査定時期を分割して残業時間を大幅削減_オンライン特別講演会「現場が進める 事業改善方法」
富山県高岡市では、平成30年(2018年)から5年にわたり「高岡市財政健全化緊急プログラム」が実施されました。
目標は”2023年度当初予算編成時までに構造的な約 40 億円の歳出超過の解消”をすること。
”財政構造の体質改善に努め、持続可能な財政運営を目指す”としたこのプログラムでは、実際に財政立て直しだけでなく、財政課の残業時間削減に導くほどの業務手法や体質の改善に成功しました。
8/22に開催したオンライン特別講演会「現場が進める 事業改善方法」では、徹底した情報共有、やめるタイミングづくり、査定方針の提示によって、財政課内部だけでなく全庁を巻き込んでプログラムを成功に導いた中心人物の長久洋樹(ながひさ・ひろたか)氏を講師に招き、
・現場から自発的な事業のスクラップ&ビルドが提示できる仕組みの導入
・歳出超過が続いていた同市の収支均衡を計画期間から1年前倒して達成し、財政課職員の残業時間(とりわけ新年度予算編成期間)の大幅改善にもつながった業務改善方法
などについてお話しいただきました。
今回は講演会の後半に行った質疑応答の一部をご紹介します。
Q.公共施設の使用料見直しにかかるガイドラインについて具体的に伺いたいです。
長久
公共施設の見直しガイドライン作成にあたっては、習志野市の元職員さん(宮澤正泰氏)が執筆された本(『公会計が自治体を変える』)も参考にしながら作成しました。この本の中で、使用料については官と民の役割があって、官100%なのか?民100%なのか?官民で50%:50%なのか?という視点で考える必要があるよね、という記述があり、とても合理的な考え方だと思い参考にしました。この考え方に基づいて、減価償却費や運営費など、セグメント分析の視点から本来の使用料を算出し、これを目安にしました。現状の使用料と管理運営のバランスが妥当であれば問題ありませんが、そうでなければ、本来あるべき使用料を目安に価格の引き上げを検討します。ただし、いきなり必要な額に上げるのではなく、ガイドラインの中で「使用料を上げる場合は〇%まで」とルールを決め、徐々に必要額に近づけることとしていました。ガイドラインでは、施設を分類し本来の使用料を算出、コストと収益を比較しその差分をどう埋めるかといったことをルール化していました。ただ、このガイドラインを作った後にコロナが発生したので、実際にどこまで運用できているかは定かではないです…
事務局・栁澤
この使用料は市民・市外の人と分けていましたか?
長久
自治体によって議論のポイントになると思いますが、高岡市は分けていません。
事務局・定野
足立区では夜間開放を実施している施設の夜間利用率を上げるため、夜間だけ使用料を下げる議論をしたことがありましたが、高岡市ではどうですか?
長久
そういった議論はありませんでした。元々、民間施設に比べて安いので、これ以上下げる理由はないと思っています。例えば年間100万円の売り上げを達成するなら、1万円を100人から集めるより1000円を1000人から集めた方が良いよね、という価値観もあり、これに基づくと先ほどお話しした「必要額に向けて使用料を上げる」という方法は少々乱暴かもしれません。一方で、地方では「駐車場は無料が当たり前」「公民館は無料で当たり前」といったように、無料で使える公共サービスがあまりにも多いので、「価格を下げる=無料にしよう」という議論になりがちで、稼働率を上げるために単価を下げるという議論にはなりにくいと思います。
Q.質問ではありませんが、講演の中の「査定時期を分割し早い時期から始めることで年間の仕事を平準化する」というお話がとても印象的でした。
長久
時間が無い中で大きい判断を下すのは、判断を間違える可能性が高まります。「ご利用は計画的に」とよく言いますが、例えば5年間の一般財源見通しに対して5年間の大型投資や施設営繕の費用見通しはどうなのか、と歳入・歳出全体の見込みを立てて、その収支ギャップを把握しておくことで、その他の経常的な経費や政策経費の予算について必要以上に締め付けることが無くなります。残業時間削減を目的に実行した業務平準化でしたが、査定のビジョンを持った状態で査定に入れるという点でも大変有意義でした。
事務局・定野
補正予算をうまく使うというお話も印象的でしたね。「年度内にできることは年度内にやろうよ」という考え方は同感です。
長久
春頃にはどの程度補正を組めるかの見通しを持てているので、営繕の査定を行うサマーレビューではこの見通しと比べながら「今、準備できるものならやってしまおう」という判断ができます。当初予算の査定時に修繕で一般財源がとられてしまうと予算編成がキツくなるので、補正予算と繰越明許をセットにし、前倒し計上していました。壊れているものは早く直した方が良いですしね。これも当初予算の査定が楽になった要因のひとつです。
事務局・栁澤
平準化することで、「何を見直す?」「投資的経費はどうする?」とフェーズごとに原課とコミュニケーションをとれる点もポイントだな、と思いました。
長久
財政課長時代は、とにかく現場に足を運ぶよう部下に伝えていました。「私の論点はここだと思っているので、この論点について明確に宿題を返してくれないとYESと言えない」という話をしていました、あわせて部下には、私を悪者にして良いから「課長がこう言ってるんだけど、対応できない?」と原課に投げ、情報収集するよう促していました。市長査定の場では財政課長が原課の最大の味方であり代弁者となるので、例えば、財政課で予算を付けたものに対して市長がゼロ査定にしようとした時には「なぜ予算が必要なのか」を説明できないといけません。なので、市長査定に耐えられるよう、査定の時点で必要な情報を徹底して集める必要があるんです。原課としては無意味に厳しくされていると思っていたんだと思いますが(笑)
この話で言うと、「魂が込もっていない、きれいにまとまっている資料」というのがよくあって、そういう資料に記載されている事業は深く聞いていくと、違う目的があったり、事業を詰め切れていなかったりと「格好よく見せようと言葉を並べていただけ」ということが分かったりします。ただ、深く聞き取りしていくと実態の話をしてくれるようになるので「じゃあ一緒に考えよう」と伴走して、改めて要求事業を組み直していました。
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