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MGMT 『Loss Of Life』 (2024)

6/10
★★★★★★☆☆☆☆


5th。普通なら使わない変なエフェクトや脈略のない音や奇抜なミックスバランスを駆使して独特のサイケデリアを産むのはThe Flaming Lipsなどから受け継いだUSインディロックのアイデンティティ。それは1stからずっと続いているので今更変わりようもない。彼らに取ってはこれが当たり前で、変える変えないの話ではないんだと思う。

それでもさすがに大人になったというべきか、ただはしゃぎ回るような無邪気な曲はほぼ無い。どの曲にも少しずつノスタルジアが忍ばせてある。本作を聴き終わって残る余韻は、何かが終わりつつあるけどそれを悲しむのではなく受け入れて前進しようとする前向きさ。グッドエンドとは言えないけど、心うちは決して落ち込んではいない感じ。そしてそれをこれみよがしにそれっぽく仕立て上げるのではなく、上に書いた奇抜な音を織り交ぜながら、あくまで飄々と無感動に行う冷めた姿勢こそ、1stから続く彼らの最大の美点だと思う。”Loss Of Life”(=人生の喪失)の頭文字がlol(=笑)だというのは、意図的かどうかは別にしていかにも彼ららしい。

本作ラスト”Loss Of Life”は途中までせっかくノスタルジックな良いメロディを歌っているのに、それをノイズとリズムでぶち壊してしまう。そんなことせずに「良い曲」で終わらせることはできただろう。でもしない。Christine and The Queensを招いた”Dancing In Babylon”だって、別のバンドならもっと「分かりやすい名曲」に仕上げられただろう。もっと「売れる曲」にすることもできただろう。でもしない。

それは彼らが単なる「良い曲」を作ることよりも自分達の内なる声を優先させているから、ダサく言えばインディ精神の火をいまだに灯し続けているからだろう。それを持ち続けるのは利害関係や損得勘定や思惑を超えた地平で音楽をやっていることの証拠で、そこに私は気高さを感じるのである。思えばあの”Kids”だって、架空のダサいヒット曲を再現してみようというメタ的視点で生み出されたものであった。The Strokesの『The New Abnormal』にも同じことを思ったが、一歩引いた斜めからの視点+自分の音楽を何よりも優先する信念を併有するバンドを私は一番信じている。

話が大きくなってしまったが、別に私は本作そのものにそこまでハマっているわけではない。ただ、全てが「建前:ポリコレ、本音:金儲け」の悪しき潮流に染まりつつあるポップミュージック界において、いまだにインディ精神が生き残っていること、それがカウンターパンチとして機能し得ることを見せてくれた快作だと思っている。



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