マンション標準管理委託契約書 第14条(管理規約の提供等)

(管理規約の提供等)
第14条 乙は、宅地建物取引業者が、甲の組合員から、当該組合員が所有する専有部分の売却等の依頼を受け、その媒介等の業務のために、理由を付した書面又は電磁的方法により管理規約の提供及び別表第5に掲げる事項の開示を求めてきたときは、甲に代わって、当該宅地建物取引業者に対し、管理規約の写しを提供し、及び別表第5に掲げる事項について書面をもって、又は電磁的方法により開示するものとする。甲の組合員が、当該組合員が所有する専有部分の売却等を目的とする情報収集のためにこれらの提供等を求めてきたときも、同様とする。
2 乙は、前項の業務に要する費用を管理規約の提供等を行う相手方から受領することができるものとする。
3 第1項の場合において、乙は、当該組合員が管理費等を滞納しているときは、甲に代わって、当該宅地建物取引業者に対し、その清算に関する必要な措置を求めることができるものとする。
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13 第14条関係

① 本条は、宅地建物取引業者が、媒介等の業務のために、宅地建物取引業法施行規則第16条の2に定める事項等について、マンション管理業者に当該事項の確認を求めてきた場合及び所有する専有部分の売却等を予定する組合員が同様の事項の確認を求めてきた場合の対応を定めたものである。
 管理組合の財務・管理に関する情報を、宅地建物取引業者又は売主たる組合員を通じて専有部分の購入等を予定する者に提供・開示することは、当該購入予定者等の利益の保護等に資するとともに、マンション内におけるトラブルの未然防止、組合運営の円滑化、マンションの資産価値の向上等の観点からも有意義であることを踏まえて、提供・開示する範囲等について定めた規定である。
② 本来、宅地建物取引業者への管理規約等の提供・開示は組合員又は管理規約等の規定に基づき管理組合が行うべきものであるため、これらの事務をマンション管理業者が行う場合にあっては、管理規約等において宅地建物取引業者等への提供・開示に関する根拠が明確に規定されるとともに、これと整合的に管理委託契約書にお いてマンション管理業者による提供・開示に関して規定されることが必要である。
 また、マンション管理業者が提供・開示できる範囲は、原則として管理委託契約書に定める範囲となる。管理委託契約書に定める範囲外の事項については、組合員又は管理組合に確認するよう求めるべきである。マンション管理業者が受託した管理事務の実施を通じて知ることができない過去の修繕の実施状況に関する事項等 については、マンション管理業者は管理組合から情報の提供を受けた範囲でこれらの事項を開示することとなる。
 なお、管理委託契約書に定める範囲内の事項であっても、「敷地及び共用部分における重大事故・事件」のように該当事項の個別性が高いと想定されるものについては、該当事項ごとに管理組合に開示の可否を確認し、承認を得た上で開示するこ ととすることも考えられる。
③ 提供・開示する事項に組合員等の個人情報やプライバシー情報が含まれる場合には、個人情報保護法の趣旨等を踏まえて適切に対応する必要があるため、マンション管理業者は、管理組合の求めに応じ、具体的な対応方法についてあらかじめ明らかにしておくことが望ましい。
 なお、別表第5に記載する事項については、「敷地及び共用部分における重大事故・事件」に関する情報として特定の個人名等が含まれている場合を除き、個人情報保護法の趣旨等に照らしても、提供・開示に当たって、特段の配慮が必要となる情報ではない(売主たる組合員の管理費等の滞納額を含む。)。
④ 管理規約が電磁的記録により作成されている場合には、記録された情報の内容を書面に表示して、又は電磁的方法により提供するものとする。
⑤ 管理規約等において購入予定者等に対する管理規約等の提供・開示を含めて規定されている場合は、当該規定を踏まえて第1項の規定内容の追加等を行うものとする。
⑥ マンション管理業者が、甲の組合員から当該組合員が所有する専有部分の売却等の依頼を受けた宅地建物取引業者に対する総会議事録等の閲覧業務について、管理規約の提供等の業務とあわせて受託している場合は、当該閲覧業務についても第1項の規定の内容に追加等を行うものとする。この場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該議事録の保管場所において、当該電磁的記録に記録された情報の内容を紙面又は出力装置の映像面に表示する方法により表示したものの閲覧をさせるものとする。なお、議事録には個人情報やプライバシー情報が含まれる場合も多いことから、個人情報保護法の趣旨等を踏まえて適切に対応することが必要である。
⑦ マンション管理業者が第1項に基づいて提供・開示した件数、第2項に基づいて受領することとする金額等については、第9条第3項の報告の一環として管理組合に報告することとすることも考えられる。

解説

 宅建業者が区分所有建物の売買や賃貸の媒介を行う際、買主や借主に重要事項説明を行わなければならない。その際、共用部分の定めや専有部分の用途利用制限などが規約で定められている時は規約を提示し、修繕積立金の積立額やその専有部分の区分所有者が滞納している管理費等の額などを重要事項として説明しなければならない。それらを宅建業者に伝える必要があるが、それらを記載した書面は実務上「重要事項説明にかかる調査報告書」と呼ばれ、その調査報告書を宅建業者が管理会社に請求する。
 本来なら、管理組合が宅建業者に提示すべき書面だが、この条文で管理業者にその調査報告書の作成と宅建業者への交付業務を委託している。
 なお、この条文に対応するのは標準管理規約第64条第3項であるが、この第64条第3項は平成28年の標準管理規約改定で追加された部分であるため、それ以前の標準管理規約に準じた管理規約では、管理組合が調査報告書を作成して宅建業者に交付する業務は、規約に直接書かれていない。閲覧規定をもとに相手が望む情報を抜粋する形で作成交付することになっている。しかしながら、重要事項説明にかかる調査報告書は区分所有建物の売買、賃貸とともに請求されるものであるから、規約や細則に作成交付を管理組合の業務として明記し、それを管理会社に委託する形とした方が良いだろう。

参照条文等

宅建業法施行規則 第16条の2 (法第三十五条第一項第六号の国土交通省令・内閣府令で定める事項)
 法第三十五条第一項第六号の国土交通省令・内閣府令で定める事項は、建物の貸借の契約以外の契約にあつては次に掲げるもの、建物の貸借の契約にあつては第三号及び第八号に掲げるものとする。
一 当該建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類及び内容
二 建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号。以下この条、第十六条の四の三、第十六条の四の六及び第十九条の二の五において「区分所有法」という。)第二条第四項に規定する共用部分に関する規約の定め(その案を含む。次号において同じ。)があるときは、その内容
三 区分所有法第二条第三項に規定する専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めがあるときは、その内容
四 当該一棟の建物又はその敷地の一部を特定の者にのみ使用を許す旨の規約(これに類するものを含む。次号及び第六号において同じ。)の定め(その案を含む。次号及び第六号において同じ。)があるときは、その内容
五 当該一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用、通常の管理費用その他の当該建物の所有者が負担しなければならない費用を特定の者にのみ減免する旨の規約の定めがあるときは、その内容
六 当該一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額
七 当該建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額
八 当該一棟の建物及びその敷地の管理が委託されているときは、その委託を受けている者の氏名(法人にあつては、その商号又は名称)及び住所(法人にあつては、その主たる事務所の所在地)
九 当該一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容

標準管理規約 第64条(帳票類等の作成、保管)
3 理事長は、第49条第3項(第53条第4項において準用される場合を 含む。)、本条第1項及び第2項並びに第72条第2項及び第4項の規定 により閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報について は、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求に基づき、当該 請求をした者が求める情報を記入した書面を交付することができる。この 場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることがで きる。

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