さりげなく、いなくなれたらそれがいちばん幸せ。『ミトンとふびん』
もしもわたしがいま、この場で召されるとしたら、心残りは何だろう。
ふと、そんなことを考える。
吉本ばななの『ミトンとふびん』に登場する主人公はみんな、家族を亡くしている。
お母さんだったり、おばあちゃんだったり、弟だったり、親友だったり。
心のどこかにぽっかり空いた穴を無理に埋めるのではなく、金沢や台北、ヘルシンキなど、日常から少しだけ離れた場所で、湯治のようにじんわり癒していく物語を集めた短編集。(と私は思っている)
私が好きだった『カロンテ』は、しじみという女性がローマで交通事故に遭い亡くなった友人・真理子の婚約者・マッテオに遺品を渡しに行く物語。
3日間の旅路で、亡くなった友人の面影を追いかけるしじみは、小さな奇跡を通して、真理子の最後の想いに触れる。
小説でしかありえない展開だけれど、少しずつ気力を取り戻して、前のめりに動けるようになる過程こそが、癒しだよなぁと思う。
当たり前だけれど、みんないつかは死ぬ。
長く生きれば生きるほど、身近な人を見送る機会が増え、「死」がどんどん身近になっていく。
それはもう、止められないこと。
仕方のないこと。
もしも、いまこの場で召されるとしたら……そうだな。
最後にスープ・ストックのあったかいスープ(できればポタージュ系)をひと口飲ませてほしいかな。ちょっと肌寒くなってきたから。
暑い時期だったら生牡蠣(岩牡蠣)か、杏仁豆腐だったかもしれない。
さりげなくこの世から去ることができたら、それがいちばん幸せだ。
いまはそんなふうに思っている。
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