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2022年3月の記事一覧

長椅子

直射日光があたる長椅子の傍らで
縦長の影に紛れ鉛直に立っている人がいる
折れ曲がりながら座る人が何か話し掛けると
その人も折れ曲がり頷いた
長椅子に似た寝台が
チューブをぶら下げながら横切ると
影がその後を追って軋んだ声を上げた

毒苺

白黒遮断機がおりる
紅白遮断機があがる
苺うまい、毒かな
なびくの?なびかないよ
毒苺食べて春
何も知らないふりの春
線路の隙間に嵌らないよう
輪郭を震わせながら渡った

灯光

誰もいない
魚もいない
かすれはじめた仲間たちが
だからもういいよと言った
干上がった海を照らす灯台に
砂埃が吹き付けて
やめさせようとするけれど
軋ませながら振り返り
意固地になってまた光る
雨雲が気付くまで
諦めないと投げかける

小さな指で

空の青さがもうじき見える
そしてかわりにうけついで
掴んでほしい 小さな指で

風の青さにもうじき吹かれ
そしてあなたは立ちあがる
伝えてほしい 小さな足で

涙の青さにもうじき濡れて
そしてわたしは抱きしめる
包んでほしい 小さな瞼で

採血等

左腕の採血は失敗しました
右腕の採血は成功しました
コップに入れるのは血液ではなく尿です
身長は短くなりました
体重は太くなりました
そこはほんとにそこですか
胴に巻きつけ長くなりました
レントゲンは二面です
緑のビニールはお持ち帰りです
ちゃんと仕込んでお返しします

若い希望が生えてくる
老いた私を肥にして
老いた私は野垂れ死に
野垂れ死ねれば膨らんで
朽ちる前には破裂して
破片は四方に吹き飛んで
迷惑なのか餌なのか
私の一部で穢されて
そうして土壌が湿らされ
若い希望が生えてくる
老いた私を肥にして

怖れ

喧噪を見つめている
静けさを感じている
怖れさえしなければ
ただそれだけの事だった

契約もなく 2

理由もなく
契約もなく
ぼくらは生きて助け合うだろう
きのう誰かが望んでいて
果たせなかった今日をあしたを

わかってる
それでも殻を打ち壊し
心震わせ青春したい

小窓

小窓からの閃光にコンロの炎が溶解する
傷口に塩を振りかけて爆音炒める泣く叫ぶ
小窓からの夕焼け色で舞い上がった埃が光る
こんな時でも食べろよ歌えぐっすり眠れよ

お尻

便利屋をやめたら居場所ができた
好きなことだけ始めたらいい
ところで恥ずかしいお尻が剥き出しだ
嗤わない人が増えるといい
笑う人が増えるといい

かんかん照りか土砂降りか

かんかん照りか土砂降りか
ひもじく泣くか満腹か
真ん中なんてどこにある
普通だなんてそんなもの

上げても下げてもどちらでも
誰かが下がって上がるだけ
ぎったんばっこん鳴る音が
たそがれに溶けて消えるだけ

扉を閉じる

不安になれば扉を開く
そうしてわたしを確かめる
確かめられて安心したら
おやすみと言って扉を閉じる

眠たくなれば扉が開く
そうしてあなたを確かめる
確かめられて安心したら
おはようと言って扉が閉じる

最後の林檎

旅から帰ったところです。赤い洗濯物をはためかせ、みなしご豚を引き連れて、戦う街を彷徨いました。まさか辺鄙な我が家まで廃墟になるとは意外でした。最後の林檎は子豚にあげます。