ブックカバーチャレンジ7日目『私たちの星で』梨木香歩、師岡カリーマ・エルサムニー(2017)
最終日の #ブックカバーチャレンジ は、“ 私の永遠の郷愁 ” のような本を選びかけていたのだけど(※別記事)、考えなおして今そしてこれからにつながるこちらに。
📖『私たちの星で」 梨木香歩、師岡カリーマ・エルサムニー(2017)
私にとって梨木香歩さんは「感じる」と「考える」のつなぎ方を見せてくれる作家。フィールドワークは自分の町から海外まで。地道な手仕事や昔の記憶も大事にしていて、手元・足元で生まれた感覚から思索を広げていく様子に大きな影響を受けてきました。
たとえば子どものころ住んでいた南九州で食べていた「チマキ」が中華ちまき(米を使った携帯保存食)に近いことを知り、
「これは、表舞台に上がらぬ草の根で、女たちの手から手へ、律義に伝えられてきた歴史」
「料理は土地の歴史を語り、個人の過ごしてきた日々も語る。代々の人々の記憶に、手に、更新されながら、ものによっては、芸術作品と呼ばれるものより遥かに生き延びてきた」
と綴る。往復書簡の形をとっている本作、梨木さんの記述を受けた師岡さんは
「南九州は、チマキによって、同じ日本の京都よりも中国と強くつながっている。日本は島国というけれど、たくさんの島によって構成されているから多彩だし、大陸とは海で深く繋がっているのですね」
と感想を書き、さらに、「もしかしたらエジプトのほうがある意味島国かも」と驚くべき所見を述べるのです(その理由は、本書にて)。
世界について考えるとき、人は世界にコミットしているのだと、梨木さんの本を読むうちに思うようになりました。
彼女の姿勢はまわりにも伝播していきます。
本書の文通相手の師岡カリーマさんは日本人の母、エジプト人の父をもつムスリムで、カイロ大学とロンドン大学で学んだ文筆家。
序盤の手紙では、
「社会の雰囲気を鑑みても、いま、日本に対する批判めいたことは言わないようブレーキをかけている。どの文化に対しても責任を負わず “渡り鳥” でありたい」
と書いています。複数のルーツを持つ人のスタンスとして、それはまったく不思議ではありません。けれど手紙が往復されるうち、彼女はやがて思いがけない変化を遂げていきます。
「私たちの星で、今をどう生きるべきか。香歩さんとの対話は、根無し草である私の居場所をより自由に再構築する旅となりました」
と綴り、さらには東京新聞で政治的な問題にまで踏み込む「本音のコラム」連載を引き受けるようになるのです。
あとがきに代えた文章で、師岡さんはエジプトの作家タウフィーク・アル・ハキームの「人は空を飛べる鳥より自由」という言葉を紹介し、こう続けます。
「肉体の限界や、社会のルールや、おのおのの経済力や、国境などの制約に縛られる私たちが、「鳥より自由」という運命をまっとうするためにはどう生きるべきなのか」
「たとえ今いる場所から動くことができなくても、答えは必ずどこかで待っている。私たちの星のどこかで。それを見つけるために私たちは本を読み、ファンタジーを愛し、旅をする」
2年前に初めて読んだときとは、また違う感慨が迫る言葉です。
個人について、共同体や信仰について、人々の暮らしや史料に残らない歴史について。
示唆に富んだ内容がすばらしいのはもちろんのこと、私は「対話」「おしゃべり」という形と、その可能性がとても好きなのだと思いました。
今回、7冊のうち2冊、対話(対談)本を選びました。あらためて私の本棚には対話や対談、座談会、往復書簡など、「複数で語る」本が多いなと感じたところです。
カバー、私の撮影に難があり‥‥😅 この美しいアースカラーはぜひ実物を手に取って見てほしい!
7日間ありがとうございました😊
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※ブックカバーチャレンジとは‥‥
読書文化の普及に貢献するためのチャレンジで、参加方法は好きな本を1日1冊、7日間投稿する」というもの。
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