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2023年10月の記事一覧

変圧器

変圧器が高く掲げられている夕方に
雷光が電線から垂れ下がり
歩車道分離線を舐めている
光がこんなに重いなんて初めて知った
軽トラックが
何事もなかったかのように通り過ぎたら
車道にかすかなさざ波が立った
歩道にすこしだけ打ち寄せた

単身のなめらか

ときに単身のなめらか、街を歩く
道が広い
空も広い

怯えた虫

むかしは夕暮れになったので
なにかを嘆いてる
怯えた虫のゆくえ
私は腕を覆わなければならない
声が掠れて雨が降ってる

この時に(詩/朗読用)

瓦礫の街角を曲がる
風が吹いて赤みに染まる
坂道をのぼり
浮かびはじめた星々を結んだ

硝子の破片に映るばらばらな夜空を
抱きしめて歩こう
いつか光のかけらがつながって
謎がほどける朝を待つ

理由もなく契約もなく
僕らは生きて助け合う
きみが笑っていた街で
きみが夢見たこの時に

歪む空

鏡の様な水面に実が落ちる
生まれた様なとも言えるその軌跡
饐えた私が衣について話す
蛻けの殻についてとも
尊いという文字を担いで
おもてに出たら揮発した、簡単だった
じりじりと焼かれる背中
同心円状に皮膚が波打つ
花火の様にとも言える
水面に映し出される歪む空
飛沫を上げた私の様にとも