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ルノワールはるつぼ

カフェは人のるつぼだ。様々な人が同じ空間を共有していて、オムニバスドラマを垣間見ているようで飽きない。

ルノワールで内勤をしていたとき、目の前の席にプーさんみたいな中年男性が座った。座ってメニューをさっと見て店員さんにオーダーをした。
「リッチバターチョコレートケーキとアイスコーヒーで。」
かなり意志のこもった口調だった。事前にこれを食べようと心に決めて来たのだろうか。


一方、数個開けた左の席には起業をしようとしている女子大生と、彼女の相談に乗る経営者らしき人がいる。

女子大生:人生短いと思うので、今やりたいこと頑張りたいんですけど、本当にこれでいいのかどうしても焦ってしまうんです。やりたいことをやり遂げないと幸せになれない気がして、、
経営者系おじさん:いや、君の年代でそんなこと考えてるだけ偉いよ!僕が君くらいの時は全然考えてなかったよ・・・


女子大生のバイタリティあふれるBGMを聞きながら、視界には黙々とリッチバターチョコレートケーキを幸せそうに頬張る中年男性の姿。

思わず、あなたにもこの学生のように何かを成し遂げること=幸せと思っていた時期があったのでしょうか、と聞きたくなるほどの堪能っぷりだ。(失礼)

もし仮にこの学生が同じ問いをケーキを頬張る中年男性に聞いたらなんと答えるだろう。
何も言わず、ただ目の前で美味しそうにケーキを頬張ってみて欲しい。彼女は何を感じ取るのだろうか。

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思えば私も学生時代は何かを成し遂げて何者かにならねば!というぼんやりとした焦燥感にいつも駆られていた気がする。より良い明日へ未来へ、少し生き急いでいた様に感じる。

でも社会人になり、自分の今の人間関係・経済力・スケジュール感を嫌でも俯瞰してみれるようになってきた。良く言えば、「今」を積み重ねることの贅沢さを噛み締める年齢になって来たのかもしれない。
今、羽を休めること。
今、やってみたかったことにチャレンジしてみること。
今、やらないと選択すること。
今、大事な人間関係を育んでいくこと。
今、嫌なことは遠ざけること。

良い悪いかは置いておいて、今に主眼を置ける様になってきた。
だからケーキを幸せそうに頬張る中年男性はなんだか素敵だな、と思った。
好きな瞬間を存分に楽しめる大人になりたいと思った。

そんなことを考えていたら、ケーキの中年男性はうとうととお昼寝を始めている。


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