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駆け引きは続くよ、どこまでも〜

欧州理事会は6月20日、2030年までにEUの陸地と海域の少なくとも20%を保護・回復し、2050年までに回復が必要なすべての地域を保護・回復するという要件を含む、広範な自然回復措置の確立について合意に達したと発表しました。

欧州理事会のプレスリリース

この内容に「???」となった人も多いのでは?

というのも、2022年12月、カナダ・モントリオールで開かれた生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年までに陸域と海域の30%以上を保全する「30by30目標」などがターゲットに位置付けられていたからです。

生物多様性サイト(環境省)より

気候変動の舞台ではリーダーシップを見せているEUですが、生物多様性のステージでは、少し事情が異なっているというのが実情のようです。

現状を確認すると、EU理事会における審議では、法案は20票賛成、5票反対、2票棄権の結果で可決されています。この結果は、一部の国が異議を唱えていたものの、各国が妥協の意志を示したことを反映しています。

他方、欧州議会の審議では、議会に環境委員会に、法案に反対する「否決修正案」が欧州人民党(EPP)から提出されました。この法案に対する委員会の投票は、44対44で完全に分裂。

多数を得られなかったことから、Nature Restoration Law(自然復元法案)は、7月の本会議での採決にめでたく進むことができました。

さて、以前ご案内したように、EUの法律は、EU理事会と欧州議会で採択されて初めて成立します。

EU理事会では既に採択されていますので、あとは、7月の欧州議会における本会議での採決のみ。ただ、EU理事会は加盟国の閣僚で構成されるのに対し、欧州議会は、5年ごとの直接選挙で選ばれる議員で構成。

日本で例えると、欧州議会が衆議院、EU理事会は参議院といったところでしょうか。欧州議会は欧州市民の利益を代表する機関とも言える訳で、EU理事会のように、政府の思惑ですんなり通るということはないのでしょう。

ここで冒頭の「合意」です。

欧州理事会は、EU理事会と名前は似ていますが、欧州委員会のように、EUの行政執行機関として法案を提出することもなければ、EU理事会や欧州議会のように立法権もありません。

しかし、全EU加盟国の首脳(大統領か首相)および欧州委員会委員長、常任議長をメンバーとする最高政治機関であり、EU首脳会議とも呼ばれています。また、欧州理事会の常任議長は、EU大統領と呼ばれます。

なので、G7のように、政策の行方に対しての道筋を示す役割があると言ってよいでしょう。

その欧州理事会が、30by30ではなく20by30という「方向」で、審議するように「道筋」を示したものが、「合意」という訳です。

欧州委員会は、既に合意内容を受けて、柔軟な姿勢に変わっています。

詳しくは欧州理事会のプレスリリースを参照頂きたいのですが、具体的な指示も出しているようです。

ということで、7月の欧州議会は、欧州理事会の合意内容を反映した修正を加えた後に採択されることがほぼ確実になったということが、「欧州理事会が合意に達した」というプレスリリースが伝えるメッセージだったのです。

EUは、3月28日のエネルギー相理事会で、2035年にゼロエミッション車以外の販売を原則禁じることで正式に合意。内燃機関車の新車販売を全て認めない当初案を修正、温暖化ガス排出をゼロとみなす合成燃料の利用に限り販売を認めましたが、​何事も最後まで分からないものですね。

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