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サムスン『新経営』の内容メモを公開します

『新経営』は、先日亡くなられたサムスンのニ代目オーナーの李健熙氏が1993年に発表した経営方針です。

今でこそ売上20兆円・営業利益5兆円を超えるサムスン電子ですが、1990年代初めは売上2,000億円に満たない"三流メーカー"でした。そんな状況で、超一流になる決意とビジョンを宣言し、20数年でそこまでの成長を実現しています。

『新経営』はその起点となるビジョンと言えます。

内容は、1993年の時点で「デザイン経営」の重要性を説いているなど、先見の明も随所に見られますが、当たり前のことも多いです。今のサムスンがこの額面通りの会社かと言えば、そんなこともないでしょう。

まあ、真理などそんなものですし、宣言通りやり切って結果を出していることは、素直にすごいと思います。

グローバルで継続して圧倒的成果を出した経営者が、リーダーとしての強烈な責任感と危機意識に迫られて書いた、経営のための檄文は、国内市場で一時的にささやかな成功を収めた"忙しい"起業家の後講釈をゴーストライターにまとめさせた、自社の宣伝と自身の承認欲求のための扇情的文章に比べれば、いくらかは学ぶべきものがあるかと思います。

ネットにあるかと思いきや見当たらなかったので、折角なので手元にあるメモを公開します。目次の全てと、内容の要点が書いてあります。興味があればご参考下さい。

◆目次

第一部 なぜ変化が求められているのか
(1) 私がフランクフルト宣言に踏み切った理由
(2) 世紀末的な環境変化
(3) 私たちの現実
(4) 超一流を目指す三星の可能性
(5) 新しく生まれ変わらねばならない

第二部 三星はどう変わるべきか
(1) 自分からの変化
1. 家族以外のすべてを変えてみる
2. 自分から変化しなければならない
3. 正しい方向に変わろう

(2) 三星憲法
1. 人間味とモラル回復
2. 人間味
3. モラル
4. 礼節とエチケット
5. 生活の中の三星憲法

(3) 一つの方向
1. 「一つの方向」の意味
2. 利己主義-一つの方向を邪魔するもの
3. 「一つの方向」を実践する
4. 変化、「一つの方向」-すなわち、三星の改革

第三部 三星は何をすべきか
(1) 21世紀の競争力

(2) 質重視の経営
1. 質は経営の命
2. 商品の質
3. 人の質
4. 経営の質
5. 質を重視して進む道
6. 革命よりも更なる覚悟

(3) 情報化
1. 産業社会から情報社会へ
2. 情報インフラの構築が最優先
3. 情報化は「一つの方向」
4. 情報化-しっかり知り、きちんと学び、投資する

(4) 国際化
1. 国際化の基本哲学
2 現地化、一流化
3. 複合化-第二、第三の三星

(5) 複合化
1. 21世紀の競争優位戦略
2. 複合化のいくつかのタイプ
3. 複合団地の構成
4. 複合化の推進は今から

第四部 三星が追求していくべきこと
(1) 超一流企業の実現
(2) サラリーマンの天国
(3) 人類社会に貢献
(4) 超一流企業実現のための私の意思

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◆内容メモ

なぜ変化が求められるのか
・経済戦争時代は強者のみ生き残る。超一流への長い道程。
・経済戦争は目に見えない。ことなかれ主義や驕りは死に直結。利己主義はダメ。
・強者=超一流にならなければならない。頭脳が資源。創意と自立が重要。
・その反対は権威、形式、驕り、利己主義。それらは組織から追放すべき。

どう変わるべきか
・自ら変わる。易しいことから、徹底して。自分との約束。
・下からの提案を聞く。提案箱を一杯にする。
・自分を知る。弱点、欠点を知る。
・原則と基本を徹底して実践する。
・上への批判を恐れない。
・お互いを信じる。
スポーツから学ぶこと
・ゴルフ:ルール、エチケット、自立
・野球:スター、キャッチャー
・ラグビー:判断力、闘志
・サッカー:チーム、組織

三星憲法
・人間味:相手の立場を理解する
・モラル:良心、お互いに直す、人をダメにすることは許せない
・礼節:エチケット(相手文化の受容)、正道(遵法)、共栄

一つの方向
・これを邪魔するのが「利己主義」
・ソフトのつながり
・記録文化
・スピードは人それぞれ、人の邪魔をしない
・総論賛成、各論討議、全員参加
・用語の統一
・信賞必罰 ×反モラル、不正、ウソ、足を引っ張る
・失敗は成功の基。記録文化が重要。
・一つの方法(方向・精神)≠画一(方法)

何をすべきか
・21世紀の競争力
-よりよく、安く、速く:企業の競争力
-ソフト:サービス、技術、情報

・「質」重視の経営
-量至上主義は×。品質は常に重要、不良品はガン
-顧客接点が重要。現場で決定しなければならない。×指示を仰ぐ
-顧客の声に耳を傾ける。驕りは×。数年後に望むことは何か。
-最高の品質とサービス:No.1、Only1
-10年後を見越す(松とヒノキ)
-科学と文化:感性に訴えるデザイン
-デザイン革命:デザインが競争力を左右。人材がキモ。R&D、設計、デザインが競争力の60-70%
-技術重視:核心は自己保有、買えるものは買う、学ぶ

・人の質
-創意、戦略、管理
 *自律と創意
 *個性、多様、情報化、システム化、ソフト化
-天才を全世界から集め、一つにする
-人を育成しないのは罪悪
-まずは語学

・経営者の条件
-知、行、用(させる)、訓(おしえる)、評
-シミュレーション:方向、目標、実行、教、評
-次世代に伝える

・経営の質
-「業」の概念:本質・特性→革新の成功要因→管理力量の集中

・立体的思考
-経営=見えないことを見ること。同じものを様々な角度で観察。表面→本質。一石王鳥

・スピード経営、チャンスの先取り
-機会を先取り、機会損失を最小限に=利益の本質
-常に早く、適時に、頻繁に

・No.1、Only1に集中。減らすものは減らす。

・大きな管理
-使うところには使う-よく知る必要
-漏れている水道の栓を締める
-システム化、アウトソーシング

・情報化-生存のため

参考:デザイン経営の実装と実践(当方企画の講座)

余談:なぜこのメモを持っているのか

私がサムスン電子の日本法人に入社した時、2週間PCが届かず、やることがなかったので、上司の日本人役員が持っていた『新経営』日本語訳を2回ほど読み、興味深かったので手書きのメモを残していたからです。

なぜ2週間もPCがなかったかというと、独自のセキュリティ設定がなされたサムスン製PCしか使ってはならず、それは当然韓国から送られてくるため時間がかかるのに、手配がされていなかったというお粗末な理由です。

案外そんないい加減な一面もありますが、だからこそ圧倒的スピードで動ける、ということもあります。韓国企業あるあるは色々と面白ネタがあるのですが、それはまたいずれ。

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