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孫によるおじいちゃんの職場見学

私が産まれた時、父親は30歳、母親は21歳。
私が物心ついたころから母親は
「おとうさんに騙された笑」
と笑っているのか本気なのか分からない表情で言っていた。

当時、父親は私の祖父が経営している木材加工の会社に勤務。
父親は次男、お兄さんがいる。
昔からの慣習ならば長男が家の後を継ぐが、長男は東京の超優秀な大学を卒業しそのまま東京で暮らす。
勉強よりも麻雀が好きだった父親は
「兄貴が継がないからしょうがない」
と言い、さほど勉強せずに愛知県の私大へ。

私が10歳の頃、祖父が経営している会社が倒産、家が担保に入っていた関係により、祖父や祖母は長男がいる東京へ引っ越し。
私たちはアパートを借りて暮らす。
父親は友人の紹介により木材関連の会社へ再就職。
しばらくは順調だった。

私が大学に入り、1人暮らしを始める。
母親から電話がある。
「お父さんが仕事を辞めるって言っている」
「そうなの?どこかへ転職するの?」
「自分でやるっていっているよ」
20年前である。
今は独立して個人で活動するのは当たり前になっているが20年前は珍しい。
しかも私が言う事でもないが、父親が自分1人で仕事出来るのか?と思っていた。
しかし、大学生の私、親の心配よりも自分の生活が楽しく、それほど母親の不安に対して相談にのることは無かった。

その2~3年後、母親より電話が入る。
「お父さん、借金しているっぽい、探さないでって置き手紙がある」
これはさすがにマズイ。
実家に急いで帰る。
不安で顔色が変わっている母親、涙ぐんでいる弟たち。
母親から最近の状況の詳細を初めて聞く。
最初は順調に木材取引をしていたようだが、キャッシュフローが回らなくなり、銀行からではなく消費者金融にもお金を借りていたらしい。
父親に連絡しても電話に出ない。
警察に連絡しその日は解散。

2日後、母親から電話。
「お父さんが帰ってきたよ」
無事でよかった。
そこから、母親は東京にいる父親のお兄さんと相談。
お兄さんの奥さんの兄弟の子供の弁護士(ややこしい)などとも相談し、借金を返済したという。
母親は非常に大変だったと思う。
私は20代前半、遊びたい盛り。

そこから父親は再就職先を探す。
50代半ばで特に資格がある訳でもない。
なかなか仕事が決まらない。
母親が一つの会社を見つける。
警備会社である。
警備会社といっても交通整理とかではなく、スーパーなどで客っぽく歩き回り万引き犯を捕まえる保安警備員の仕事である。
お腹が出まくっている父親であったが歩くのは好き。
その会社にアルバイトで週4日~5日働けることになった。


昨日スーパーに買い物。
娘がふと私に話しかける。
「あれ、おじいちゃんじゃない?」
本当だ、父親だ。
父親は保安警備のアルバイトをあれから約15年、今71歳だが現役である。
偶然にも我が家が立ち寄ったスーパーに入っていた。

15年間いろんなスーパーやホームセンターに行き、ひたすら歩く。

大変だと思う。
よく続けていると思う。

家事を全くやらなかった父親は5年前くらいから洗い物はするようになったという。
「毎日歩く仕事だから健康だ」
と言いながらタバコを吸って、夜安い缶チューハイを飲む父親。

偶然にも実現した
「孫によるおじいちゃんの職場見学」
お父さん、無理をせず、アルバイト続けられるだけ続けて、お酒もタバコも楽しんで欲しい。

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