中・高等学校対抗交渉コンペティション
先日、東京都立日比谷高等学校において、第7回中・高等学校対抗交渉コンペティションが開催され、審査員として参加してまいりました。
本大会は、約20年の長い歴史のある大学対抗交渉コンペティションをベースに、学習指導要領の「社会」や「公民」において示される社会参画する力や合意形成する力を育み、アメリカ全土のロースクールではほぼ必修科目となりつつある「交渉学」の考え方や技能を身に付けることを目的に、2017年にスタートされています。
第7回の交渉テーマは「漁業に関する国際交渉」でした。
海を挟んで隣り合う架空の2国の漁業や貿易、海域全体の漁獲量減少などに関する問題でした。参加校は、赤白国を代表するレッド社と青黒国を代表するブルー社の二手に分かれ、事前配布された両社の「共通情報」資料と自国・自社の「秘密情報」が掲載された資料を読み、作戦を立てて挑みます。
お互いに、相手の秘密情報はお互いに知らない状態で交渉に臨むので、とてもリアルな状況となっています。また、共通情報も8ページにわたるボリュームで、論点になりうる内容も1つ2つではなく、私自身も審査のために事前に資料を拝見しましたが、さっと目を通しただけでは、簡単に作戦を立てられないほどに難しさのある内容でした。
当日は、オンライン参加(ハイブリッドによる対戦)も含めて16チームが参加し、10分の休憩を挟んで前半・後半40分ずつの合計約90分間の交渉に挑みました。対戦中は各校4〜5名が自校で決めた役割に分かれて(社長、副社長、貿易担当、交渉担当など)交渉を進めていきます。さらに、途中、任意で3分間ずつ作戦タイムを取ることもでき、その時間をどう有効的に使えるかも結果に影響します。どのチームも各校なりのベストを尽くして、本当に頑張られていたと思います。
授賞式の際、大阪大学大学院 野村美明教授が学生に向けてされたお話がとても印象的でした。交渉で重要なことは「自由」と「価値観の多様性」であること。自由がなければ交渉の前提が成り立たず、価値観の多様性への理解がなければ、交渉は真にはうまくいかない、と。そして、気持ちの良い交渉とは相手へのリスペクトのある交渉だ、ということでした。
交渉大会というと、勝ち負けを競うように思われるかもしれませんが、審査員が審査する項目は、「柔軟な対応ができていたか」、「相手の主張や事情を正確に理解していたか」、「双方の利益を満たす合意になっていたか」、などであり、「人と問題を切り離す」、「双方に有利な選択肢を考える」、「よい伝え方を工夫する」といった「交渉の7つの指針」に沿った交渉ができているかがポイントとなります。
昨今は、論破ブームがあったり、法律や正論を持ち出せばトラブルが解決する、という大人も含めた誤解や幻想が多いと感じますが、本大会で大切にされているのは、現実的でサステナブル(持続可能)な、課題や問題への向き合い方だと感じ、心から感動しました。
今回、審査員として参加させていただきましたが、私自身たくさんのことを学び、大いに刺激をいただきました。このような交渉スキル、他者との関わり方のトレーニングを積んだ学生たちが増えていったなら、もしかしたら紛争や課題に満ちたこの世界も変わっていけるかもしれない、そんな風にすら感じられる素敵な機会でした。これからもぜひ応援させていただきたいと思います!
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