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『ファミリーヒストリー』小澤征爾 ~音楽版「いだてん」待ったなしじゃんね!

私は小沢健二と小澤征爾と小澤俊夫のファンなので(ミーハー)、この家族の歴史にはかなり前知識アリ。一緒に見る夫にいちいち補足説明。ウザがらず聞いて素直に驚く夫の人間性が光るw

満州や北京での裕福な生活から一転、終戦後は学費どころか食べるにも困るような貧しい生活の中で、三男の小学生・征爾に「なんとなく才能がありそうだ」(←家族の誰も音楽の専門家ではない)と見抜き、兄弟を含めた家族みんなして支援するのがすごい。
「なんとなく才能がありそう」のためにツテをたどってピアノを買って兄たちがリアカーで40キロの道のりを運んだり、母が内職を重ねて高い学費を工面して音楽が学べる学校に入れたりするのだ。

もちろん、「このまま日本にいてもモノにはなれない」と悟った23歳の征爾が、単身ヨーロッパに渡るのもすごい。

渡欧っていっても21世紀とはわけが違うので。1959年、今から60年前、貨物船に乗って船員の手伝いをしながら1か月半かかったという。

そして上陸したヨーロッパの権威ある指揮者のコンテストで、いきなり優勝するんである。もちろん、有色人種、しかも敗戦国の日本人が優勝するなんて前代未聞。征爾が日本の家族にマメに書いていた手紙やハガキも残ってて、それがまたいいんだわ。

書いてて思った。これはクラシック音楽版「いだてん」だね。10年後くらいに大河か朝ドラになるなぁ、こりゃ。父・開作、息子・征爾&4兄弟の二代がバトンタッチね。征爾役は阿部サダヲでよろしくw

小澤征爾本人が書いた自叙伝『ボクの音楽武者修行』は、中高・大学生くらいに推薦する本のひとつ。もちろん大人が読んでもすごくおもしろい。人生はアドベンチャー! そう思える。

とにかく、父の代から、エピソードの一つ一つがワールドワイドなのが小澤家だ。昔の人はすごい。征悦の母(征爾の妻ね)の入江美樹はロシア系で、祖父はロシア革命後、家族を連れて凍り付くアムール河を渡り満州に亡命したとか…。その祖父、戦後、ソビエトに逮捕されてカザフスタンの収容所で亡くなっている。

満州、大連、北京、ロシア…。小澤征爾の名が、関東軍司令部(ざっくり、満州にいる陸軍ね)の「板垣征四郎」と「石原莞爾」にちなんでいる有名な逸話に触れていたが、まさにその2人が昭和の戦争路線を決定づける「満州事変」を引き起こしたボスたちであることには、番組では触れてなかったね。

征爾は入江美樹とは再婚で、前妻・江戸京子&その父との話もすごいんだけど、番組では省略。当時は有名だった(だろう)、NHK交響楽団の小澤征爾ボイコット事件も省略。ま、そらそうだよねw 

そのあたりの話は、石井妙子による人物ノンフィクション集『日本の血脈』に詳しい。この本、小泉進次郎、中島みゆき、オノ・ヨーコ、香川照之、小沢一郎、美智子皇后(当時)などなどの鮮烈なファミリー・ヒストリーを取り上げていて、すごい。表紙のとおり硬派な本なんだけど、私なんかは「他人の人生に対してその書き方はひどいんじゃないかなぁ」なんて思っちゃう部分もあるんだけどね。

自分の家のファミリー・ヒストリーを見た小澤征悦が、「ちょっとすごすぎて、ついていけない…」とキツネにつままれたような顔をしていたのが印象的だった。いい意味で、本当に大事に育てられたお子さんなんだろうな~と思う(年上だけど)。

村上春樹がインタビューする『小澤征爾さんと、音楽について話をする』はとにかくゴージャスで、読んでると、クラシック音楽の門外漢でも心拍数が上がるような本です。


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