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「100人カイギ」に学ぶ、終わりあるコミュニティという"うまい"仕組み

私がよくできていると思う仕組みに「100人カイギ」があります。

どんなものかというと、

⚫︎街で働く人を起点に人と人とをゆるやかにつなぎ
⚫︎都市のあり方や価値を再発見する

を目的としたコミュニティのフォーマットで、ルールも単純明快です。

⚫︎毎回、地域で活動をしている5名のゲストの話を聞く(だけ)
⚫︎ゲストが100名に達したら解散

地域ごとに展開可能なフォーマットのため、2016年の港区から始まり、今や全国に展開して50以上の「100人カイギ」があります。

今回は、この「終わりがある」この仕組みの分析を通じて、続くコミュニティの立ち上げ・運営のヒントを考えます。

始めるのをためらわせる「大変さ」を取り除く仕掛け

初めてコミュニティを立ち上げる人が不安に思うのは以下のようなことでしょう。

1)方針・やることを考えて決めなければならない
2)運営メンバー確保し、関係を構築しなければならない
3)収支、集客、継続などの責任がある
4)いつまで、どれくらい負荷があるか見えない
5)失敗したら格好悪い

100人カイギはこれらを上手く減らしています。

1つ目は「何をするのかを具体化して決める」大変さ。

何を目的に、どんなイベントをするかは決まっているので考える必要がありません。

決められていることも極めてシンプルなので、理解することも伝えるのも容易です。

実際「だれでも1回説明すれば70点の場がつくれる再現性を考えてプログラムをデザインしている」と、この仕組みを作った高嶋さんは言います。

2つ目は「運営メンバーの確保と関係構築」。

運営メンバーは重要な一方、メンバー間の人間関係がコミュニティ崩壊の原因になることも多いです。

精神的にも工数的にも支えてくれるメンバーは必要です。

しかし、何も考えずに人を集めると、後でメンバー間の方向性、相性・価値観・熱量の差が問題となり、人を変えるとなると一悶着おきます。

100人カイギの場合、何のために何をやるかが決められていて、それに共感した人が手を挙げるので、主義主張がぶつかる可能性も低いでしょう。

何をするかもシンプルで、テンプレートも提供されているので、どうやるかで議論が長引くことも、工数分担の差で揉めることもないと考えます。

「リーダーをやる人がいるなら運営メンバーやります」という人を、主催者に手を挙げた人に引き合わせることもあるそうで、自分で探して見極める手間も減ります。

月1回で20回、約2年なら、派閥など人間関係上の問題が深刻化する前に終わるでしょう。

3つ目は「収支・集客・継続の責任」。

始めたばかりで、知名度も協力者もファンも信用もない段階では、赤字にならないようにしなくては、集客しなくては、というプレッシャーが大きな心理的負担になります。

100人カイギは非営利活動のため、登壇もスタッフも無償ボランティア、会場も無償提供が多いようです。

地域を活性化する非営利活動という、無償で協力しやすい大義名分があるためです。

会場代、登壇謝礼、スタッフ人件費という3大固定費が無ければ、シンプルなイベントの赤字リスクはほぼゼロです。

固定費が少なければ、原価を回収するための集客のプレッシャーも減ります。

登壇者への面目があるので、人が来なくていいということではありませんが、集客自体が自己目的化して場の趣旨に沿わない人を無理に集める力が働くのを予防する効果もあります。

何かを始めると、漠然と続けなければならないと思ってしまいがちですが、これは終わることが決められているので、その固定観念からも開放されます。

また、リーダーも途中で交代できる仕組みになっているので、始めてみたけれど色々難しくなった、という場合も気軽にやめられます。

運営観点でも、主催者の問題で止まることを防ぐ仕組みになります。

4つ目は「工数」。

終わりがあれば「いつまでやればいいか」が分かります。

20回、月1ペースなら2年です。

負荷を分担してくれる運営メンバーも集めやすいので、気が楽になります。

そもそもが簡素化されたイベントで、テンプレートも用意されているので、作業量も少ないです。

このように、コミュニティを始めようか考える際の懸念や立ち上げの段階の大変さを、様々な仕組みで低減しています。

5つ目は「体面」。

誰しも失敗を晒したくはないもの。

コミュニティは人を巻き込むので、失敗すれば周りの人に知られるのではと気にする人もいるでしょう。

実際は、自分が思うほど他人は見ていないものですが、ここではあくまで主観を正とします。

100人カイギは良い意味で「他人が作った仕組み」なので、自分のプライドは傷付かずに済みます。

また、「意識が高すぎない人の集う、ゆるい場所」として「地域で面白い活動をしている人」を呼び地域の人をつなげるだけの集まりで、参加費も1,000円ですから気も楽です。

これが「XXにイノベーションを起こす」、著名人が意識高い話をする、参加費もそれなりに取る、みたいな場だと、自分で高めた期待値に応えなければならないプレッシャーがかかります。

その他、横展開しているコミュニティならではのメリットもあります。

同じ活動を主催している他地域のリーダー同士で知見を共有したり、悩みを相談し合ったりできます。

また、100人カイギSummitという年1回の「お祭り」を通じてカイギ間の結束も固めています。

「終わり」が「死因」を予防

以前、コミュニティの終わり方の類型を「コミュニティ4つの死因」としてまとめました。

「終わり」を組み込むことで、多くの「死因」も予防できます。

がん:場の趣旨に沿わない人が類友で増殖し、本来いてほしい人が遠のく
心停止:負荷が推進力を上回り、主催者の心が折れる
老衰:マンネリに陥り、新人が入らず古参も足が遠のく
脳死:目的を見失い、続けることが目的となる

まず、20回しかないので、変な人が混じってのさばることも少ないです。そもそも、良からぬ輩は「うまみ」を嗅ぎつけるので、ゆるい会にわざわざ来る可能性も低いでしょう。

負荷の軽い仕組みなので、2年くらいは勢いで乗り切れるでしょう。

また、結婚、出産、昇進、転職などでコミュニティ活動に割ける時間が激変することも、2年くらいなら少ないでしょう。

終わり=ゴールが見えるとむしろ頑張れます。実際「折り返し10回を過ぎて終わりが見えてくると結束力が高まるチームも多い」と言います。

マンネリに陥ったり、古参がのさばるに至るほどの回数や期間もありません。

目的自体決められていますし、終わりがあるので続けることが目的化しません。

気軽に「コミュニティ・リーダー経験」を積ませる仕掛け

コミュニティをゼロから立ち上げるのは大変で二の足を踏むものです。

100人カイギは、その大変さを気持ちの面でも実際の負荷の面でも下げることで、コミュニティ立ち上げを誰でもやろうと思える仕掛けとしてつくられています。

そのため、自分でゼロからやろうとまでは思わない人でも、それなら自分もやってみようと思えます。

人が作った仕組みであっても、主催者として運営していれば、それなりに考え、決めて、調整するなど経験を積み、2年もすれば一人前になれるでしょう。

次は独自の場を自作したいという人も出るでしょう。

起業と同じで、二度目からは何をどうすればいいか、どんなタイミングでどんなことが起きるので、どう備えれば良いかなどのことが分かり、成功確率が高まるはずです。

既存のものも、終わりがあるので安心して離れられます。

そのようにして、良い場を作れる人を増やす、意義のある仕組みだと思っています。

因みに次回の豊島区100人カイギは私がアレンジしたので、よろしければご参加ください。

100人カイギから学ぶ、コミュニティ立ち上げのヒント

この仕組みから、私なりにコミュニティをスムーズに立ち上げるヒントをまとめると、以下のようになります。

1)ビジョン目的は多くの人が共感しやすいものにする
・シンプルで、素朴な欲求に根ざした、意識高すぎないもの

2)コンテンツは、特に最初は簡潔なものに絞る

3)それにより、調整運営を、誰でもできる簡潔で軽いものにする

4)主催者の心理的・物理的負荷を減らす仕組みを作る
・運営チーム、相談相手、テンプレ類など

5)固定費先払いをゼロに近づける

6)大きな区切りを意図的に作る
(運営チームの代替わりなど)

もちろん、意識高いものにしたいとか、自分が長く続けなければならないとか、個別の事情でそのまま適用できないものもあるでしょう。

とはいえ、何がどう、コミュニティの継続性を高めるか理解して、立ち上げや運営に望むと、うまく立ち上げられる可能性が高まります。

ぜひ良い場をつくって下さい。

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