4)ではひっくり返らないということも起こりうるため、さすがに風林火山の6位以上はほぼ決まりと言って差し支えない状況にあると思われます。

何のプロなのか

そんな中、最近はMリーグの名物実況者である日吉辰哉プロの実況の是非が話題になっていますね。
その発端となるnoteは拝見させていただきましたし言わんとしていることはわかるのですが、これをもっとロジカルに考えればその答えは見えてくるような気がするのです。

まず実況中に噛んだり間違えたりすることについて。
確かに噛まない方がいいし間違えない方がいいに決まっています。
しかしそこで考えたいのは、日吉辰哉プロを含めて麻雀実況をされている方々は何のプロなのかということです。

この方たちは麻雀のプロです。一方で比較対象として考えたいのは野球やサッカー、その他スポーツの実況をされている方々です。
その実況者はそのスポーツのプロではありません。アナウンスのプロです。
まずこの違いを認識する必要があると思うのです。

アナウンサーは概ね新人の頃に先輩アナウンサーからの指導を受けて、アナウンスのイロハを学びます。そして実際にその試合を見ながらの練習を経て
本番に挑み、失敗しながらも実践を積み重ねることによって成長していくものだと思います。

すなわち・・・

①アナウンサーとしての教育をしっかり受けて、噛みや間違いのないスムーズな発声で話す
②実況する対象の競技のルールを知り、それに付随する知識を豊富に蓄える
③いま実際に起きたことを的確に伝え、さらにそれがどのように状況変化すれば結果どうなるのかということを伝える

この3つが融合した時に、一般的に言う「良い実況者」というものになるのではないかと思うのです。
①は上記の通り先輩アナウンサーからの指導によって、②は実況する前の事前準備によって、③は実況する前の練習と実践における経験の積み重ねによって培われるものだと思います。

特に麻雀における③は、例えば「7ソーを引いて2, 5萬と3,6ピンのリャンメンリャンメンの一向聴 赤5萬を引けば跳満まである」とか、「6, 9ピン待ちのリーチ 9ピンなら満貫までだが、6ピンならば倍満まである 6ピン1山・9ピン2山で計3山」とか、「トップを取るためには満貫直撃か跳満ツモ上がり、他家からの出上がりならば倍満ないと届きません この配牌だと満貫も厳しそうだ」というようなMリーグの実況でよく聞く状況説明の一言です。

麻雀の実況者はどうでしょうか?
②と③は麻雀プロとしてある程度の歴を重ねてきている方々なだけに概ねできているものと思われます。
もちろんやっているのは人間なので、麻雀プロであっても③で間違うことはあるでしょう。しかしその間違いはルールや知識を知らないで起きているわけではなく、単なる勘違いによるものがほとんどです。日吉プロはその間違いが多いと指摘されることもあるようですが、これは鍛錬して間違いの回数を少なくする努力をしていただくしかないのでしょう。

決定的に欠けているのは①です。麻雀実況者の中にはアナウンス学校に通われたりする方もいるのかもしれませんが、いたとしても少数派でしょう。なので噛んだり言い間違えたりすることに対して文句を言ったところで、アナウンスの基礎を叩きこまれていない人が実況しているのだから、そりゃそうだろうと言うか、その文句は大して意味のないものだと思うのです。
中にはアナウンスの基礎を叩きこまれていなくても、噛まず間違わずで上手に実況する方がいるのかもしれませんが、それはその方がセンスのある方だということなのでしょう。

ではどう解決するのか。
麻雀実況者にアナウンスの基礎をアナウンスのプロから徹底的に学んでいただくか、アナウンスのプロ(THEわれめDEポンで実況している野島卓アナウンサーのような方)に実況していただくかの二択でしょうね。後者は野球やサッカーなど、多くのスポーツ実況と同じ原理となります。

その意味では1人有望な方がいらっしゃいますね。
日本プロ麻雀連盟の林美沙希プロです。
この方は麻雀のプロである以前にテレビ朝日の局アナです。よって①に関してはどの麻雀実況者よりも優れていると思われるので、あとは②と③で現在の麻雀実況の第一人者の方々に追いつけば、かなり無敵な実況者になれる可能性があると思われます。何と言っても①で他の実況者に対してアドバンテージを持っているのは大きいです。

これは日本プロ麻雀連盟が行う実況オーディションに向けての特訓動画なのですが、最終的にオーディションを受けることを断念しています。
この動画の中で講師役の大月れみプロから、特に③の部分での指摘が多く出ています。そして大月プロが指摘している部分はMリーグにおける日吉プロの実況で実際に行われている部分であり、これが「アナウンスのプロではないが実況のプロ」であるゆえんだと思います。
林プロがオーディションを断念したのは、その理由を語っているところから推測すると、③においてご自身の中で全然足りていないということを感じているからなのではないかと思うのです。

ギャーギャー騒ぐな 黙れ!

次に熱血型実況の日吉プロについてよく見かける意見は

「うるさい」

あくまでも私の意見にすぎませんが、これを言っている人の多くは麻雀をわかっている人、「麻雀村にいる自称俺は強い」の方々のように思います。
要するに「そんなこと言わんでもわかっているのだから、ギャーギャー騒ぐな 黙れ!」ということなのでしょう。

しかしそこで考えたいのはMリーグの存在意義とは何?ということです。

これも私の意見に過ぎないと言われればそうなのですが、日吉プロの実況は「この熱狂を外へ」を体現するものだと思います。
実際に日吉プロの実況をきっかけに麻雀に興味を持ち、Mリーグを見始めたという意見を私も多く見ますし、そう言っている人がいるよという意見も多く見ます。あの絶叫型実況は通りすがりの人が「何だ???」と一旦立ち止まってしまう力があります。
また初心者であれば、いったい今起きていることの何がすごいのか?そして今後どうなっていくことが予想されるのかということがわからない場合が多いはずです。
そんな時にあの熱血実況は、初心者にもわかりやすいスパイスのようなものになっていると思うのです。日吉さんがあれだけ叫んでいるのだから、何かスゲーことが起きているんだろうなと。

なので、「麻雀村にいる自称俺は強い」の方々の多くが求めていると思われる、単に麻雀が強い人が誰なのかを決めるコンテンツなのであれば、あの実況はただただうるさいだけなのかもしれませんが、ことMリーグにおいては新規顧客獲得と初心者のステップアップに多大なる貢献をしているものと思います。

さらにプロの競技麻雀は、基本的に静かなところで行われます。
客を入れているわけではないので、応援の声や歓声はありません。
聞こえてくるのは全自動卓の音、牌同士や牌と卓のぶつかる音、競技者の「ポン」「チー」などの発声、上がり時の点数申告くらいなもので、実況者と解説者がある程度高いテンションで話していかないと、映像的におとなしく地味なものになりかねません。これでは熱狂を外に伝えることができないと思います。

日本プロ麻雀連盟の黒木真生プロがこの「日吉問題」についてnoteを書かれていましたが、その無料部分(有料は読んでいないのでわかりません)に興味深い一節がありました。

日本プロ麻雀連盟会長である森山茂和プロが、実況担当者である古橋崇志プロと日吉辰哉プロに対して、大げさだと苦言を呈したとのこと。
これは前述の「そんなこと言わんでもわかっているのだから、ギャーギャー騒ぐな 黙れ!」に原理としては似ているように思うのです。
しかしそれに対して反論して、最終的には会長が折れて今に至っているというような話です。

何が興味深いって、まず会長に対して反論したということ。
私は企業に勤めるサラリーマンなので、社長に対して同じように反論できるのかと言われれば難しいなと。いや、納得できなければ勢いでやってしまうかもだけど・・・
またそれを受け入れた森山会長もすごい。

そして1番はこれが起きたのは黒木プロが言うには7年前だということです。
7年前が正しければ、Mリーグはまだ始まっていません。
しかしその時から古橋プロと日吉プロはいわゆる「この熱狂を外へ」を意識して実況されていたのだということです。この頃から麻雀村の外にいる1人でも多くの人に見てもらいたいという思いがあってのことのようです。
きっとその確固たる信念が森山会長を折れさせる要因となったのでしょうね。

伝えるべきことは何なのか

実況者が伝えるべきことで重要なことは

③いま実際に起きたことを的確に伝え、さらにそれがどのように状況変化すれば結果どうなるのかということを伝える

ということだと思うのですが、では3/21の第2試合が終了した時に日吉プロが言った「レギュラーシーズン通過の夢が途絶えたと言っても過言ではないような着順という結果となりました」はどうなのか?
私なりの結論を言えば「言って然るべきもの」だと思います。

まず「レギュラーシーズン通過の夢が途絶えたと言っても過言ではないような着順という結果となりました」という言葉は、日吉プロなりの「介錯」であるということは前回のnoteに書きました。私は試合前の雷電の楽屋での一連の流れからその言葉に至っているというストーリーが素晴らしいなと思っています。

次にこの言葉は「事実」か「日吉プロの解釈」か(「介錯」やら「解釈」やらで紛らわしいですけど・・・)と問われれば、これは「日吉プロの解釈」です。
なぜならばこの試合で6位以内に入ることがほぼ絶望的となったTEAM雷電ではあるものの、数値上まだ不可能ではないからです。もしルール上不可能なのであれば「事実」と言えます。
ではこの時点で雷電が風林火山を抜いて6位以内に入るにはどういう条件があったのかということを考えます。ひとまず他に競り合っているBEAST Japanextとセガサミーフェニックスのことは置いておいて、雷電と風林火山の2チームにおいてどうなのかということを書きます。

この時風林火山は-153.2ptsで雷電は-440.2ptsなので、287.0ptsの差がありました。
もし風林火山のポイントは現状維持という前提のもと、1試合で雷電が風林火山に追いつこうとするならば287.0ptsが必要なので、267,000点のトップを取る必要があります。
残り2試合で追いつこうとするならば、123,500点のトップを2回取ればOKです。
Mリーグの最高スコア記録は、赤坂ドリブンズの鈴木たろう選手が持つ112,800点です。過去に100,000点以上を叩き出したのは、たろう選手のそれを含めて4例しかありません。
1試合で追いつきたいのであれば、たろう選手のレコードの2倍以上のスコアが必要で、2試合で追いつくにしてもレコード越えのトップを2回とも取らなくてはいけないわけです。

もし雷電が残り2試合で1着2回、風林火山が残り4試合で全て4着になるとして、1着のポイントが60pts(40,000点トップに相当)、4着のポイントが-50pts(10,000点のラスに相当)が平均的であると仮定した場合、雷電は-320.2pts、風林火山は-353.2ptsとなるので追いつくことは可能です。
しかし雷電2勝、風林火山4ラスが起きる可能性は?と言われれば、あくまでも感覚的なことにはなりますが相当低いと考えられることは、これまでMリーグを見てきている方であればわかることだと思うのです。

さらにフェニックスの場合はどうなのかと言えば、雷電よりも2試合多く残していたとはいえ、順位は雷電よりも下で当然風林火山との差も雷電以上に大きいものだったので、同様に厳しいものであることはわかるはずです。

「いま実際に起きたことを的確に伝え、さらにそれがどのように状況変化すれば結果どうなるのかということを伝える」ということは、「いま実際に起きたこと」=事実であり、「さらにそれがどのように状況変化すれば」も未来に起こりうる事実であり、「結果どうなるのか」もその状況変化によって起きる事実であると思います。したがって伝えるべきは事実であると思うのです。

一方で日吉プロの言った「レギュラーシーズン通過の夢が途絶えたと言っても過言ではないような着順という結果となりました」は、「レギュラーシーズン通過の夢が途絶えた」はまだ可能性がゼロになったわけではないので解釈です。しかし「途絶えたと言っても過言ではないような着順」はその結果によって相当厳しく、よほどの奇跡が起きない限り実現は難しいということを表している言葉です。
数値上でもよほどの奇跡が起きない限り実現は難しいことなのは前述の通り。そう考えれば日吉プロのあの言葉は「限りなく事実に近い解釈」であると考えていいと思うのです。

よってあの言葉は解釈ではあるものの実況者として「言って然るべきもの」だと思っているのです。
サポーターの立場からすれば「そんなことを実況者のお前に言われたないわ!」と思うのでしょうし、騒動の発端となった方のnoteを見てもそういう趣旨のことを書かれていましたが、私は実況者が伝えるべきことを伝えたに過ぎない、ただそれだけだと思っています。

長くなりましたが、私は日吉プロの実況が好きで、あのスタイルで続けていただきたいなと思っています。①において確かに不足していると思いますが、それを補って余りある②と③があると思いますし、何よりあの実況スタイルが「この熱狂を外へ」に多大なる貢献をしていると思うからです。

なのでもし今後①が改善されるようであれば、他の追従を許さない圧倒的な実況者に昇華することになるものと思います。
あとは視聴者の好みの問題で、それでも好きになれない人はそうなのだろうからそれはそれで仕方のないことでしょう。

Mリーグの公式実況者3名は、三者三様でいいなと思っています。
もうすぐ始まるセミファイナル、そしてファイナルと各々の実況スタイルで楽しませていただけることを期待しています!






ここからは余談です。

私の父は某テレビ局のアナウンサーでした。
アナウンサーが家庭にいる環境で育ったので、アナウンサーが普段どんな準備をしているのかは実際に目の当たりにしていましたし、父が自主的に取材しに行くところについて行ったこともあります。
私はその道を志しはしませんでしたが、今回起きた日吉プロの実況問題はそんな環境に育った者として非常に興味深いことでした。

私の父は①にすごいこだわりがありました。
なのでちょっとした言い間違いや噛みなどに対して、テレビに向かってしょっちゅう文句をたれていました。
人間なんだから噛んだり間違ったりもあるだろうに、少しは許したれよと子供心に思っていましたけどね。
なのでもし父に日吉プロの実況を見せたら、「こんな奴失格」と言っていたことでしょう。

しかし時代の変化とともにアナウンスや実況のスタイル、言葉を使った表現の仕方は変わるものだと思います。そしてその場においてふさわしい実況というものもあるはずです。
もし日吉プロがニュース読みをしたら、さすがにあれだけ噛んで間違えれば一から勉強し直せのレベルなのでしょうが、ことMリーグの実況においては、素晴らしい実況者だと思っています。

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