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人生音痴 羊飼い編🐏🐑

『あぁ、もうすぐクリスマスだなぁ』
と感じる瞬間……第1位は
街に山下達郎のクリスマス・イブが流れ出した時。
では、第50位は?

サンタクロースがグラサンかけて
サーフィンしてるのを見かけた時。

ボクは全くクリスマス感のない夏の12月を南半球で過ごしていた。

 
 ボクの地元は京都。とは言うものの京都人から
「そんな所京都やおまへん」と言われるほどの田舎だ。
 
 そんなボクでも田舎に感じるのが、
ここニュージーランド。とてつもなく美味い空気。
空気にも味があることをこの時に知った。
田舎レベルは、
お隣さんが全くいなくて隣の家まで8キロ。

世界一の自然を誇る大草原の中で羊と共に過ごす日々。

 起床時間は大先輩の太陽が起きはるより前の4時半。
先ずはミルクを研いで仔羊達に与える所から1日が始まる。ボクが起き抜けにミルクを持って、まだ暗い中をダラダラと歩いて外に出ると、ピョンピョンと飛び跳ねながら走って近寄ってくる。
どうやったらこんなブサイクな動きになるんだ、と思いながらも仔羊のヘンテコな走り方に心が癒される。
 
ボクは高校生でありながら羊飼いである。
この話をすると「ペーターやな」と言われるが、あれはヤギだ。

 不良で問題児とされていたボクは、日本の高校を退学となった。校長先生と喧嘩をしたからだ。
喧嘩の内容は、自転車通学で傘差し運転をしていたか、していなかったか、で揉めた口喧嘩。
日頃から目をつけられていたボクは、ここぞとばかりに退学処分となった。
ただ本当に差していなかったので、未だに腹立たしい。
 
その後、転校先を探すも受け入れてもらえる所もなく「ウチならオッケーですよ」と受け入れてくれたのが、南半球だったのだ。
 
 最初はよく首都と間違われるほどの都会、
『オークランド』に住むこととなった。
が、ここでもピーーーーーで、ピーーーーだったので、結局ホームステイ先も8軒ほど
移り変わり……ピーーーだ、、、割愛させて頂きます。

 再び転々とした結果、唯一、受け入れてくれた先が、
南半球を更に南に進んだダーフィールドという田舎町。
 そこでファームステイといって働く変わりに住ませてもらえることになった。

こんなボクを受け入れてくれるほどのホームステイファミリーは、やはり優しさとクレイジーさの両方を持ち合わせていて、父親は見た目も中身もシンプソンズのホーマーにそっくりで、母親の方は恰幅も良くいかつい……髪の毛の長いレイセフォーだった。
実際に顔面にタトゥーは入っていないもののマオリ族の血筋らしい。
そんなホーマーとマオリの家でお世話になることとなった。

 住めば都でここでの生活は特に不便はなかったが、
田舎の中でも田舎の方に住むボクの区域には、スクールバスが走っておらず、まずは幼稚園バスに迎えに来てもらって、園児と一緒に高校のスクールバス乗り場まで行かなければならなかった。
お陰で幼稚園児の友達ばかりが増えた。
 
 学校から戻るとすぐに羊飼いの仕事を再開。
放牧させたり、毛を刈ったり、出荷する何匹かをトラックの荷台に積んだり、とこれらが基本の仕事。
 他の国では、遊牧がメインで、山小屋に寝泊まりしながら、半年ほど移動するらしい。
そこにはもちろん、オオカミやヒグマといった天敵も現れる。それらから羊を守りながら放牧する。
(羊を天敵のオオカミから守れ、と言われても、人間にとってもオオカミは天敵のはず……)
そこで羊飼いは基本シェパード犬を連れている。
そもそもシェパード・ドッグ( Shepherd Dog)とは、羊飼いの犬と言う意味だそうだ。
 


だが、


なぜかボクのバディはシーズーだった。

顔も見えないほどに伸びきった髪の毛はドレッドヘアみたいになっており、もはやモップにしか見えないシーズー。


しかも3匹も。


 羊の誘導は自分でするのではなく、ほとんどを犬がやってくれる。人間が先頭を歩き、バディである犬が後方から羊達がはぐれないようにする。
羊達は動物なのに方向音痴らしい。まさに迷える仔羊。
しかし、それらを上手くまとめてくれるのが犬の役割だ。優秀な犬だと、羊の上を颯爽と走ったりもする。
かっこいい。

それに比べてボクのモップ犬たちときたら、羊を誘導する間、楽しそうにずっと3匹がクルクルとマリオカートの亀の甲羅のようにボクの周りを回り続ける。
羊の調教よりも犬の調教の方が難しい。

それを見かねたホーマーは
「そんなこともできないのか」と呆れて笑う。

飲食店なんかで店長が、アルバイトの高校生に向かって
「お前そんなことも出来ないなら、皿でも洗っとけ」
と怒号し、雑用に回すことがある。

羊飼いの世界にも雑用が存在した。
「お前そんなことも出来ないなら、走ってくる馬でも止めておけ」だった。

ん?走ってくる馬を止める??

出荷や移送など理由は様々だが、馬を今いる倉庫、ゲージから出して、他の場所に移すことがある。
ホーマーは少し先の倉庫まで車で移動するとゲージを開いた。
するとそこから6頭ほどの馬が駆け寄ってきた。
その日、一緒にいたファーマーたちが
「こうやって、両手を広げて自分を大きく見せるんだ」
と両手をバタバタと上下に振ってみせた。
そうすると馬は自分より大きな生き物にびっくりして止まるから。と笑って話してくれたが、ボクがバタバタと両手を広げた所で馬の足元にも及ばないほど小さい。
駆け寄ってくる馬を見てそれは確信へと変わる。

馬が全力でこちらに走ってくる!

(無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理)

ボクは両手をバタつかせながら徐々に後方へと飛び立った。

その日は仲間のファーマーのお陰で無事、馬を移動できたが、もう二度とやりたくない。

 それからというものボクは必死に羊を追いかけた。
羊の群れがバラバラにならないように、群れから離れそうな羊がいたら、すぐに走って追いかけ群れに戻した。
周りをクルクル回るモップ犬たちを踏まないように気を配り、ボクはピョンピョンと飛び跳ねながら走った。

 
 ある日、ボクがせっせといらない草をむしっていると珍しくマオリから作業中に注意を受けた。
「あのね。羊の近くで作業する時は、あまりしゃがまないようにね」
マオリが言うには、しゃがんでいると威嚇していると勘違いされ、羊が頭突きを喰らわしてくることがあるらしい。

羊は戦う時、互いの頭をぶつけ合う。


カーーーーーーーンッ。


とぶつかった瞬間、金属音のような音が響きわたる。

これが予想以上に強烈で
以前、1人のファーマーが膝小僧に頭突きを喰らい、
膝の皿が割れたらしい……。
そんなものを不意に頭に喰らうと最悪、頭蓋骨骨折だ。
少なくとも脳が揺れて『脳震盪』を起こすから気をつけるように、と釘を刺された。
こんなに強そうなマオリが言うのだから、これは細心の注意を払おうと肝に銘じる。

その日の夕食どきにホーマーが
「あれはもうすぐ産まれるな」
と気もそぞろに話し出した。

どうやら羊の赤ちゃんが産まれるようだ。
ボクも様子が気になり夕食を急いで掻き込んだ。
因みにニュージーランドの主食はイモの練り物だ。
全く味のしないイモの練り物に、ボクは塩やソースをかけて誤魔化した。
まさか、今後の人生でも練り物と長い付き合いになるとは、この時は知る由もなかった。

ホーマーと様子を見に行くと
「ほら、あそこのアイツだ」と顎で差し教えてくれた。 
日も沈んでいて、遠くなので良くは見えなかった。

その夜、ボクは興奮してベタに修学旅行前夜のように中々寝付けずにいた。

早朝、真っ先に外を見に行くと
「メ''ェ''〜メ''ェ''〜」と産声をあげている。

「あっ、産まれてる」

ボクは一人感動して赤ちゃんを遠くから眺めていると、母親であろう羊が産まれたての仔に向かって、事もあろうに頭突きをし始めた。



『育児放棄』だ。


原因はまちまちだが、たまにあるらしい。

(これはヤバい!!助けないと!!)

ボクの中の母性が叫んだ。
しかし、どうやって助けよう……

先日、頭突きには気をつけろと教えられたばかりだ。
でも、迷ってる時間はない。
とにかく止めないと、と仕切りに頭突きで我が仔に攻撃する母親目掛けて石を投げつけた。

(やめろっ!こいつめっ!)

なんとか止まってくれ、と願いを込めて。
しかし、なかなか石は当たらない。

すると「どうしたの??何があったの?!」
とマオリがこちらへ駆けつけて来てくれた。

(あぁ、良かった)
と一瞬、胸をなでおろすも
「母さん、あれ見て!仔羊が産まれんだ!
でも、なぜだか母親が攻撃してるんだ!!」
と矢継ぎ早に説明し
「やめろっ」とまた石を投げた。

すると、マオリも
「やめなさいっ!」と怒りを表した。

「そうだっ!やめろっ!」
とボクも勢いづくが、石はなかなか上手く命中しない。

「やめなさいっ!!」
マオリもさっきより興奮しだした。

その間も親羊は攻撃を緩めることはなかった。

「クソッ!やめろっ!」
とさっきよりも大きめの石を手に取った。

「もうっ!やめなさいっ!!!」
と怒号するマオリに、『次こそは!』とアイコンタクトを送ろうとしてハッとした。

振り返るとマオリの怒りの目はボクに向けられていた。

「あなた、石が当たったら羊が怪我するでしょ!!」
と言うセリフと同時に、パチッンとビンタを喰らった。
マオリの「やめなさいっ!」
はボクをタグ付けしてたんだ。

マオリは、ほぼレイセフォーだ。別名、南海の黒豹。
そんなマオリの渾身の平手打ちがボクの顔面、
なんなら顎に入った。

もちろんボクは衝撃で脳が揺れて『脳震盪』で倒れた。

大事には至らず、すぐに復活は出来たものの。
マオリは一日中、機嫌が悪く理由を説明しても、謝っても、その日は許してもらえなかった。

その夜。
反省しなさい、と食卓にボクの夕食はなかった。



ホームステイマザーの育児放棄だ。


【あとがき】
最後まで読んで頂き有難う御座います。
10代も20代も30代も
変な人生を送ってますが、これで皆さんに少しでも笑ってもらえれば何よりです。
変で良かったな。と思えます。
今後も人生を選択する時には、
正しい方よりも楽しい方を選べる人間であれるよう生きていきます。

感想、いいね、など頂けると有難いです。
では、最後に1つだけ、羊飼いあるあるを。

「寝れへん時に羊を数えても全然寝れへんけど、
羊飼いをしてる時に実際数えてたら寝てしまう。」

寝れない時に羊を数えるのって
SLEEPとSHEEPの語呂合わせ的なことみたいね。
SHEEPがSLEEPに聴こえて脳を洗脳する。
英語でやらないと意味がないみたい。

だから、日本の場合は〝ねるねるねるね〟を数えた方が寝れると思いまっす。

ではでは、メ''ェ〜リークリスマス🎄🎅🐑🐏🎄

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