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「光る君へ」メモ 第10回「月夜の陰謀」一緒にいられないふたりだから関係する

「まひろと道長の愛憎にまみれた婚外関係」、一線を超えるの、意外と早かったですね。
「大河ドラマ異例のディープなラブシーン」みたいな感じで取り上げられていたけど、フィジカルなシーンはどうでもいいんです、本質的には。
見てる側としちゃ、あって困るもんじゃないけど、ないならないで脳内でいくらでも補えるしね。(妄想力に不足なしw)

みなぎったのは、月夜の逢瀬に行きつくまでのプロセスですよ!
あんな情熱的かつソリッドな恋文の応酬をドラマでやるの、めちゃくちゃレアじゃない?

互いに詩集から引いているのがロマンチックだし、互いに思いはみちみちているのに微妙に噛み合わないのがまた、恋の燃料になって。
噛み合わなさをいちいち説明しないのがすごくいい!
視聴者もふたりと一緒にモヤモヤして、恋のかまどに火をくべちゃう。

道長
「そなたを恋しいと思う気持ちを隠そうとしたが、俺にはできない」

まひろ
「これまで心を体の下僕としていたのだから、どうして一人くよくよ嘆き悲しむことがあろうか」

道長
「そなたが恋しくて死にそうな俺の命。そなたが少しでも会おうと言ってくれたら生き返るかもしれない」

まひろ
「過ぎ去ったことは悔やんでも仕方がないけれど、これから先のことはいかようにもなる」

道長
「命とははかない露のようなものだ。そなたに会うことができるなら命なんて少しも惜しくはない」

まひろ
「道に迷っていたとしても、それほど遠くまで来てはいない。今が正しくて昨日までの自分が間違っていたと気づいたのだから」


古今和歌集を引く道長は、一貫して
「好きだ好きだ会いたい好きだ会いたい会えないと死ぬ」
しか言ってない。

古文の授業でやったとおり、「見る=会う=契る=男女が関係する」なのでね。会いたい、ってそういう意味だよね。
対するまひろは陶淵明の漢詩を返す。
いやまじで、まひろめちゃくちゃかっこよくない???
知性と教養がみちあふれている。

温厚な行成は「珍しい女子ですね…」的にお茶を濁してたけど、ここに公任か斉信がいたら「恋歌に漢詩で返すなんてどんだけ興ざめな女だよ。百年の懸想も醒めるわ。教養マウントか?オタクか?」ってクソミソにdisるとこだよ。
(源氏物語のかの有名な「雨夜の品定め」ですね)

まあ実際にまひろは漢詩オタクなんだけど、そんな素顔を含めて、メロメロに惚れてる道長ー! ある種の理想の男子やん。
しかも、毎回ドキドキして手紙をひらきつつ、漢詩は苦手だから、意味はよくわかってないという。かわいすぎる‥‥!

視聴者にもまひろの漢詩の意味はよくわからないんだけど、道長の好き好き一本槍に対して一歩引いているというか、同じトーンで答えていないのは感じられるよね。
行成に「漢詩は志を込めるもの」とアドバイスされた道長は、まひろの返歌(詩)を駆け落ちの意思だと解釈。

まんをじして
「我もまた君と相まみえんと欲す」
と、「悪筆で用件のみ直球」レターを繰り出す。

「えーっと、そうじゃなくて‥‥」と、まひろは思ったはずだ。
「好きだ好きだ会いたい好きだ会いたい会えないと死ぬ」という道長の歌(一首め)を見て、「あの人の心は、まだあそこに‥‥」と、直秀を葬った鳥辺野を思い浮かべたまひろ。

「つらいのはわかるけど、前に進んでほしい。直秀のような横死がおこらないよう、道長だからできることがある」
と、その思いを込めて漢詩を送っていたんだよね。
それでも「とにかく会いたい」という道長の熱情に応えずにいられず、夜に駆けるまひろがいて‥‥

念のため
「会う=関係を結ぶ」、つまり「相まみえんと欲す」には
「やりたい」の意図が含まれているので、会いに行った時点で性的同意が確認されていると解釈して良いと思います。
まひろが到着するやいなや、道長が背後からかき抱き、激しくくちづけるのはそういうことです。

「海の見える遠くの国で一緒に暮らそう」と、あの日の直秀と同じことを、直秀の何倍もの情熱で言いつのる道長。
けれどまひろは頷かず、道長にしかできない使命を果たすよう求める。

ここのまひろ、一生愛する!!!

日本のドラマで、女子からの愛の告白でこんなに感動したのは、
朝ドラ「なつぞら」のなつ(広瀬すず)→坂場(中川大志)以来じゃないだろうか?

「鳥辺野で、泥まみれで泣いている姿を見て、以前にもまして道長様のこと好きになった。前よりずっとずっとずっとずっと好きになった」

「だから帰り道、私も「このまま遠くに行こう」と言いそうになった。でも言えなかった。なぜ言えなかったのか、あの時はよくわからなかった‥‥。でもあとで気づいた」

「2人で都を出ても世の中は変わらないから。道長様は偉い人になって、直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないように、よりよい政(まつりごと)をする使命があるのよ」「それ、道長様も本当はどこかで気づいてるでしょう」

はぁーセリフも良いし、吉高由里子の演技最高‥‥
うまいとかへたとか通り越してエモい。強いけど柔らかい。頼りないけど芯がある。

道長が自分にぶつけてくる熱烈な恋情は、直秀の死がもたらす喪失感と罪悪感の代償行為なのだと、文のやりとりのときから、まひろは一貫してそう思ってるんだよね。
喪失感と罪悪感を拭うには、政治の実権を握って世の中のシステムを変えるしかない。
道長はそれをなし得る家系に生まれている。けれどそれはもちろん大変な仕事だから容易には向き合えなくて、直秀を共に葬ったまひろへの恋情にすり替えようとしている。

まひろ、紫式部すぎる!!!(紫式部です)

心理学と、三郎道長という人間の理解、道長(ボンボン)と駆け落ちして幸せになるイメージがもてない世間知、そして社会正義への志。
それらが、道長からの真摯熱烈な求愛を拒んでしまう。

まひろの見立ては正しいの。悲しいくらい正しい。
でも、恋ってそういうもんなんよ、直情や逃避や代償行為を含むものなんよ。そんなの気づかず、押し流されるのが恋なんよ。
まひろはそれができないから、道長の女でなく、紫式部になるんだよね‥‥

まひろの言葉に、激しく反発する道長。
「俺はまひろに会うために生まれてきたんだ」
「まひろと生きていくこと、それ以外に望みはない」
「心を決めてくれ。父と弟を捨ててくれ」
「まひろは子供の頃から作り話が得意であった。今言ったことも偽りであろう」
どれだけ言葉を連ねても、本当はまひろの言うとおりだと気づいている。
‥‥と感じさせる、柄本佑の芝居もさすがです。

だから二人は関係する。二人きりの逢瀬でも、まひろと道長の間にはどこまでも直秀がいる。
リビドーなんだよね。エロス(生)とタナトス(死)、両方の衝動の発露としてのセックス。
私がめちゃくちゃ好きなやつです!!!!!
やらずにいられない、やらないと先に進めないの。

母が殺された月夜
まだ“謎の男”だった直秀が「三郎は無事だ」と伝えにきた月夜
母は道兼に殺されたのだと道長に打ち明けた月夜

あのとき、直秀も一部始終を見ていたよね。
その夜と同じ場所で道長と結ばれるまひろ。
月の光を浴び、死の深淵をのぞきながら生の律動を感じて‥‥
今夜も「約束の月」なんだよね。

事後、涙を流すまひろ。
「振ったのはお前だぞ」
「人は、幸せでも泣くし、悲しくても泣くのよ」
「これはどっちなんだ?」
「どっちも。幸せって悲しい」

“比喩としての死”のために結ばれたこと
それでも愛おしい人と結ばれた幸せ
けれど結ばれた記憶が刻まれたからこそ、この先つらくもなること
幸せは長続きしない
だからこそ幸せが最大化される

好いた男性と過ごす夜が初めてでも、わかってしまうんだよね、賢すぎるまひろには。対して、全然わかってない道長ー!ばかばかばかー!だが、そこがいい!!!!!

「送っていこう」
「また会おう、これで会えなくなるのは嫌だ」
わかってないから言えることなんよ。100点満点。
だから、「そうね」とも、「ありがとう」とも、まひろは言わない。

でも「また会おう」「会えなくなるのは嫌だ」と、まっすぐでしかない言葉を言える道長ぁぁぁ

「君の中にあるもの 距離の中にある鼓動」
by 星野源(唐突)

距離があるから恋で、距離を埋めるために関係して、鼓動を感じるからますます恋するんだよーーー!!!
寛和の変こと花山天皇の出家もおもしろかったんだけど、さすがにいったん終わりますね長すぎる。

2024.3.15 wrote


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