「虎に翼」メモ 第10週「女の知恵は鼻の先?」
優三さんはとことん良い人だったが、戦後の“狭すぎる”司法界の男性たちは戯画的でありつつそれぞれクセがあっておもしろい。
女子法科を作り、女性弁護士の誕生に尽力しながらも、妊娠・出産した寅子に対しては終始パターナル(※)に振る舞う穂高教授。
(※パターナリズム‥‥強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること。父性主義、父権主義)
寅子に裁判官の資質をいち早く見いだしながら、期待を裏切られるのを避けようとするかのように、頑なな態度で接する(しかし内心の期待がにじみ出てしまう)桂場。
そして、戦後リベラルを推進するため、寅子に「女性の声」を代表させ、その突破力に期待を寄せるライアン。
いずれも憎めない人物造形だけど、寅子の傷には無頓着なんだよね。
寅子の「はて?」が復活するまでの過程、胸がじくじく痛んだ。
長いブランクを経てやっと見つかった仕事。しかも、今は一家の経済を担う立場だ。波風が立つのを避けようとして、どうしても「スン」としてしまう。
(ライアンは別として、)女性が「〇〇さんも結婚・出産して謙虚になったね」などと言われるとき、普通そこには「やっと大人になったね」「かつては生意気だったよね」という揶揄や軽侮、あるいは上から目線の評価が含まれる。
かつての同級生、小橋のリアクションがこれだ。
しかも、寅子がおとなしく振る舞ってしまうのは「周囲からの評価」を気にしているからだけではない。
自己決定して弁護士をリタイアした以上、女性議員たちと同じようにまっすぐに意見を述べて戦う資格が自分にはないのだと思いこんでる。傷は深い。
実際のところは、ただでさえ数少ない女性弁護士が自分ひとりきりになったことで、仕事が増えプレッシャーも感じ、加えて妊娠中の体調や、母親業への専念を勧める周囲の空気がダメ押しになって辞めたのが実状。
自己決定したようで、その実は環境によって「させられた」面も大きいんだよね。
女性が自分を卑下するメカニズムのひとつだと思う。
ここでおもしろいのは、またもや寅子を司法の世界から排除しようとした穂高の行為が、結果的に寅子の「はて?」を復活させたこと。
久々の「はて?」に目を剥く松ケン桂場の顔が良い。めちゃくちゃ喜んでるじゃん(笑)。
穂高も桂場もライアンも、悪い人じゃないが、本質的には寅子の味方でも理解者でもない。むしろ、遠い関係ではないからこそ、時には人一倍踏みにじり、傷つける。
それでも、家制度を強固に主張し続ける神保のごとき重鎮に対して、穂高のような男性たちの存在は大きい。
「怒り」の大切さを描いたシーンでもあった。
「北風と太陽」では太陽のほうが効果的なはずだけど、寅子に「はて?」を言わせたのは、ライアンの太陽政策(←何でも言いなさい、と寛容に促す)ではなく、穂高が吹かせる北風だった。
怒りはネガティブなものとして扱われがちだが、それは人を立ち上がらせる駆動装置にもなるのだ。
ただし、怒りは我を忘れさせるので、コントロールが必要。
穂高の余計なお世話に思わず「スン」を忘れて激高した頭を冷やすため、ベンチに座って一人、新憲法の条文を唱える寅子の姿に泣き笑いしちゃったよ。
「カッとなったら6秒ガマン」よろしく、憲法がアンガーマネジメントに用いられている(笑) 。
同時に、この憲法がどんなに力を与えてくれるものだったかが伝わってきて胸が熱くなった。
実際、この条文が本当に良いんだよね。
私は以前から13条1文めの簡明さが大好きなんだけど、12条と14条もいいですね。
憲法の条文が読み上げられ、家制度・戸主・家督相続がバッテンで消され、
「どうして男性は封建的な家父長制にしがみつきたいのかしら」
「古きよきなんて、明治時代から始まった決まりばかりじゃない」
「女性たちを縛りつけておきたい、の間違いでしょ?(笑)」
と失笑してる女性たちの姿が描かれる朝ドラ。すばらしすぎる。
問題は、75年以上経っても、神保教授の言う「古き良き家族観」はしっかりプレゼンスがあり‥‥
というか、今現在もドンピシャその思想で政権運営されていること。ドンピシャが死語なのはわかってます。
であれば、私たちがすべきことは、憲法12条にあるとおり「不断の努力」でしょう。
「日本国憲法は敗戦後アメリカに押し付けられたもの」
と言われることがあります。
私も、日本はアメリカの属国だよなー、と基本的には思ってます。
でも憲法は、GHQの強力な圧力があったにせよ、穂高やライアン、何より女性議員や寅子のような人々が多くの市民の声を代弁し、尽力してできたもの。今作を見ているとそのことがよくわかる。
そして、第12条は「国民の不断の努力がなければ、自由と権利は失われてゆく」ことを先人が知っていたからこその条文で、私たちは今こそ努力しないと大変なことになりますよね。
もう遅いかもしれんけど‥‥
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