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飲むに減らで吸うに減る-定野司の読むだけで使ってはいけない金言名句集

予算査定では、予算額の大きい事業から「切り込む」というのがセオリーです。
小さな事業を削ったところで削減額はたかが知れていますし、削り過ぎて「行政効果」が出なかったら元も子もありません。
それこそ、無駄遣いです。

財政課長を務めていたある日のこと、時刻表(紙製の月刊誌)がどこの課にもあることを知りました。
今でこそ旅費計算はパソコンで簡単にできますし、交通系ICカードを職員に貸与して旅費を精算する自治体も増えています。
時代の変遷とともに実用書から趣味の雑誌へと変容した紙の時刻表ですが、当時は紙の時刻表で出張(旅行)命令簿を作っていたんです。
この当時とは、地方分権推進委員会(1995~2001 年)が数次にわたり勧告を出し、国と地方の役割分担の明確化や機関委任事務の廃止を含む地方分権一括法が成立(1999年7月、2001 年4月施行)したころのことです。
自治体の「自己決定権」がキーワードでした。
しかし、その実は、簡素化・合理化を旨とする行政改革の推進が求められていました。
具体的には、行革大綱の策定・見直し、事務事業の見直し、組織・機構の見直し、定員・給与の適正化、行政の情報化などです。
「平成の大合併」も市町村合併によって基礎自治体の規模を拡大し、自治体の財政面での基盤強化をめざしたものでした。
そうした厳しい時代背景の中、半ば思い付きで、「時刻表は部で一冊」という査定をかけました。
時刻表が見たければ、よその課に行って借りればいいのです。
全庁で3万円くらいの予算が削減できました(笑)。

大きな事業や金額にばかりに気を取られていた私たちに「こんなことが他にも、手付かずのままあるのではないか?」という思いが湧いてきました。
塵も積もれば山となる、通称「ちりやま作戦」はこうして生まれたのです。

鉛筆1本から削りました。
集まった金額は2億円。
一般会計予算2千億円(当時)の千分の一でしたが、私たちは、もっと多くの「塵」が落ちているに違いないという確信を持ちました。
そして、この「塵」をもっと効率的に集める方法はないものかと。

そんなとき、区民課から窓口に「番号呼出機」を設置したい(予算要求したい)という相談が上がってきました。
もちろん、区民課だけに認めたら公平性に欠けます。
福祉課だって、国民健康保険課だって以前から欲しいと要求されていたからです。
それを全部認めたら予算額は〇〇〇万円に跳ね上がります。
その財源をどうやって捻出するのか、考えるのは私たち財政課の仕事です。
難しい顔をする私に、彼らはこう言い放ちました。
「広告収入を充てます」
今では普通に行われていることですが、役所の封筒に広告(お金の取れる)を入れるなんて、気が付きませんでした。
役所はお金を使うことは考えても、お金を「稼ぐ」ことなんて、これっぽっちも考えませんから。
思い返してみると、あれが「包括予算制度」第一号だったのかもしれません。

そんなある日、足立区財政の窮状を知って某国営放送局が密着取材に入ります。
取材期間は3ケ月。
私たちが査定で原課と激しくやりとりしているところ、財政課職員の奮闘や苦悩が取材された、と思っていました。
某国営放送局のルールで番組のタイトルが明かされることはありません。
放映の日、午後6時過ぎ、私たち職員は全員、居酒屋の2階座敷に集合し、番組が始まるのを「今や遅し」と待っていました。
ところが、画面に映し出されたタイトルは
「予算はこうして削られた」
でした。
私たちは互いの目を疑いました。
「うそだろう・・」
番組が伝えていたのは、私たちの奮闘や苦悩ではなく、原課の前に立ちはだかる大きな壁(私たちのこと)だったのです。
「私たちは、こんなに悪い奴なのか?」
いつもは楽しく飲めるはずのお酒が、この日だけは一瞬にしてまずくなったことを憶えています(涙)。
翌日、私は駅近くのコンビニの店員さんに声をかけられます。
「夕べのTV見ましたよ。足立区の財政って、そんなに厳しいんですか?」
そう、私たちの危機感は伝わっていたのです。
住民にも職員にも。
そして、私の中でぼんやりしていた「包括予算制度」の骨格がはっきり見えた瞬間でした。

「飲むに減らで吸うに減る(のむにへらですうにへる)」
ということわざがあります。
財産は、たまに飲む酒代で減ることはないが、一日に何回も吸うたばこ代では確実に減るので馬鹿にならない。
大口の出費より、回数の多い小口の出費を見逃してはならない。
「ちりやま作戦」で現場に落ちている「塵」を見つけることができるのは、財政課の職員ではなく現場の職員です。
そして、それに報いるには「よくやった」というような「褒章」ではなく予算制度そのもの、つまり仕事を私事(自分事)にでき、モチベーションを維持、向上させる仕組み(包括予算制度)が必要だったのです。

ところで、「馬鹿にならない」のバカの語源はサンスクリット語で無知を意味する”moha(慕何)”で、この音に合わせて「馬鹿」という漢字をあてたという説があります。
それでは、「飲むに減らで吸うに減る」は本当なのでしょうか?
たばこの計算は簡単です。
一日セブンスター1箱20本で600円です。
酒の計算は種類が多くて複雑です。
厚生労働省によるとお酒は「ビール中ビン1本」「日本酒1合」「チュウハイ350ml 缶1本」「ウィスキーダブル1杯」「ワイングラス2杯」を1単位とし、男性は4単位、女性は2単位以上を「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」としています。
さらに、男性は6単位、女性は3単位以上の飲酒量だと、アルコール依存症になる危険性が高いとされているのです。
ちなみに、男性と女性に差があるのはアルコール分解速度の違いとされていますが、私は経験上、個人差の方が大きいと思います。

レストランでグラスワインを頼むとき、どのくらいの量なのかとても心配です。
一般的にはワインボトル1本からグラス6杯分とります。
ボトル1本は750mlなので、グラスワイン1杯あたりの分量は125mlです
1本で6杯ですから、厚労省の基準によると3単位ということになり、「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」の限界(男性4、女性2単位の中間)です。
コンビニでよく見かけるアルパカラベルのワインは1本600円くらいです。セブンスター1箱の値段と変わりません。
つまり、飲んでも吸っても財産は減っていくのです。

では、「飲むに減らで吸うに減る」は間違っているのでしょうか?
いいえ、ここでの「飲み」は居酒屋やレストランでの「飲み」に違いありません。
当然ですが、古いことわざですからコロナ禍で「家飲み」が当たり前になったことが考慮されていません。
Withコロナはことわざをも変えてしまうのです。

「飲むに減り吸うにも減る」

本コーナーでは、予算や予算編成、財政問題に係る「ことわざ」や格言をご紹介していきます。
そこに「先人の知恵」があるからです。
もちろん、先人の知恵に負けない現代人の知恵もご紹介します。

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Link→→→定野未来創研HP



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