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日吉辰哉は調子に乗っているのか(後編)

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【噛みたがらない】

 森山茂和日本プロ麻雀連盟会長と私、スタジオスタッフの三田晋也プロ、実況担当の古橋崇志プロ、日吉辰哉プロで話し合った。
 7年ぐらい前のことだったと記憶している。会長は、古橋と日吉の実況について「大げさすぎる」と苦言を呈していた。

森山茂和

「俺たちはプロなんだからさ、普通に止めた牌で『すごい』とか、普通に打ってアガってるのに『すごい』とか。すごいすごい言い過ぎだと思うよ。言いすぎると恥ずかしいし、レベルが低いと思われちゃうんじゃないのかな」

 会長の言いたいことも分かった。
 だが、すでに時代は移り変わっていた。だんだんと「言わずもがな」が通じない時代になっていくのが見えていた。「すごいもの」を「普通ですよ」と言っても、昔の人は「そうは言うけど相手はプロだし、奥に何かを隠しているのだろう」と勝手に解釈した。だが、この頃はすでに「能ある鷹は爪を隠す」という戦略が「損」になっていたのだ。

 日吉と古橋が珍しく会長に反論した。

 「僕たちも、大袈裟なのは分かっているんです。でも、こうやって連盟の自前のスタジオを作ってチャンネル運営をやっている以上、視聴者に訴えかけなければならないと思います。麻雀をちゃんと理解している視聴者ばかりじゃないので、どこが凄いのか、メリハリをつけてあげないとダメなんじゃないかと思ってやっているんです」

 会長の根本的な考え方は変わらなかったと思う。会長はチャンネルの視聴者を増やすことよりも「ちゃんとした麻雀の技術を伝えること」が大切だと考えていたと思う。
 だが、2人が生半可な気持ちでテンションの高い実況をやり始めたのではないことが分かり、とりあえずは「そこまで言うなら、しばらく君らのやり方でやってみなさい」と言った。
 三田によると、この時、私がかなり援護射撃したらしいのだが、正直、一切なにも覚えていない。

 とにかく、日吉たちの「やり方」は何とか認められた。

 彼らはプロ連盟の選手たちが打つ麻雀が好きで「絶対に世間に認めさせたい。見てもらえさえすれば絶対に面白いから、自分たちが視聴者を1人でも多くキャッチして、1秒でも長く対局を見させるようにしたい」と考えていた。
 そのためには何でも試してみたい。そんなチャレンジ精神にあふれていた。
 私はそれを「面白そう」と思って眺めていたが、一点だけ日吉には注意しておいた。

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