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毛を抜かれたケガニは果たしてケガニなのか?

 「ケガニ(Erimacrus isenbeckii)はクリガニ科に分類されるカニの一種である。殻には短い剛毛が密生し、和名はこれに由来する。」(Wikipediaより抜粋)

 さて、このケガニくんの剛毛を1本残らず抜いてしまったとき、そのあとに残った「それ」は果たしてケガニなのか?という命題について、誰しも思考を巡らせたことがあるだろう。とりあえずケガニ派と非ケガニ派双方の意見を訊いてみよう。

ケガニ派「ケガニは毛を抜かれても生物学上の分類は変わらないためケガニである」

非ケガニ派「ケガニは毛を抜かれたら"ケ"がないからカニである」

 なるほど。すでにケガニ派が優勢である。非ケガニ派の話はとんちに近く、論理的とはいえない。ではここで非ケガニ派のために、助け船ならぬテセウスの船の話をしよう。

「テセウスの船(テセウスのふね)はパラドックスの一つであり、テセウスのパラドックスとも呼ばれる。ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは『同じそれ』だと言えるのか否か、という問題(同一性の問題)をさす。」(Wikipediaより引用)

 これをケガニに当てはめると、「ケガニを構成するパーツがすべて置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは同じケガニと言えるのか否か」ということになる。ではまず毛を抜いて…

──やること終わっちゃったね。つまりケガニは毛を抜いてもケガニです。壮大な思考実験でした。

9/8追記

 「この記事で取り扱っているのはあくまで『理想ケガニ』であるから、『実在するケガニ』の場合は彼らのプライドを考慮する必要があるのではないか?」という旨のご指摘をいただいた。ごもっともである。ケガニの精神性について考えなければならない。
 あまりにも人間の世界に馴染んでいる身のため、ケガニの心情まで汲み取ってやることはできていなかった。ごめんよケガニくん。しかし現生人類の実力を行使して何が何でも毛は抜かせていただくため、そのプライドは些末な問題である。ごめんよケガニくん。

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