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ミステリークレイフィッシュの女

17才の私は、ミステリークレイフィッシュと同じ性質を持っているらしい。

ミステリークレイフィッシュとは、2003年に新種であると発表された、メスのみで単為生殖し、自らのクローンを増やし続ける突然変異のザリガニである。
そのザリガニと同じく、私も、単為生殖ができることが判明したのだ。

この事実が発覚するまで、私は苦しみの中にいた。

ある日、体調不良が続き、病院に行って、妊娠していることを告げられた。

言葉を失った。

性交渉など全く身に覚えがなかったからだ。
そんなはずはないと訴えたが、精密検査の結果、確かに私は妊娠していた。

そして、どこで情報が漏れたのか、女子高生アイドルの妊娠は、ワイドショーの恰好の的となった。

恋愛禁止のはずのアイドルグループのセンターで、人気No.1のトップアイドルの私について、「清純派は嘘だった」「ファンを騙した」「相手は誰」と好奇の眼差しに晒され、テレビで連日報道された。
SNSでも様々な憶測が飛びかい、世間を大変、騒がせた。

さらに、所属事務所の社長やマネージャーたちさえ、正直に話すようにと、真相を問い詰めてきたが、私は本当に身に覚えがない。
その事実を断固として主張し続けた結果、必死さが伝わったのか、ようやく納得してもらえた。
そして、可能性として浮上したのが、私の知らないうちにクスリを盛られて、昏睡のうちにおぞましい行為がおこなわれたのかも知れないという恐ろしい説だった。
アイドル活動を本当に懸命に、ただ一途にやっていて、夜遊びなんて一切していない私には、そんな心当たりもないが、自分も気づかないうちに卑劣な犯罪行為の被害者になっていたと思うと、吐き気がした。

そんな折、ある大学病院の優秀な医師が私の症状について、詳しく調べてくれることになった。
彼は私の大ファンだったので、一切身に覚えのないという私の主張を完全に信じてくれて、身の潔白を証明するために力になりたいと、さまざまな検査をしてくれた。
そして遺伝子検査で、私の症状が発覚した。

そして、私が性交渉なしに妊娠したということが事実として、医学的根拠をもって、認められた。

この類をみない衝撃的な症状は、「処女のまま妊娠したアイドル」という扇情的なキャッチコピーとともに、瞬く間に世界中に広がった。
特にキリスト教圏では、私を神秘的な存在として、信仰の対象にまでなっていった。

有名になりたくてアイドルになった私だったが、私を知らない人はもうこの地球上にいない。
予想だにしないかたちで、私の夢は成就した。

そして、私は、特殊なこの体に関して行われる遺伝子研究に、全面的に協力することを決めた。
それが、再生医療やガンの移植手術、不妊治療へ役立つかも知れないという。
それで、誰かが救われるというのなら、私はなんだってする。


ただ、ひとつ、気がかりなことがある。

私はグループ加入前の中学生の頃、当時の彼氏とセックスの経験があるので、処女で妊娠したわけではないのだが、まぁ、それは、なんとなく、墓場まで持っていこうとおもう。



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