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インタビュー:中村洋子さん ~ まさか私が更年期障害

ある日のこと。香蘭女子短期大学 保育学科で学生たちを教える中村洋子さんから「私の絶不調について記録してくれませんか?」とご連絡をいただきました。
アクティブでポジティブ、いつもエネルギッシュなイメージの洋子さんに何が? ちょっと緊張しながらお訪ねし、うかがったお話です。

聞き手:イノウエ エミ (2021年12月取材)

◆ それは徐々に忍び寄っていた

―――前回、2019年2月にインタビューさせていただきました

3年近く前ですね。思えば、そのころすでに絶好調ではなかったかもなぁ。
長いあいだ離れていた常勤にやっと戻ったものの、昔のように勢いでガッといける自分ではなくなっていて。

―――短大の先生というご本業のほかにも、多世代交流の場「バー洋子」や「未来の運動会」などアクティブに動いておられたころですが‥‥。

そう。だから「自分は大丈夫」「大丈夫だと思われているはず」「それをキープしなきゃ」という感覚もあった気がします。そんな必要なかったのにね。
その後、コロナ禍になって立ち止まらざるを得なくなりました。

―――いやがおうにも、ですね。

最初の頃は登校できなかったので、授業の動画や、家でできる課題を作って出していました。一部登校が可能になってからも、密を避けるため、1コマ90分の前半は対面、後半はオンラインというような交替制にしたり。

このような状況でどうやって学生と信頼関係を築いていくか、どうやって学んでもらうか、悩みながらの日々でしたね。
正直なところ、「今はこうするしかないけれど、これでいいの?」みたいな。特に、実技科目ではできないことが多かったので‥‥。

―――学生さんも先生も、ほんとうに大変でしたね。

そうはいっても、もっともっと大変な方もたくさんいる状況ですし、ごはんを食べられるだけでもありがたいと思っていたんですが、そのうち、どうにも体調がおかしくなってきたんです。

◆「一歩目」が出ない

去年の秋口ぐらいからかな。朝起きて立ち上がっても、一歩目が出ないんですよ。

―――え? 気持ちが乗らないということですか?

というより、ほんとに出ないの。関節の問題? 歩き始めるまでにものすごく念入りなストレッチが必要で。

寝ていても、胸のあたりがギューッと痛くなる。みぞおち? 心臓?
「イタタタタ、これ何だろう? まずいかも。こんなこと誰にも言えない。あれ、何で言えないんだろう?」みたいな。自分でもわけがわからない。

鍼の先生に「背中がぱんぱんに腫れてますよ」なんて言われながらメンテナンスしてもらったりして、細~い糸が切れないように、なんとかかんとか帳尻を合わせていました。

―――なんとかかんとか、ですね。

これまでの経験値でこなせる仕事はいいんですよ。たとえば「公民館で親子向けの体操教室を50分」のようなご依頼とか。「またぜひお願いします」なんて喜んでいただけると「よかった、まだ大丈夫だ」とホッとして、なんとか自己肯定感を保っていたんですね。

◆ ミスを散発、ついに‥‥

ところが、新しいことやクリエイティブな仕事となるとつまづくんですよね。

馬力が出ないというのかな。もともと、締め切りギリギリにがんばるタイプなんですよ(笑)。ふわふわ、モヤモヤと頭の片隅で考えていたことを、締め切りに照準を合わせてギューッと絞っていく。その「ギューッ」がきかなくなっちゃった。

―――以前のような集中力やエネルギーがないんですね。

とにかく集中できなくて、ぼーっとしてる。「いかんいかん」と思うんだけど、頭がはたらかないんですね。

ちょこちょことミスもありました。
小さなミスは「おたがいさま」という感じで同僚と助け合えるんだけど、あるとき、ついにとても大きな失敗をしてしまったんです。

―――ああ~(泣)。

仕事上のことなので詳しい内容は話せないんですが、そのときのショックといったらなかったです。「頭が真っ白になる」ってこのことか、という感じ。
そのとき自分がどんな反応をしたのか、何を言ったのかもよく覚えていないくらいです。

―――うう、胸が痛い。

なんだか最近ダメだな‥‥と自信をなくしていたところで、この決定打。「なんとかごまかしてきたけど、ついにメッキがバリバリ剝がれちゃった。こんなに迷惑をかけてしまって、私、もう無理だ」
とポッキリ折れつつ、どこか取り繕おうとする自分がいるような気もして、そのことにもびっくりしました。「私にも歪んだプライドみたいなものがあるんだな」と。

◆ そうか、これはアレだったんだ

―――その日、それほどショックを受けながら、無事に家まで帰れてよかったですね‥‥。

それが、家にたどりつく前に、「ちょっと待てよ」と思ったんですよね。
体調が悪い。仕事ができない。関節がカクカクする‥‥。
なんかこういうの知ってる。これはアレじゃないか?って。

―――アレ、というと?

「更年期障害」。
体育の教員なので、教える側として話すことがあるんですよ。
「個人差がありますが、いろんな不調で悩む方もおられます」と。

―――あ、更年期‥‥!

思えば、「そうかも?」と何度かチラついたような気もするけど、スルーしてしまってた。生理の周期や生理痛で悩んだこともほとんどなかったからか、「まさか自分が」と無意識に打ち消してたんですよね。

それが、ショックでばたーん!と倒れた瞬間に、スポーン!と何かが抜けて閃いたというか(笑)。

―――これはアレだ! と。

それで、家の手前で車を止めて、友だちに電話して話したんです。
そうしたら、案の定「あ~わかるわかる。更年期よ、それ」って(笑)。

―――あっさり(笑)。

「洋子さん、あと一年ばい、それ」と根拠のないお告げももらって(笑)。
その場では「こんなに大変なのがあと一年も続くの?」と悲鳴を上げたけど、とりあえず終わりがあるんだなと思えたのが大きかった。

―――大事ですよね。ずっと先でも、トンネルに出口があるんだと信じられること。

以前から知っている先生のところに行って、処方してもらった薬を飲むようになってから、だいぶ落ち着きました。「終わりがくる」と思ったら「終わろう」とする自分が出てきたんですよね。

―――前に進もうという気持ちになれたんですね。

◆ 更年期障害は “ 濡れた大木 ” 

―――更年期障害だと気づいて、受診して落ち着いたのがいつごろですか?

10月ですかね。

―――えっ、そんなに最近?! (注:インタビューは12月に行いました)
だいぶ長い不調だったんですね‥‥。

実は、この3年で急激に太ったの。なんと8キロ! そりゃ股関節も痛くなるわけよ。
筋肉じゃない8キロ増って、すごいですよ。洋服のサイズが変わってしまう。自分の背中を見て「えっ、誰これ?!」と驚愕。

―――ああ~。落ち込みますね。

そういうのも自信をなくす原因なんですよね。

で、「これはまずい」とは思うものの、痩せようという努力ができない。歩こうと思っても続かない、むしろ起き上がれない。授業がない日はゴロゴロゴロゴロして、いろんなことがめんどくさく感じちゃう。
「前はこんなことなかったのに、本当にダメ人間になっちゃったのかな」と思ってました。

―――つらい(泣)。

濡れた大木みたいなんですよ、更年期障害って。

―――濡れた大木? 

びっしょびしょなの。ちょっとやそっとじゃ火がつかない(笑)。

―――中まで湿ってるんだ(笑)。

そう、だからまず乾かさないと。よく日のあたるところに置いといて、完全に乾いたら加工しやすいかもしれません。立派に育った大木だから(笑)。

―――すごいたとえ(笑)。

今思いつきで言ったけど、けっこう使えるな(笑)。覚えといてください、「更年期障害は濡れた大木」。

―――ここ、テストに出ます(笑)。

あ、最近、ホットヨガに行き始めて、2キロ痩せました! でもあと6キロある(笑)。

◆「わたし」にも受援力が必要だった

―――先ほど「歪んだプライド」という言葉もありましたが、ご自分の失敗やパワーダウンについてなかなか受け入れがたい部分があったのでは? 年齢的にも実績の面からも、自負心をお持ちなのは当然だと思います。

私の場合、ハンディキャップをもつ次女を育てる中で、子育てに関しては人の助けを素直に受け入れられるようになりました。彼女が小さいころから高校生になった今に至るまで、それはもうたくさんたくさん助けてもらってきましたから。

でも、自分のこととなるとちょっと違ったんですね。「元気な私でいたい」「弱さを見せたくない」という気持ちがあったと思います。

―――最近読んだ上野千鶴子さんの本に「自分の弱さを認めるところから始めなさい」と書いてあったんですが、なかなか難しいですよね。

そう。難しいけれど、受援力が必要ですね。援助を受ける力。

最近、短大でも、助手の先生に「これ、おまかせしていい?」と言えるようになりました。報連相だけしてもらえばいいから、と。もともと人を育てるのは得意なんです。

―――若い先生の成長をサポートしつつ、自分も楽になるという。

何でも自分でやらなきゃと我を張るのではなく、人に頼ったり、手放したりが大事ですね。断捨離も進めています。

―――ご家庭のほうはどうですか?

いい感じなんです。家事全般できる長女が頼もしいのはもちろんのこと、次女もごはんを作れるようになり、ここへきて夫の家事力もアップ(笑)。うちでは次女の体調が最優先になることが多かったのですが、私や長女も「今、きついの」「お願い」と言いやすくなりました。

私が弱くなったからこうなったのか、こうなったから私も弱さを出せるようになったのかわかりませんが、お互いがお互いをいたわり合えるようになってきたのは確かです。

―――わ~、すばらしいことですね。

家がうまくまわっていたから、更年期障害に気づきにくかった面もある気がしますが‥‥(苦笑)。

とにかく、「電動付き自転車に乗っている自分」を許せるようになってきたころから、すーっと落ち着いてきて余裕が出てきました。

―――「漕がずに進んでるけど、OK」という感じですね。


◆ 共有しよう、更年期障害

―――今回、「絶不調の時期を記録してもらいたい」とインタビューのご依頼をいただきました。

大がかりな日記とでもいいますか。何かしらの役に立つんじゃないかと思って。

女性のキャリア形成に関して、結婚や出産、マミートラックなどの話はあっても、「更年期障害の困難」についてはほとんどない気がするんですね。
「まさか私に限って」と無意識に目を逸らしていたのかもしれませんが。

―――日ごろ元気でアクティブな人ほど「きっと私は大丈夫」と思うものかもしれませんね。

私も知識があればもっと早く気づいて大きな失敗もしないで済んだかもしれないし、逆にいうと、あそこで大きな失敗をしなければ、今も気づかずに不調を引きずっていたかも‥‥。

―――今もそんな人がいますよね、きっと。

更年期障害にも個人差があって、私もそうでしたがホットフラッシュなど典型的といわれる症状がないと気づきにくいと思うんです。
「まだまだ働き盛りの年齢なのに、がんばれない自分がダメなんだ」と思ってしまったり、症状が重くてキャリアを中断する人もいるんですよ。

―――どこからが相談すべき症状なのかわかりにくいところもありませんか? 「これぐらい自分で乗り越えなきゃ」と思う人も少なくないのでは。

病院や専門の相談窓口はハードルが高いと感じる人もいますよね。まずは「あさイチ」くらいのテンションで話せるといいんじゃないかな。「あさイチ」で特集すると、すごい数のメールやFAXが届くでしょ。

―――洋子さんが更年期についてSNSに書かれた投稿も、すごい反響でしたね。

そうそう! たくさんの人が読んでくれたみたい。
諸先輩方からのコメントも熱かった(笑)。「私もそうでした」「これがあると楽ですよ」「この件については何でも聞いてください」とか。5年ぶりくらいに書き込んでくれる人もいて。

―――人知れず格闘していたんですね、みなさん。

みんなで更年期についていろいろ話したい! コロナと私がもう少し落ち着いたらね。

―――すごい盛り上がりでしょうね。私はそれを見て勉強します!

(おわり)

◆ 編集後記

苦しい時期を過ごされていたのだなと、何度も胸がつまりました。
更年期障害。思春期や生理、周産期などのように、具体的に知っておきたいですね‥‥。年齢や性別にかかわらず。
「だいぶ調子が落ち着きました」と、これから取り組みたいお仕事について等もうかがいましたが、上向き一辺倒とはいかないのが更年期なのかもしれません。どうぞご無理なさいませんように。人生のどんなステージでも、体の負担・心の負担、分かち合っていきたいです。
(イノウエ エミ)

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