見出し画像

インタビュー: 50代夫、日々のごはん作りは驚異の世界 ~ 安田クニヒデさん

2020年、ライフスタイルに変化が生じた人は多いだろう。今回取材した安田 ”サニー” クニヒデさんもその一人。ちょうどステイホームが叫ばれ始めた時期、妻が初めてフルタイム勤務を始め、反対に自分は家で仕事をすることに。必然的に家族のごはん作り担当になって半年、「こんな世界があったなんて!」と山ほどの気づきを得たという。

聞き手・編集 :イノウエ エミ  (2020年11月取材)
ポートレート : 橘 ちひろ
料理のお写真は安田さん撮影です。

画像1

安田 ”サニー” クニヒデさん: 商品開発からデザイン、広告、コピーライティング、web制作‥‥ひとりで何でもこなすマルチクリエイター。「いえいえ、万年、零細自営業ですから」とは本人談。
ギターとソングライティング、写真‥‥多岐にわたる趣味では "サニー" の名で親しまれている。 
「僕の人生、いつも裏通りのど真ん中。強み? 妻が美人ってことかなあ」

◆毎日がゼロベース

画像2

20代の息子さんも含め三人暮らし。スパイスの香りが好きで、以前から気分転換にカレーやミートソースを煮込むことはあった。

「いわゆる “ 男の料理 ”。一から材料を買って、「おいしいね」って褒められて。毎日作るごはんは全然違うんだと気づいた」

本人いわく、食には貪欲なタイプ。副菜も合わせ何種類か食卓に並べたい。デザイナーの性か、見栄えにもこだわる。料理レシピのアプリをダウンロードして参考にするが、最初のうちは献立を決めるのにもずいぶん時間がかかった。

今では、餃子を包むときも皮が厚めはスープに、薄めは焼いて、弁当用にいくつか冷凍するなど工夫に余念がない。美味しく、またできるだけ安く食材を使い切るには、冷蔵庫の中での配置も重要だ。

画像6

画像7

「家族が急に「今夜は食べてくる」とか、たった一日の空白でも影響が出る。仕事と同じくらい頭を使ってる」

そうやって作っても、あっという間に食べられてあとかたもなく消えてしまうのが日々の料理というもの。

「毎日ご破算になる。妻も母親もずっとこれをやってきた。驚異的だよね」

とはいえ、実は積み上がっていくものもある。日々台所に立って半年。レパートリーも増え、自分なりにアレンジするなど上級テクニックも身についてきた。

「それに、ごはん作りは昨日の失敗を引きずらなくてすむ。仕事の感覚と違って新鮮だった

毎日、ごはんを作っている。家族のくらしを別の面からも支えているのだという自負心は、仕事が停滞した時期の救いになったそうだ。

ブロッコリーとエビとカキの炒め物-飲み会になったと連絡が入り一人で食べる。

作ったあとで「ごはん食べてくる」との連絡が入り、一人で食べたブロッコリーと海老の炒めもの。


◆食卓は世界の最先端

画像3

ステイホームが定着した2020年。周囲でも、家事の負担感が増したという女性たちの声を聞く。

「サニーさんのように「食事作り、やってみよう」となる夫が少ないのはなぜだろう?」 
たずねると、うーんとしばし考えたあと、いくつかの理由を推測してくれた。

まずは、「美味しいものを食べたいという欲求が減っているんじゃないか」。意外な答えに驚いた。現代は飽食の時代という印象だが‥‥。

「安く手っ取り早く、そこそこの味でお腹をみたせるから、それで満足しちゃうのでは。昔は選択肢が少なかったし、インスタントなものはまずかったから」

 次は、「やってくれる人がいる限り、甘えてしまう」 必要に迫られないと動けないのは人間の不変の真理か。共に暮らしていれば妻の大変さはわかるだろうに。

「一番の理由は、外で稼ぐほうがエラい、という感覚かも」

作った料理はSNSにもアップすることもあるサニーさん。「すごいね~」と言われ続けてモヤッとしていたらしい。特に男性たち。自分の妻や母親のことも本気で称賛しているか? 

そんなある日、メルケル独首相がスーパーで買い物をする写真がSNSに流れてきた。自分でカートを押して吟味し、レジの列に並ぶ姿がよく目撃されているらしい。こういう人が政治をしなきゃな、と思ったそう。

画像4

「肉も魚も国産は高い。野菜や調味料もオーガニックなものを買いたいけど、何百円かの差で真剣に悩む。こういうことの背景にも、きっと政治がかかわってるよね」

物流がストップすればたちまち暮らしが詰む実感もある。
「世界と仲良く」は、夢想家ではなくリアリストのテーマだと思うようになった。
食卓は世界の最先端。みんながごはん作りの価値を本当に理解したら、日本でもメルケルのような人が選ばれるのではないか。


◆「おかえり」と迎える側になって

アジフライとポテサラとにら玉

幼いころ体が弱かったサニーさんは、「ふつう」からはみ出ているのが当たり前だったという。外で元気に遊ぶ男の子ではなかったし、若い頃から自分の意見をはっきり言う女性が好きだった。

「だから、ごはん作りにも抵抗がなかったのかも。実は多数派のほうが不自由なのかもしれない。少数派になるのが怖いんじゃないかな。みんなと違うのが不安だと、できないことがいっぱいあるよね」

逆の立場になるのはおもしろい。知らないことが山ほどあった。お腹をすかせて帰ってくる家族を「おかえり」と迎える心地。野菜の切り口から立つ香りのよさ。親族の畑からもらった野菜を切ると、キャベツや白菜ですら濃い香りがするという。

夕食を食べ終わった後、ソファから動かない家族。シンクの洗い物が気にかかり、「片付かないから早く食べて」と言っていた妻の気持ちが初めてわかった。でも、外で働いて疲れきっているのもわかるから、口には出さない。今では両方の気持ちがわかるのだ。

「最近、ますます外食が好きになった」と言うサニーさんに、「主婦的には、自分の仕事をさぼっているようで、外食に罪悪感を覚える人もいるんだけど」と水を向けてみた。

「家事や主婦業も、週休二日くらいの気持ちでやっていいんじゃない? 仕事だと思うなら、休日があるのは当たり前。「今日はなにもしない」は全然ありだと思う」

来年には、再び外に事務所を構える計画もあるそうで。
ごはん作りはどうなりますかと聞くと、ふわりと破顔。

「そのときに話し合うけど、まあ、どうにでもなるよね」

なるほど、そうですよね。

(おわり。)

画像9

サニーさんの日々の料理は、インスタにアップされたりされなかったり。
https://instagram.com/sunnyky

画像10

編集後記

多くの主婦にとって、ごはんを作るのはあたりまえすぎる・そしてエンドレスの日常で、その中には投げ出したいくらい面倒くささも、喜びや誇りのような気持ちもあるわけですが、最近始めたばかりの人、それも異性の目を通すことで、いろんな「そうそう」とか「新鮮!」とかを見つけてもらえるとうれしいです。

今回は、会話文ではなく「雑誌の記事」ふうな体裁にしてみました。
こういうのも書けますよ~ということで。いかがでしょうか?
サニーさんの言葉選びや表現力が随所で光っていますね。
(2020年12月 イノウエエミ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?