マンション標準管理規約 第60条(管理費等の徴収)

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2024年6月7日改正


条文

(管理費等の徴収)
第60条 管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料について、組合員が各自開設する預金口座から口座振替の方法により第62条に定める口座に受け入れることとし、当月分は別に定める徴収日までに一括して徴収する。ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。
2 組合員が前項の期日までに納入すべき金額を納入しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用等並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。
3 管理組合は、納入すべき金額を納入しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする。
4 理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。
5 収納金が全ての債務を消滅させるのに足りないときは、管理組合は、理事会の決議により定める弁済の充当の順序に従い、その弁済を充当することができる。
6 第2項に基づき請求した遅延損害金、弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
7 組合員は、納入した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。

コメント

第60条関係
① 管理費等に関し、組合員が各自開設する預金口座から管理組合の口座に受け入れる旨を規定する第1項の規定は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則(平成13年国土交通省令第110号。以下「適正化法施行規則」という。)第87条第2項第一号イの方法(収納口座の名義人を管理組合又は管理者とする場合に限る。)又は同号ハの方法を前提とした規定であり、これ以外の方法をとる場合には、その実状にあった規定とする必要がある。その際、管理費等の管理をマンション管理業者に委託する場合には、適正化法施行規則第87条第2項に定める方法に則した管理方法とする必要がある。
② 徴収日を別に定めることとしているのは、管理業者や口座(金融機関)の変更等に伴う納入期日の変更に円滑に対応できるようにするためである。
③ 管理費等の確実な徴収は、管理組合がマンションの適正な管理を行う上での根幹的な事項である。管理費等の滞納は、管理組合の会計に悪影響を及ぼすのはもちろんのこと、他の区分所有者への負担転嫁等の弊害もあることから、滞納された管理費等の回収は極めて重要であり、管理費等の滞納者に対する必要な措置を講じることは、管理組合(理事長)の最も重要な職務の一つであるといえる。管理組合が滞納者に対してとり得る各種の措置について段階的にまとめたフローチャート及びその解説を別添3に掲げたので、実務の参考とされたい。
④ 滞納管理費等に係る遅延損害金の利率の水準については、管理費等は、マンションの日々の維持管理のために必要不可欠なものであり、その滞納はマンションの資産価値や居住環境に影響し得ること、管理組合による滞納管理費等の回収は、専門的な知識・ノウハウを有し大数の法則が働く金融機関等の事業者による債権回収とは違い、手間や時間コストなどの回収コストが膨大となり得ること等から、利息制限法や消費者契約法等における遅延損害金利率よりも高く設定することも考えられる。
⑤ 督促及び徴収に要する費用とは、次のような費用である。
ア)配達証明付内容証明郵便による督促は、郵便代の実費及び事務手数料
イ)支払督促申立その他の法的措置については、それに伴う印紙代、予納切手代、その他の実費
ウ)その他督促及び徴収に要した費用
⑥ 第2項では、遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することが「できる」と規定しているが、これらについては、請求しないことについて合理的事情がある場合を除き、請求すべきものと考えられる。なお、違約金としての弁護士費用等には、司法書士費用が含まれる。

解説

 適正化施行規則87条第2項第一号のイ又はハ以外の方法で徴収するとき以外は条文を書き換える。
 滞納管理費が発生した場合は、早めに対応し、その後のことについて専門家に相談をすること。滞納が3ヶ月に及んだ時は、すみやかに法的な回収方法に移行できるような体制を整えておくこと。第3項は平成28年の標準管理規約改定で追加された条項であるが、ここで規定されている通り、滞納管理費等の回収の主体は管理組合になる。滞納発生初期の対応は管理会社に委託するとしても、管理会社が行う回収方法を事前に決めておき、その回収方法でも回収できない場合は、管理会社はその責めを免れ、以降は管理組合が回収作業を行うことになる。

 第4項の訴訟においては、区分所有法の管理者が訴訟を行うことになる。訴訟が長引くときなどは、1年交代の理事長ではなく、訴訟に限定した管理者を選任できるように規約を改定する考えもある。

 第5項は2024年に追加された部分で、民法第490条の合意(弁済の充当の順序の合意)をするには理事会の決議が必要と定めた条文である。
 収納金とは組合員が支払った金銭の額のことであり、支払った収納金が滞納している管理費等の元本、滞納で生じた遅延損害金(利息)、諸費用をあわせた額に届かない場合、元本、利息、費用のどの弁済に充当していくかを理事会で決議することになる。この理事会決議を行えば、民法第490条による民法第489条の弁済の順序を変更する合意に当たる行為をおこなうことになる。この理事会決議がない場合は、民法第489条に従い、費用、利息、元本の順で充当されることになる。
 例えば、管理費等の滞納額(元本)が30万円、遅延損害金(利息)が3万円、諸費用2万円の合計35万円を滞納組合員は支払わなければならないが20万円だけ弁済されたとき、その20万円を民法489条に従えば諸費用2万円と利息3万円、元本15万円に充当することになる。今後は不足分を上乗せした分を支払うなどといった交渉のもと、元本のみに20万円を充当するときは、理事会決議を経て、滞納組合員と理事長でその合意を得ることになる。
 なお、規約・細則で弁済の充当の順序が決まっている場合は、理事会決議で変更はできない。

 第7項により、組合員が納付した金銭等の返還請求および分割請求ができない。そもそも、区分所有者は共用部分を共有している(区分所有法第11条第1項)が、共有物として区分所有者は共用部分の分割請求ができず、共用部分の持分はあくまでも専有部分の処分に従い(区分所有法第15条第1項)、また区分所有法の定める範囲内でしか専有部分と分離して処分はできない(区分所有法第15条第2項)。このように、共用部分は共有物とは違う性質を持つので、共用という、共有とは違った単語にしたのであろう。共用部分と同様に、管理組合の財産も第7項により返還請求、分割請求はできないので、権利能力なき社団と考えられる管理組合は、管理組合の財産を組合員で総有していることになる。

参照条文等

標準管理規約 第25条(管理費等)

標準管理規約 第29条(使用料)

標準管理規約 第62条(預金口座の開設)
 管理組合は、会計業務を遂行するため、管理組合の預金口座を開設するものとする。

管理適正化法施行規則 第87条(財産の分別管理)
2 法第76条に規定する国土交通省令で定める方法は、次の各号に掲げる場合に応じ、それぞれ当該各号に定める方法とする。
一 修繕積立金等が金銭である場合 次のいずれかの方法
 イ マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭を収納口座に預入し、毎月、その月分として徴収された修繕積立金等金銭から当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額を、翌月末日までに収納口座から保管口座に移し換え、当該保管口座において預貯金として管理する方法
 ロ マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金(金銭に限る。以下この条において同じ。)を保管口座に預入し、当該保管口座において預貯金として管理するとともに、マンションの区分所有者等から徴収された前項に規定する財産(金銭に限る。以下この条において同じ。)を収納口座に預入し、毎月、その月分として徴収された前項に規定する財産から当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額を、翌月末日までに収納口座から保管口座に移し換え、当該保管口座において預貯金として管理する方法
 ハ マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭を収納・保管口座に預入し、当該収納・保管口座において預貯金として管理する方法

民法 第474条(第三者の弁済)
1 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。

民法 第166条(債権等の消滅時効)
 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

民法489条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。

民法第490条(合意による弁済の充当)
 前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。

マンション管理適正化指針
4 管理組合の経理 管理組合がその機能を発揮するためには、その経済的基盤が確立されていることが重要である。このため、管理費及び修繕積立金等について必要な費用を徴収するとともに、これらの費目を明確に区分して経理を行い、適正に管理する必要がある。

マンション管理標準指針99ページ
◆滞納対策は、まず、滞納住戸を把握することから始まります。そのため、「未収金明細書等の滞納住戸が把握できる会計書類を作成している。」ことは必須であり、これを「標準的な対応」としました。
◆なお、滞納対策を迅速に行うためには、未収金明細書等の滞納住戸を把握するための会計書類は、月次で整理することが望ましいと言えます。

マンション管理標準指針101ページ
◆滞納処理については、最終的には法的措置に訴えることもありますが、単に失念している場合や法的措置以外の方法で回収できる場合も少なくないことから、まずは、滞納している旨を本人に知らしめることから始め、次いで電話や対面、文書などで督促を行い納入を促し、回収を図ることとなります。

管理適正化法施行規則第87条第2項第一号イの方法

イ方式

管理適正化法施行規則第87条第2項第一号ロの方法

ロ方式

管理適正化法施行規則第87条第2項第一号ハの方法

ハ方式



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