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価値基準は、金銭価値から環境価値へ

クレジットが創成されるためには、計画書(PDD:Project Design Document)を作成して実施するだけではダメで、実施した後に検証を受けなければなりません。計画書が登録される際には第三者検証機関による「有効化審査」を受けますが、必ずしも、実施後にクレジットが発行されるとは限りません。

ただ、これでは、実施した後、実績確認を行って検証を受け、めでたくクレジットが発行されてからしか販売できません。プロジェクト実施中は収入が見込めないため、特に初回の場合はこの期間の資金手当てが課題となります。

そのソリューションとして、NCSA(Natural Climate Solutions Alliance)という、自然気候ソリューションと炭素市場への投資の機会と障壁を特定することを目的とした、マルチステークホルダーグループが、「Lighthouses」という認証スキームを提供しています。

以前ご紹介していますので、詳しくは、こちらを参照ください。

Lighthousesの登場から1年、クレジット周りの市場は大きく変化しました。

昨年のCOP27では、1.5℃目標はもちろん、2050年ネットゼロをコミットする国や企業が大幅に増加しました。SBTiのNet-Zero認定を受けた企業も、9月末現在、世界で422社、日本でも20社と、順調に増えています。

ただ、Race to Zero Campaignを展開するUNも、2050年時点で、どうしても減らすことのできない排出量(Residual emissions)が10%程度残ると認めており、これを「中和」した状態を「ネットゼロ」と定義しています。

この「中和」に使用できるものが、純粋なCO2吸収量、つまり吸収系のクレジット(Removal credit)とされています。ですので、今後吸収系は需要が高まるところ、「Lighthouses」認証を受けたクレジットではとても供給が追い付かないことは明らかです。

そこで、金融の世界では一般的なスキームが、カーボン・クレジット市場にも登場し始めました。

1つ目は「格付」「Rating」です。

「BeZero」という、2020年に設立されたイギリスのカーボン・クレジット格付機関がありますが、気候科学者、地球観測専門家、データ科学者、金融アナリストのチームが、衛星画像や現地調査などのデータを活用して、カーボン・クレジットの信頼性を評価しています。

2023年8月現在、世界中の約300のカーボン・クレジットプロジェクトを評価しています。日本では、森林保全や再生可能エネルギー開発などのプロジェクトが、BeZeroの格付けを受けています。

急成長しており、世界を代表する格付機関にまで成長したBeZeroが、業界初の、まだクレジットを発行していないプロジェクトの「事前格付」を公表しました。

これにより、買い手は早い段階からプロジェクトのリスクを理解することができるため、当該プロジェクトに資本を注入することが可能になります。従って、売り手は、プロジェクトの初期段階で収入を得ることが可能になり、事業継続が可能になるのです。

2つ目は「保険」です。

企業が事業を行う場合、特に海外で事業展開を行う場合には、保険をかけることが一般的ですが、そのスキームをカーボン・クレジット市場に持ち込んだ企業が現れました。

Kita Earth Ltd.という英国企業で、2021年12月設立のスタートアップです。

自社が認証するボランタリークレジットスキームに登録されているクレジットであれば保証を受けられるようですが、現在のところ、植林等による吸収系のクレジットしかカバーしていないようです。バイオ炭のような除去系も対象とすべく開発中とのこと。

なお、スタートアップの保険会社という点が懸念材料ですが、同社の保険契約はロンドンを拠点とするロイズが引き受けているとのことなので、安心して利用できるのではないでしょうか。

個人的には、これからの世界の価値基準は、金銭価値から環境価値へと遷移していくものと考えています。

このような、金融と環境の融合は、その前触れかもしれません。
今私達は、時代のシーチェンジに直面しているのではないでしょうか。

時代の目撃者として、しっかりと現場に立ち会っていきたいと思います。

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