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井上さんと一緒に、「もったいない子育て」をやめる旅に出た#11 

仮説を立てないことのもったいなさ
(11) ポジティブでクリエイティブな「もったいない」

 タイトルをはじめ、この連載では「もったいない」というキーワードを多用しています。「もったいない」という言葉は、ときと場合によってネガティブに響くこともあるかもしれません。

 例えば、時間がなくて焦っているときに、リサイクルすべきものをつい廃棄してしまい、その瞬間を見た家族の誰かから「あ~、もったいない!」と厳しい口調で言われたとします。そんな「もったいない!」は批判の言葉に聞こえるかもしれません。やむなくしてしまった、という気持ちがあればなおさらでしょう。

 でも、この連載で使う「もったいない」は、ちょっとニュアンスが異なります。

 先日のタキビバで、まさに「もったいない」気持ちが共有された場面がありました。対話の場で生じた化学反応のようなものを文字で再現するのは難しいのですが、それを承知で単純化して書いてみます(再現が難しいからこそ、対話の場は貴重なのですね!)。

 「すぐ調べない、まずは考える」というCo-musubiのキーワードについて対話していました。参加者の一人が「先日子どもに『青菜はなぜゆでないとダメなの?』と聞かれたときに、すぐに調べて教えてしまった」ととても残念そうにしていました。もちろん致命的なミスをした、というよりは「あちゃー」という感じです。

 世界には複雑で難しい課題があふれています。答えのない課題について考え続けることができる力が求められています。そのためには、自分で仮説を立てる必要があります。仮説を立てないと考え続けることはできません。子どもが何か疑問を持ったときに、すぐに大人が答えを教えたり、調べたりすると仮説を立てる余白が失われてしまいます。

 でも、実践するのは意外と難しいものです。「なぜか親や大人は、子どもに何か聞かれたら『いいことを言わないといけない』と思いがちです。言わなくてもいいことまで言ってしまうことがあります」と井上さんは言います。

 親としては、せっかく子どもが疑問を持ったのだから、ここぞとばかりに何か知識を与えたい、と思ってしまうのかもしれません。あれもこれも教えてあげたいという親心から焦ってしまうのでしょう。

 「ほんとだ、不思議だね。なんでだろうね」。そう言ってまずは一緒に考えてみる。

 「仮説を立てる」という言葉は、とても高尚な内容に限るように聞こえます。でも、習慣づける段階では「今日、お父さんは夕飯は不要です。さあ、なぜでしょう」といった身近な話題からでも構わないのです。

 さて、対話のシーンに戻ります。みんな「すぐ調べない、まずは考える」の重要性を感じている一方で、現実の生活ではできない場面もあることも痛感しています。

 そんなシーンの根底に流れる「もったいない」の気持ちは、誰かが誰かを責めるのではなく、ポジティブな方向に向かう「もったいない」です。そして、みんなで解決方法をクリエティブに模索する場になりました(「仮説を立てるクセがついた」後、「調べる」にたどり着かない場合はどうするか、という対話にまで至りましたが、これは追って後の回で述べます)

「あちゃー、これはもったいなかった」
「うんうん。でも、確かに難しいことも多い」
「でも、そんなときはこんな工夫ができるかも⁉」
「あんな工夫ができるかも⁉」
「私もやってみよう!」

 こんな感じでポジティブでクリエイティブな「もったいない」を言い合える仲間を増やしたい。それはこの連載を始めた目的のひとつでもあります。「小さな変化」は、こんな小さな気づきの積み重ねから始まると思っています。

(#12に続く)



書き手:小林浩子(ライター・編集者/小学生の親)

新聞記者、雑誌編集者などを経て、フリーランスのライター・編集者に。 自分の子育てをきっかけに、「学び」について探究する日々を重ねる。現在、米国在住。



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