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『大豆田とわ子と三人の元夫』最終回 / 私たち、セックスよりもたくさん話そうよ

オダギリジョー(小鳥遊)エンドも、松田龍平(田中八作)エンドも前回までにカタがついて回避されて、最終回はエピローグというか、やっぱり自己肯定、自己受容に着地するんだな~と。

亡くなった母親の元恋人が出てくるとか娘の恋人に謝りに行くとか、唐突なエピソードが散発されて、坂元さんの脚本は、やっぱり風呂敷を広げるところが抜群でたたむところはややぎこちないなと思いながら見てたんだけど、見終わってつらつら考えてたらなんかいろいろ納得がいったかも。
(見終わった後つらつら考えずにいられないオタク気質‥‥)

・「結婚して子どもを産んだが、自分には心に思う別の人がいた」亡母
※別の人=風吹ジュン

・「結婚して子どもを産んだが、相手には心に思う別の人がいた」とわ子
※別の人=市川実日子

亡母と大豆田とわ子とは点対称みたいな関係だったんだなということですね。亡母≒田中八作(松田龍平)ね。

*
風吹ジュンと話して「それでも母は幸せだった」と思えたことで「自分は愛されていたんだ、存在していい人間なんだ、母を不幸にしたわけじゃなかったのだ」と安心した大豆田とわ子。

ここ、ちょっと捻ってあったと思うんですよね。
「それでも母は幸せだった」とすんなり納得できたのは、
今の自分が幸せだからなんじゃないか、と。

前回のラスト、
八作との「実現しなかった幸福な夫婦生活」を空想しつつ
「そうはなれなかったけど、これからも三人で生きていこうよ」と言ったのは大豆田とわ子なんだよね。

「あなたを好きになって結婚してよかったよ。今でも好きだよ」
「だから、あなたを選んで一人で生きることにした」

前回ラストの大豆田とわ子のセリフ。
きっと亡母も同じだったんだよね。

このシーンが、亡母の秘密が明かされるより先だったことで、
【親が幸せだから、子どもも幸せになれる】
というロジックを回避したんじゃないかなと想像してる。

だってこの論理は、裏を返せば
【親が幸せでなかったら、子どもも不幸】
も真にしてしまうから。
それってすごく残酷だ。
親にとっても、子どもにとっても。

大豆田とわ子は、すでに幸せだったんだよね。
好きな人と結婚して、産んだ娘も愛していて、
一人で立って生きていく力を持っていて、
好きな仕事があり職場があって、
「大豆田とわ子は最高だ」と言ってくれる元夫たちがいる。
自分を好きでいられている。

親はとても大きな影響を及ぼすけど、親と子どもの人生は別なんだ。
いや、現実は、幸も不幸も親子に連鎖していくことが多い。
でも、だからこそ、「そうじゃないよ」という物語を書く人もいるんだと思う。
脚本家の理念というか、願いみたいなものを感じたな。

*
前回、「君が愛してるのは田中さんだ」と言った慎森(岡田将生)の言葉はある意味間違ってなくて、大豆田とわ子は今でも八作を好きだけど、八作と復縁するのではなく、「かごめと3人で生きていく」ことを選んだ。

それって、「八作とはセックスしない」宣言だと思うんだよね。
前回も書いたけど、3人でいるのにそのうちの2人だけでするわけにはいかない。前回、カサカサ、とか、ゴトッと音がしていたように、なんたってかごめはその辺に「いる」。見られてるからw

最初は「全員独身なんだから、気分と展開で元夫と寝るのも全然ありだよな、いつしてもおかしくないな」と思いながら見てたんだけどw 前回も書いたとおり、このドラマにはセックスが入る隙間がまったくなかった。
意図的な作劇だと思う。坂元さんは、他の作品では普通にセックスを描く脚本家なので。

(ちなみに、別の脚本家だけど、元夫婦が成り行きで同衾する(でも復縁みたいな雰囲気には全然ならない)展開は、最近ではNHKドラマ『弟の夫』がなかなか良かったです。佐藤隆太と中村ゆり)

「婚姻関係も体の関係も、別に幸せの条件じゃないよね」
という作劇だったんじゃないかなと思う。
かわいくてハイスペックな元夫3人が
「大豆田とわ子が大好きだ。最高だ」
なんて言ってくれるのは、まぁ中年女性にとっての夢物語だけど。
夢を見せてくれることで、それを明確にイメージできるようになるわけでね。

*
早稲田大の岡室美奈子さんが、「これは雑談ドラマだった」という評を出してたのはよくわかる。
このドラマを見ると、すごく人と話したくなるのだ。

ディスタンスやステイホームで言葉が減ってしまった私たち。
たくさん話そうよ、と思う。

だからついつい、ネットにいっぱい書いちゃいます。
長すぎて読まれてないと思うけど(笑) 
独り言でも、言葉をなくしてしまうより全然いいと思ってて。
言葉って、発してないと、だんだんなくなっていっちゃうんだよね。
言葉がなくなると、思考もなくなるから。


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