見出し画像

【アゼルバイジャン暮らしの日記】ヒンカリ、ドゥシュベレ、ギュルザ…餃子はシルクロードで旅をした。

2024年1月21日

長いドライブの車の中で、たくさん音楽を聴いて、歌も歌った(アラニス・モリセットとか、カーディガンズとか、オエイシスとか、クランベリーズとか。90年代!)。帰宅して、彼が大量の洗濯をしている間に、簡単に夕食に支度をする。アゼルバイジャンにも、冷凍のヒンカリがあったので、買ってみたものを茹でる。ヒンカリとは、ジョージアの巨大な水餃子みたいな料理で、中にたっぷりの肉汁の詰まっているのが美味しくて、ジョージア旅行の間にすっかり私たちの気に入った。それにサラダ、これは切ったきゅうりとトマトを、スヴァネティの塩というスパイスを配合した塩で味付け。ジョージアでは、ヒンカリを食べるときには、もりもりと山盛りにヒンカリだけをひたすらに食べるそうなので(中国の餃子みたいだ)、それに倣った。

ヒンカリにはついビールを合わせちゃう。

ほかほかのヒンカリは、まず黒胡椒をたっぷりかけてから、上のつまみみたいな生地の綴じ目の部分を手で持って、豪快にかぶりつくのが好き。これはジョージア人のお友だちが教えてくれたお作法。ヒンカリはね、手づかみでこうがぶっと、そして中のスープはこぼさないように吸ってね、と彼女はチャーミングに笑った。フォークとナイフで切り分けてぐちゃぐちゃにして食べるより、ずっと美味しい食べ方。だから、トビリシのレストランで、私たちはいつものようにもりもりと手づかみでヒンカリを食べた後、お皿を下げに来てくれたお店の方が「ジョージア人みたいに食べると感心して見ていたよ」、とにっこり声をかけてくれたことがある。美味しく食べる秘訣だよね、と言って私たちもにっこりする。黒胡椒をたっぷりかけて、と教えてくれたのは、スヴァネティの山のホテルの女主人。へとへとで辿り着いた私たちの遅い夕食に、ほかほかのヒンカリをたくさん出してくれた。温かい湯気と、朗らかな歓談と、たっぷり振る舞われたワインの、陽気な思い出。

さて、アゼルバイジャンのスーパーマーケットで売られていたヒンカリは、果たして羊入りだった。見た目も、中にたっぷり詰まったスープも、ヒンカリと同じなのに、味は牛と羊の合い挽きだから、どこかアゼルバイジャン料理風…羊肉が好きな私にとっては、これはこれで、美味なのだけど。今度は自分で作ってみようかな。

私のベストヒンカリは、テラヴィという町の丘の上のガーデンレストランのもの。

日本の餃子もそうだけれど、粉の生地で肉だねを包む料理は、シルクロードの隅々まで浸透していて、その特色を観察するのは興味深い。シンプルで安価に手軽に作れる家庭料理だけれど、それぞれ発祥の地があったり地方ごとに特色があったり、とバリエーションが豊富にあるのもまた楽しい。アゼルバイジャンにも、ドゥシュベレというごく小粒の水餃子みたいな料理(これはスープの実にする)や、ギュルザ(餃子にそっくり)があって、中のたねは牛と羊肉(と脂)を混ぜて乾燥ミントを入れるのが特徴。ギュルザは、茹でるか揚げて、ヨーグルトソースやアジカという少し辛いトマトベースのハーブソースを添えたりして食べる。こういう家庭料理を習うのは楽しい。家庭ごとに、独自のこつや特別なアレンジがある。

この冬ジョージアを旅したときには、残念ながら作り方を習う機会はなかったのだけれど、ヒンカリ発祥の地と言われている北部の山の地方にもでかけたので、あちこちのお店で食べ比べをしてみた。ヒンカリは、大別すると山のヒンカリと町のヒンカリがあるらしく、山のヒンカリは小ぶりで平らな形をしていて、中身は主に牛肉(と時々羊)で、しっかりした肉の旨味を味わうシンプルな味付けが特徴。それに比べて町ヒンカリは大きくてとんがり、豚肉も入っていてジューシー、コリアンダーの葉やスパイスが効いている。皮も、町ヒンカリのほうが、ちゅるん、とした食感。だがしかし、同じ山ヒンカリ、町ヒンカリのカテゴリの中でも、それぞれお店の個性があって、スパイスの効いた山ヒンカリもあったし、肉!という味の町ヒンカリもあったり、様々だった。ただとにかくどれも一様にすこぶる美味しい。いつか、ジョージアのお家に習いに行きたいな。

山のリゾートの洒落たレストランにて、夜食もヒンカリ。

実は、先述のジョージア人のお友だちの行きつけの、素敵なジョージアレストランがバクーにもあって、そこのヒンカリも絶品なのです。モニカさん曰く「ジョージアで出てきても美味しいと思うほど」なのだそう。確かに、スパイスとハーブの効いたジューシーな町ヒンカリタイプで、とってもおいしい。ただ、いつもは他のお料理も食べたいので、ヒンカリは前菜代わりに1,2個食べるだけだったのだけれど、次回の訪問にではメインに山盛りのヒンカリを頼んで、じっくりと味わってみよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?