GXリーグの目指す排出量取引制度(その2)
「GXリーグ基本構想」の本丸、「排出量取引制度」の検討が動き出したことを受けて、先のnoteでは、これまでの経緯を振り返ってみました。
環境に関わってきた人間なら「いつか来た道」と思うことでしょう。
・議論は散々やって来た
・何を今さら
・結局やらないんでしょ
こういう人もいるでしょう。私もその一人です。
石橋を、叩いて叩いて、叩き壊して渡らない。
こう嘯いたこともあります。
「やらないために、やってるんじゃないの」とも。
ですが、ここは一旦、与件を持たずみてみたいと思います。
まず、排出量取引とカーボンクレジット制度をおさえておきましょう。
といいますのも、混同されている場合が多いと思うからです。
IGESの松尾さんが、セミナーで使用されていたレジュメをお借りします。
(なお、Cap-and-Tradeというのは、排出権取引が成立するためのシステムであり、ほぼ同じ意味で使われます)
まず、バウンダリーを考えましょう。
Cap-and-Tradeでは、対象企業のスコープ1、2排出量をカバーします。
他方、カーボンクレジットは、自社以外の排出量も対象になります。
Cap-and-Tradeを包摂する概念です。
ですが、実際は、排他的だと思います。
というのも、自社の努力により削減できた排出量を算定してクレジット化するくらいだったら、直接自社の排出量として算定するでしょう。ボランタリーなクレジット制度においても、自社で創出したクレジットを、自社で使用することは想定していませんし。
つまり、Cap-and-Tradeの対象企業によるカーボン・クレジットの購入は、Cap-and-Tradeがカバーしている排出源の外の削減に貢献することになり、バウンダリーの中の排出量は逆に増えることになります。
したがって、Cap-and-Tradeでは、それぞれの企業に割り当てられる排出枠(allowance)を超えた場合に「取引」によって「排出枠」を増やすために使用できるものは、同じCap-and-Tradeの対象企業による「排出権(排出許可証」しか認めないのが原則です。EU-ETSがそうですよね。
加えて、排出権取引制度によって排出削減が達成されるためには、
1.総排出可能量(Cap)が設定されること
2.対象企業は参加が「義務」であること
3.罰則が定められていること
が、何よりも重要です。でなければ、CapをTradeしようと思わないでしょ?
これを踏まえて、両者を比較すると…
カーボン・クレジットの売買では、総量は減らないことは明らかですね。
一方で減らした分を、他方へ移しているだけですから。
Cap-and-TradeではCapが決まっていますから、これを超えることは無い。
そして、運営主体がCapを削減していけば、着実に減少します。
対象企業は参加が義務ですし、罰則があるから、遵守せざるを得ない。
ただ、どうしても政策コストがかかるので、Cap-and-Tradeでカバーするのは、大規模排出企業に限られてしまいます。そこで、中小企業や個人は炭素税などで、確定申告と一緒に行うようにすればよいでしょう。
とにかく、Cap-and-Tradeでは、義務的なCapが設定されなければ意味がありません。
では、GXリーグで議論が始まった、構想の本丸「排出量取引制度」は、本当に「排出削減」を達成できるのでしょうか。
次回、詳しくみていきたいと思います。
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