メニカンbiweekly #1 マンション建築の系譜学1「東神奈川トーカイプラザ」
この度メニカンでは、これまでの書評などのテキストに加えて、よりコンパクトなテキストや、メンバーによる隔週報を定期的に公開することになりました。より気軽に書いて、より気軽に読んでもらえるための試みです。
ぜひよろしくお願いします。
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マンション建築の系譜学1「東神奈川トーカイプラザ」
隔週で公開するメニカンbiweekly初回の担当は谷繁です。ここで往年のマンションを巡るシリーズを試験的に始めたいと思います。
まず先日調査で横浜に行ったついでに、1979年竣工の「東神奈川トーカイプラザ」(高層棟の名称はスカイハイツトーカイ)というマンションを訪ねました。
図1 東神奈川トーカイプラザ高層棟(スカイハイツトーカイ) 筆者撮影(2021)
高層マンション開発は、1970年に建築基準法改正において絶対高さ制限が撤廃されたことにより活発化します。最初期の事例として「三田綱町パークマンション」(1971)や「椎名町アパート」(1974)などがあります。「超高層」の定義として度々用いられる60m以上という基準からすれば、これらの事例は超高層ではありません。他方で高さ78.7mの「東神奈川トーカイプラザ」は超高層マンションとして初期の事例と言えるでしょう。
「東神奈川トーカイプラザ」は東海アルミ箔の金属加工工場の跡地に建設されました。高層棟の周囲には、5階建の低層棟(現在はイオンが入居)や公会堂が併設されており、230戸分の住戸と同時に商業エリアやコミュニティスペースを作る開発意図を感じます。外観から見るとわかりづらいですが、不動産サイトの図面を見る限り各戸に小さなインナーバルコニーが設けられています。バルコニーの構成だけでも現在のタワマンとは違った雰囲気があります。
当時の雑誌『施工』には、このマンションの建設に採用されたミッコースラブシステムという構法について施工者である熊谷組による報告が掲載されています。ミッコースラブシステムはオーストラリアで開発されたプログレッシブ・ストレングス工法の応用版です。ミッコートラスと名付けられた鉄筋トラスが支保工の役割と鉄筋の役割を兼ねます。そのトラスの間にコファーフォームと呼ばれるプラスチック製の型枠を並べ、打設するという構法です。支保工が省略できることや型枠を転用しやすいことなどから、生産性の向上が期待されたようです。先述した「椎名町アパート」でも、鹿島建設がHiRC工法と呼ばれる構法を開発しました。70年代のゼネコンにとって高層マンションの世界は新しい構法に挑戦する実験場だったということでしょう。引き続き私が担当するメニカンbiweeklyでは定期的に住宅史を彩るマンションを見ていければと思います。
図2 ミッコースラブシステム (出典:参考文献3)
図3 コファーフォームを並べる様子 (出典:参考文献3)
参考文献
1) wikipedia 「東海アルミ箔」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%9F%E7%AE%94#cite_note-24
2)安藤正雄,「タワーマンションを実現する技術の開発」,『日本の近代・現代を支えた建築 建築技術100選』,日本建築センター,2019年
3)立沢卓郎他,「ミッコースラブシステムの施工 東神奈川トーカイプラザ高層棟」,『施工』,vol.156,彰国社,1979年
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