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インタビュー: 揺れながら、一歩ずつ進む ~ 伊藤ともこさん

那珂川市議会議員、二期七年目の伊藤ともこさん。3人の子どものお母さんでもあります。時に悩み、迷いながら仕事と子育てに格闘する毎日。しかも、パートまで始めたんですって?!

聞き手: イノウエ エミ
撮影 : 橘 ちひろ
(2020年1月下旬取材)


◆ パートタイマー始めました

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―――なんと、パン屋さんでパートしてるとか?

8月から行ってます! 以前から大好きなお店でね。パートの募集が出ているのを見て、できるかもしれないと思ったの。
共働きをしていても生活は楽じゃないし、これから子どもたちの教育費もかかるから。

―――ご家族もびっくりしたのでは?

面接に行く前、子どもたちに「朝、「行ってらっしゃい」ができない日があるけど大丈夫?」と聞いたら「いいよ」と言ってくれました。夫にも「負担かけるかもしれないけど」と相談したら「いいじゃん」って。

それに、議員ってやっぱりちょっと特殊な仕事でしょ。久しぶりに一般社会で働きたいという思いもあったんです。独身時代は会社員だったけど、結婚して福岡に来て、専業主婦から議員になったので。

――― 実際に働いてみて、どうですか?

開店前、朝5時から8時まで、1日おきに働いています。私の担当はサンドイッチ。もくもくと作っています。とっても速くできるようになりましたよ。作るのも好きだし、たまに試食もできるし、幸せ(笑)。
パートにもいろんな人がいて、おもしろいです。
あるパートさんから「ここのパートに議員さんがいるらしいですよ」と言われて「あ、それ私です」って。びっくりされちゃった(笑)。


◆ 1日のスタートは朝3時

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―――議員活動、子育て、そしてパン屋さんのパート。すごいです。

そんなことないですよ~。ただ、時間のやりくりには苦心します。みなさんそうでしょうけど、子どもたち関係の役員や送り迎えもあるしね。

―――時間を10とすると、どんな配分になりますか?

仕事だけで8くらいあるかな。残りが家族。
でも、自分の時間も作るようにしています。友だちとごはんに行ったりね。
そういう部分がゼロになるとおかしくなっちゃうんですよね。心の余裕もなくなり、結局は議員活動にも響いてきます。住民のみなさんの声を聞いて上げていく仕事なのに、自分の友だちとすら話せないんじゃ、ねぇ。

―――朝は何時に起きるんですか?

パートがある日は、朝3時。子どものお弁当と朝ごはん作りからスタートです。

―――ひえ~。

早起きは割と好きなんです。体が動くから。
弁当作りは、学食に行くのが面倒だって言うから。作ったものを食べてくれるうちが花かな~とも思うしね。

―――すごいエネルギー!

エネルギー、ないです。体力がほしい! 家がとんでもなく散らかってます(笑)。


◆ できることが増えた。高速にも乗れます!

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―――議員としては二期目ですね。

7年目に入らせていただきます。まだまだ勉強中の身だけど、幅が広がった気はします。ハードルが下がってきたというか。

―――どんなことですか?

たとえば夜の会合や勉強会、泊まりでの視察もありますが、以前は夜に家を空けるなんてありえないと思っていました。でも、今は夜も出かけるし、高速道路にも乗れます(笑)。できることが増えました。

忙しくても、ひとつずつやっていくしかないんですよね。一歩ずつ進んで「今日も一日、なんとか無事に終わりました」。その積み重ね。

―――7年目までで、だいぶ強くなったのでは?

だいぶ打たれ強くなったとは思います。ならざるを得ない(笑)。
少数派でもあっても、ちゃんと意見を持って、表明したいのです。長いものに巻かれたくはない。

一方で、慎重になった部分もあります。ちょっと大人になったかな、なんて(笑)。

―――たとえば?

ん~。LINEの書き方とか?(笑) いや、まだ試行錯誤してるかな。


◆ 考えるって大事

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去年の5月、3年ぶりに故郷に帰りました。静岡県三島市。両親が高齢になってきて、込み上げるものがあったけどね。懐かしい空気をたっぷり吸って、2万歩くらい歩いて。高校の同級生たちと会って飲んで‥‥

―――写真を見ました。とてもいい笑顔でした。

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地元を離れてずいぶん経つのに、帰ると会ってくれる友だちがいる。有難くて感謝でいっぱい。ふるさとってホッとします。

那珂川に帰ってきて、あらためて奮い立つような気持ちになりました。覚悟を決めて議員になったのだから途中でやめられないし、子どもたちにとってはここがふるさとだからがんばりたい。それが私の原点です。

―――日本では女性議員は少数派だし、伊藤さんは年齢的にも若手ですよね。

もう少し女性が増えていけば、みんながもっと生きやすくなるんじゃないかと思うけどね。

―――よく「議員は二期目からが本番」なんて話を聞きますが。

ほんと、一期目は右も左もわからないから。いろいろとんちんかんなこと言ってたはず。反省してます(笑)。

―――最初は誰だって新人だから、わからないのは当然だと思うけど。

そうなんだけど、わからなければ勉強しなきゃいけないとも思ったの。どう言えば伝わるのか、どうはたらきかければ効果的なのかとか‥‥。やっぱり、考えるって大事ですよね。

―――なるほど。どんな仕事でもそうですよね。


◆ 声を上げれば変わることもある!

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―――議員のお仕事。うれしいのはどんなとき?

やっぱり、議会で質問や提案をして良い方向に向かったときですね。
たとえば、平成30年3月議会で、障がい者の方の雇用推進について取り上げたら、庁舎内ですぐに動いてくれたようで。翌年度から自治体での雇用が増えたんです。

―――おお~!

平成31年3月議会では、予防接種の助成について提案。予算がつくことになりました。小児がんで放射線治療などをすると、予防接種の免疫がすべて失われてしまう。定期接種の期間が過ぎていたら再接種は実費になるんですよ。家計にとても重い負担がかかるでしょう。

―――議会で提案がなければなかなか変わりそうにない部分ですね。

そう。やっぱり、市民の声を聞いて届けることが大事。そして、声を上げれば変わることがあると実感します。

―――所属する「ふくおか市民政治ネットワーク」では、議員活動を二期8年までとさだめています。ということは、伊藤さんの議員生活もゴールが見えてきていますね。

そうですね。今後も仲間たちと一緒にがんばります! みんな子育て中で忙しく、活動もなかなか大変なところはあるんですが、熱いハートをもった仲間たちです。

―――子育て中の女性にとって、政治活動や市民活動は本当に大変ですよね。

そこに全力投球というわけにはいかないんですよね、それぞれ家族があり仕事があり‥‥。でも、いろいろなことを同時にできるのが女性の強みだとも思います。偏らず、柔軟にできるんじゃないでしょうか。


◆ くさって、揺れて、助けられて

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―――「2019年は変化の年だった」とのことですが。

議員活動、政治活動にもいろいろあったし、家族の変化も。子どもが学校に行き渋るようになったり‥‥。

―――そんな変化の年をどういう気持ちで過ごされていましたか?

くさってた!(笑)

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―――あらら‥‥。

もやもやして元気が出なくて。いまだに引きずっている部分もあります。「もっとできることがあったんじゃないか」「いやこれでよかったんだ」とせめぎ合って、揺れて。

自分の悩みを人に話すのはあまり得意ではないのだけれど、すごく迷ったあげくSNSに書いてみました。書くことで、悶々とした気持ちが整理できるところもあるので。そうしたら、ものすごくたくさんのコメントがついていて‥‥。

―――その投稿、拝見しました。

すごかったでしょ。びっくりしちゃって。
同じ経験をした方がたくさんいることもわかりました。
不寛容な風潮もあるけれど、発信したら心配してくれる人がこんなにもいるんだな、と。
世の中 悪くないな、あたたかいものだなと感じました。本当にうれしかったですね。

―――議員さんは、ふだんは困っている人の話を聞く立場でしょうから、自分が助けを求める当事者になるのは、貴重な経験だったかもしれませんね。

自分の中に「 “議員のくせに” と思われたらいやだな」という気持ちがあることにも気づかされました。でも「もういいや。行かないなら行かないでいいと思おう」と思って。

―――「思おう」と思ったんですね。自分に言い聞かせる様子が伝わってきます。

一番悩んでいるのは子ども本人だろうし。信じるしかないんですよね。


◆ 家族が私の居場所

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昔の写真が出てきたの。20年前の私。

―――わー、若い! ぴちぴち!(死語)

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顔つきが全然違うのよ~(笑)。なんだかきつい顔してるなあ、って。
高校まで部活でとてもハードに卓球をしていてね。
卒業後、会社勤めを始めたら急に解放されて、毎日飲み歩くような生活でした。金髪にしてみたり(笑)。ブランド物もいろいろ買ってたなあ。

―――今は、物欲は?

全然ない。お金そのものがないからかもしれないけど(笑)。
振り返ると、昔の私はブランド物を持つことで安心していたのかも。鎧みたいにね。

そうかと思えば、1人目の子どもを育てるときは、すごくきちきちしていて。
12時きっかりに昼ごはんを食べさせたり、どんなに自分の体調が悪くても料理してお風呂に入れて‥‥

―――そのころは苦しくなかったですか?

苦しかったですね。カウンセリングを受けたりもしていました。

私が子どものころ、母が具合が悪くて、入院したり家で寝ていたりが多かったんです。
体力は部活で発散していたけれど、お腹をすかせて帰ってくると家は真っ暗。当然、ごはんが用意されていることもなく‥‥。
自分が母親になったとき「ちゃんとしなきゃ」と思い込んでいたのは、その反動だったのかな。

―――そこからどうやって変わっていったのでしょう?

いろいろな経験や出会いを通じて少しずつ自分を許せるようになったのだと思います。それに、家族に大事にしてもらっているから。

―――夫さんとお子さんたちですね。

はい。家族がいるから心が安定します。家が私の居場所ですね。ものすごく散らかってるけど(笑)。


◆ 夫に感謝してます。ほんとだよ

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――― 夫さんからも大切にしてもらっていますか?

はい! 子どもより私を大切にしてくれます(笑)。

――― えーっ。たとえば、どんなふうに?

子どもにはあげないお菓子をくれたり。

――― ‥‥小学生?(笑)

彼の食欲を考えると、これはすごいことなんです。「俺は1個も食べてないんだよ」と言って、私だけにくれるんです(笑)。

それはともかく(笑)、妻が立候補して議員になることを応援できる男性‥‥どれくらいいるかな?と思うの。

――― ほとんどいないでしょうね‥‥。

そうですよね。夫は「おもしろそうじゃん。やってみれば?」という楽観的な反応でした。もちろん、自分の負担が増えたことにはぶつぶつ言っているようですが、そりゃ言うよね。私も言ってる、「ちっちぇー男だな」とか(笑)。

――― お互いに「ありがとう」や「ごめんね」は言いますか?

言う言う。すごく言います。でも、彼の話はなかなか聞いてあげられないの(笑)。だってゴルフとか飲み会の話、興味ないもん(笑)。

――― 聞いてあげて~(笑)。結婚当初からそういう感じ?

全然! スーツのコーディネートからお酒のお世話まで、昔は何でもしてあげてましたよ~。それが、子どもが一人増え二人増えたからか、仕事をするようになったからか、こんなふうに‥‥(笑)。

でもね、私が変わっても(笑)、彼はすごく自己肯定感が強い人なんです。同時に、私のことを一人の人として見てくれている。結婚しても「俺の嫁」扱いじゃないの。

――― 夫さんに何て呼ばれてますか?

「ともこさん」。ここ数年で「さん」がつくようになった(笑)。

――― 伊藤さんのほうは?

「ねえ」とか「ちょっと」、「おーい」とか。

――― 名前で呼んであげて~!

無理~(笑)。でも、感謝してます。ほんとだよ。

(おわり)

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編集後記

くるくる変わる豊かな表情と飾り気のない話ぶり、そして仕事にも子育てにも自分の将来にも、悩みは尽きず‥‥。伊藤さんの等身大の姿は “議員さん” を身近に感じさせてくれます。
 「こうなりたい人物像は?」とたずねると、「器の大きい人。ガンジーみたいな!」ですって。大きすぎる!(笑)
(イノウエ エミ)

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