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排出権取引の現在地

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カーボンプライシングの1つ、排出権取引。世界を見渡すと、EUや中国、韓国、ニュージーランドなど、幅広い国で実施され、着実な効果を上げています。日本で検討されているGX-ETSはど…
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#排出権取引

世界銀行のCPレポート 斜め読み(1)

世界銀行(世銀)は、こちらのダッシュボードを通じて、世界のカーボン・プライシング(CP)の情報を発信しています。 説明をしておくと、CPには次の3つの種類に区分されます。 排出量取引(Emisssion Trading Scheme:ETS)のみであれば、ICAP(International Carbon Action Partnership)も重要な情報源です。 導入されている国・地域がマップやリストで示されますし、排出権価格(Allowance Price)のチャー

ETSとカーボン・クレジット市場は違います

このところ「カーボン・クレジット」という名称の知名度が上がり、「なんとなく知っている」という方が多くなってきたように感じています。 また、JPXがカーボン・クレジット市場を開設したために、株式と同じようにマーケットを通じて売買できるということを知った方もいるでしょう。 ですが、市場を通じて(もちろん、相対でもできますが)売買できる「カーボン・クレジット」全てが、EU-ETSを始めとする、ETS(Emission Trading Scheme)でも使用できると思っている人も

NZ-ETSの衝撃

2008年に導入されたNZ-ETSは、2005年に開始されたEU-ETSには及ばないものの、長い歴史を持ち、常にアップデートを行ってきた「老舗」です。 2017年、37歳で当時世界最年少の女性首相、アーダーン氏を輩出するような革新的なイメージのあるニュージーランドですが、ETSにおいても「先見性」を活かした画期的なシステムとなっています。 特に目を見張るべきは、セクターカバー率の高さです。 国の排出量全体に対するカバー率は49%に留まりますが、農業以外の産業セクターは全

排出権/クレジット価格の相場観

クレジットの認知度が高まるにつれ、「どんなクレジットがあるのか」「どこで買えるのか」「何に使えるのか」「いくらなのか」と聞かれることも増えました。 ということで、今回は「いくらなのか」についてご案内したいと思います。 なお、カーボンプライシングとしては、その他に炭素税ありますが、あちらは法律によって金額(率)が決められており、市場メカニズムで変動しないので、今回は扱いません。 さて、まず、法的拘束力を持つか否かによって異なります。 ご想像通り、法的拘束力を持つ方が、高い

ETS界隈の動きをキャッチアップ

23年が早くも半年が過ぎ、日本も間もなく夏に突入しますね。 恐らく、今年もまた「前例のない」猛暑となることでしょう。 皮肉にもこの現状が、「温暖化懐疑論」を下火にしている一因になっていることは否めないのかなと思っています。 また、ありがたいこと(?)に、カーボンプライシングも、同様の理由で現実味を帯びてきていることも事実。5月に採択されたGX推進法において明記され、「初めて知った」という方もいらっしゃるかもしれませんが、世界は一歩以上進んでいるんです。 カーボンプライシン

政策を成功に結びつけるCCTSD

ローカルな話で恐縮ですが、昨日の23年2月19日、地元佐賀県は鳥栖市の市長選挙の投票日でした。5期目を目指す現市長に、県議4期の実績をひっさげて挑戦する自民推薦の新人の対戦。自民は現市長に4期連続で敗れているところ、論点も多く、注目されていました。 結果は、新人が702票差で現職を破り、初当選でした。(ちなみに、小学校の先輩で、一緒に少年野球をやったりしてました) この結果とその要因をつらつらと思っているうちに、これって、環境政策を始めとする施策の成否につながるなぁとの思

韓国の排出権取引市場について(その2)

排出権取引市場(ETS)情報シリーズとして、韓国ETSをお届けしていました。 概要に引き続き、今回は、第1、第2期間を終えた段階での成果、及び参加企業に対して実施したアンケート結果をご案内します。前回同様、IGESのセミナー資料を利用させて頂きます。 まずは、対象事業者の分布を見てみましょう。 事業者数及び割当量は、産業部門が圧倒しています。 全国に分布していますが、やはり、北西部ソウル近辺、及び南東部プサン近辺に集中しています。 各年度の結果がこちらになりますが、義

GXリーグの目指す排出量取引制度(その5)

これまで、4回にわたり、GXリーグ基本構想が検討に着手した、排出量取引制度(GX-ETS)について紹介してきました。 前置きが非常に長くなって恐縮ですが、ようやく、具体的な手続きについてです。本格稼働前と、稼働後に分けて説明がなされました。 排出量取引は、基準年排出量を算定するところがスタートです。 GX-ETSでは、2013年度〜2021年度(昨年度)から自由に選べます。 基準年の排出実績は、第三者検証が必要な点に留意下さい。 この費用は、手出しになります。 次に、2

韓国の排出権取引市場について(その1)

排出権取引市場(ETS)の現状について、これまで何度かお伝えしてきました。 今回は、お隣、韓国のETSについて、IGESがセミナーを開催されましたので、その内容を簡単にお伝えしようと思います。 ちなみに、IGESでは、気候変動トラック及び炭素市場トラックという、私が最も関心の高いテーマについて、時機を得たセミナーを開催されており、情報ソースとして、いつもお世話になっております。 なお、国内のETSは、目下「自主的なクレジット取引制度(GX-ETS)」という位置づけで、G

GXリーグの目指す排出量取引制度(その3)

排出権取引制度によって排出削減が達成されるためには、 1.総排出可能量(Cap)が設定されること 2.対象企業は参加が「義務」であること 3.罰則が定められていること が重要であると、(その2)で述べました。 GXリーグで議論が始まった「排出量取引制度」において排出削減が達成できるか否かは、この「Capを遵守する仕組みが備わっているか」を見ればよいということに尽きます。 説明資料では、「自ら、野心的な削減目標水準を設定」とあります。 GXリーグ基本構想は、賛同企業にお

GXリーグの目指す排出量取引制度(その2)

「GXリーグ基本構想」の本丸、「排出量取引制度」の検討が動き出したことを受けて、先のnoteでは、これまでの経緯を振り返ってみました。 環境に関わってきた人間なら「いつか来た道」と思うことでしょう。 ・議論は散々やって来た ・何を今さら ・結局やらないんでしょ こういう人もいるでしょう。私もその一人です。 石橋を、叩いて叩いて、叩き壊して渡らない。 こう嘯いたこともあります。 「やらないために、やってるんじゃないの」とも。 ですが、ここは一旦、与件を持たずみてみたいと

世界の排出権取引市場動向

日本では、民主党政権時代から、何度となく議論され、試行され、それでも日の目を見ていない「排出権取引」 現在は「GXリーグ基本構想」の下、440の賛同メンバーの協業で、ルール作りが進行中。22年9月から23年1月の5ヶ月間、JPXにて取引所市場の実証事業を行う予定です。とはいえ、GXリーグにおける企業由来の超過削減枠は取り引きされず、J-クレジットのみ。システムの検証がせいぜいでしょうか。 4月に、こちらでもご紹介しております。 しかし、世界に目を向けると、異なった景色が

素朴な疑問シリーズ〜排出権?排出量?

平成20年「福田ビジョン(覚えてます?)」に基づき、排出量取引の国内統合市場の試行的実施が開始されました。 1.試行排出量取引スキーム 2.国内クレジット 3.京都クレジット この3つを「統合」した国内市場を設け、クレジットの売買をする構想。 カーボンプライシングの一翼として再び議論されている「排出量取引」市場が、国内で産声を上げたのです。 まぁ、「知る人ぞ知る」ではありますが、一応、新聞やメディアで報道されたので、記憶にある方もいらっしゃるかと。 ですが、新たな概念