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8/9放送『NHKスペシャル 渡辺恒雄 戦争と政治~戦後日本の自画像~』

積ん録になっていたナベツネこと渡辺恒雄のインタビュー番組をようやく見た。若い(?笑)私は、今まで「このおじいちゃん、何でこんなにエラそうなんだろう?」って印象しかなかったんだけど、思いのほか興味深い話もあったのでメモ。ちょっと長いけど良かったらぜひ。

よく考えたら、読売(日テレ)のトップをNHKで特集するって異様やね。しかし内容を見て是々非々で考えていきましょう。

◆ 渡辺恒雄の経歴

終戦の年、東大哲学科に入学。まもなく太平洋戦争に召集される。いわゆる学徒出陣。カントの『実践理性批判』の文庫本を懐に入営。

・当時のインテリ高校は自由主義の本場であり反戦がトレンド。渡辺は高校時代から軍国主義に染まった校長や教員に反抗していた。

(エミ註:我々は「戦前生まれ」とひとくくりにしがちですが、「大正デモクラシー」の空気が残る中で育ち、実際に召集され仲間を大勢失った渡辺たちの世代と、戦時中に小学生だった石原慎太郎あたりの世代では、実はジェネレーションギャップもあるのです)

 
・渡辺「一度決めた作戦にこだわり撤回することができなかったため、何百万人の国民が犠牲になり国土が廃墟になった。戦時下で独裁政治の罪悪を思い知った」

・で、戦後は共産党に入党(!)。共産党の内ゲバに嫌気がさして離党し、読売新聞に入社。

◆ナベツネと首相たち

「戦争の反省なくして良い政治ができるわけがない」が渡辺のモットー。よって彼が接近し評価した首相は以下のとおり。

●吉田茂‥‥戦時中も反戦を主張、独自の平和工作を軍に咎められ収監
●鳩山一郎、石橋湛山‥‥自由主義派であり、好戦派の東条英機と対立した
●池田勇人、佐藤栄作‥‥渡辺いわく「吉田の子分」

同時代の首相、岸信介に対しては、まったく違う論調だった。戦争を推進した政治家が「カネと数」で戦後に再び台頭した、と。ちなみに、インタビュー収録時も放送時も、安倍さんがまだ首相在任している。言うまでもなく、岸信介は安倍晋三の祖父。

 
・戦後、韓国との国交正常化のため重要な外交ルートのひとつをアレンジメントしたのが渡辺。具体的には、自民党副総裁 大野伴睦を団長として訪韓団を組織。

●中曽根康弘‥‥渡辺の盟友。もともと自民党の中でもタカ派だったが、渡辺が説得して(ほんとかな?w)考えを変えさせた。

●田中角栄‥‥中曽根を総理に押し上げた立役者。

東大&海軍将校出身の中曽根と、自称「小学校卒」の田中角栄。正反対のようで、苛酷な従軍体験を持つという共通点があった。ふたりとも最前線の戦闘で多くの仲間を亡くし生き残っている。

以下は国会中継の録画より。二人とも、総理大臣としての正式な発言です。

角栄
「自分は満ソ国境に従軍したが、人を殺さずに済んだことは心の底で喜んでいる」

「中国に対しては、やはり第一番目に、(戦時中は)大変ご迷惑をかけた、心からお詫びしますというのが大前提。これは今も将来も変わらない」

中曽根
「国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という現行憲法は優れた理念であり、憲法改正を政治日程に載せるつもりはない」

至ってまっとうだと思うけど、今なら「反日だ」「サヨクだ」とネットで叩かれるやつですw

◆「生涯一記者」? 渡辺恒雄

渡辺は、生前の中曽根に「生涯一記者を貫く 渡辺恒雄」という墓碑銘を揮毫してもらっているが‥‥?

夜討ち朝駆け、カネと女。何でも使って取材相手の懐に飛び込み、記者の裁量を超えてきた渡辺のやり方については、番組中、御厨だったか保阪正康だったかが

「渡辺さんのやり方は、政治がひらかれていない時代だったからできたこと。一部の人だけでやっていける状況で、情報公開などの考え方も今とは全然違った」

というように話して釘をさしていた。
渡辺を詳細に、また多角的に批判するコンテンツはまた別に必要でしょうね。

◆ 番組終盤のまとめより

・角栄、中曽根、そしてナベツネという大正生まれの世代は「戦争要員」として多くが召集され、7人に1人が戦死したと言われている。

・当時の政治家たちはみな戦争経験があったので、左右を問わず「プラグマティック(現実主義)」だった。

・渡辺「儲けるための戦争だった、財界人は軍需のおこぼれで食いつないでいた。平和維持のためには経済(が必要)。経済政策をちゃんとやらないから戦争が起きる」

・渡辺は2005年から一年間かけて、読売新聞にて『検証、戦争責任』という大型企画を主筆。

(エミ註: 番組後検索して気づいたのですが、この企画に掲載された記事は今もすべてネット上で無料で読めるのです。少なくとも「戦争を語り、書き残していかなければ」という渡辺の思いは並々ならぬものだと思われます)

・政治学者 御厨貴
「政治の議論には、広い基盤が必要。かつては戦争経験を基盤に、命、生活、文化などさまざまなものを含んだ豊かな議論ができた。今、そういった基盤が政治家にも官僚にも国民にもない。今後、何を共通のベースにして議論していくかが課題」

 
以上、8/9放送『NHKスペシャル 渡辺恒雄 戦争と政治~戦後日本の自画像~』より。インタビュー収録は2019.11.23から数日にわけて行われたそうです。

◆ 番組内こぼれ話。

・ナベツネ94歳。また番組中に出てきた元NHKキャスター磯村尚徳90才、そして西山事件でも知られる元毎日新聞記者西山太吉88歳。いずれも、質問を理解し論旨の噛み合った明確な回答をする矍鑠とした様子におったまげました。

・戦後の「カネと政治」の様子はすさまじく、国会の廊下、記者たちがいる前でも、平気で現金の授受をしていたらしい。渡辺は「最初はショックだった」としながらも、「科学者が動物の生態を知るためにセックスを観察するように、僕らもそれを見ないとしょうがない」と話していた。おじいちゃん、たとえがうまいね(笑)。

・1982年に首相に就任する中曽根康弘だが、1959年の初入閣の頃には既に「将来、総理になる!」という大望があったらしい。そのころから、渡辺は中曽根に誘われ、週に1度、土曜日に3時間ずつ政治書の読書会をしていた。中曽根はとにかく真面目で勉強家だったらしい。

・海軍将校時代の中曽根の写真が出ましたが、泉澤祐希をもっと精悍にしたような凛々しい風貌。

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よく似た面差しの弟の写真も出ました。彼はやはり海軍で、戦死したらしい。

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