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後編:ゼロからはじめるコミュニティドクター論

コミドク運営メンバーのよーよーです。
わたしたち”コミドク”は、病院からまちに飛び出して、地域に暮らすの人々とともに健康で幸せなまちづくりを探求、実践できる医師(=コミュニティドクター)を養成するための学びのコミュニティです。

コミドクnoteでは、ドクターとコミュニティにまつわる学びや実践のアレコレ、そしてコミドクメンバーたちの取り組みをお伝えしていきます。

「ゼロから始めるコミュニティドクター論」前編では、ドクターの視点でなぜまちに出るのか、どんな変化を期待するのかをお伝えしました。

後編では、より広い社会やまちで暮らすみなさんから見て、コミュニティドクターはじめ専門家がどんな存在であるといいのか、未来へ向けてどんな希望を一緒につくっていけるのか、をお伝えしたいと思います。

わたしたちは今どんな時代に生きているのか

分断と不確実の時代

前編でも、自分たちが所属しているまち・コミュニティのさまざまな要因が私たちの健康にも影響を与えていること、とくに孤立や健康格差という社会課題にもつながっていることをお伝えしました。

もちろん、まちには医療福祉だけでなく、教育、交通、行政、経済などさまざまな機能があります。それぞれに、健康問題、教育格差、不登校、人権問題とアドボカシー、貧困、ひいては近年の異常気象と災害などさまざまな課題が起きています。

これらの現代社会の課題に共通するものはいったいなんでしょうか。

2023年時点でのキーワードをランダムに並べました

不確実な未来

利便と効率性の追求が進み、これまでの10年とこれからの10年では、比べものにならないほど加速度的に変化していく社会の中に私たちはいます。加えて、災害や戦争、世界規模の感染症の流行など予測できない出来事を数多く経験してきました。
これからも未来はより一層予測しがたく、<不確実性>の高い現実をわたしたちは生きていくと言えるでしょう。
不確実性の中で意思決定していくためには、曖昧さやわからなさを認めた上で具体的な問題の対処の仕方を考えていく処方的アプローチが重要と言います。(竹村.2004)

分断のすすむ社会

わたしたちを取りまく環境は、インターネットの普及を経て世界中とつながることができ、趣味趣向に合わせて情報が届けられるようになりました。一方で、少しでも考えの合わない人とは出会わない狭くタコツボ的なコミュニティが増えました。その結果、偶然に出会うことで他者を知る、違いを知るという経験が極端にしづらくなっています。(小林.2012 を参照)
それは、生まれ育ちなどの社会的要因が私たちの人生に影響を与えていると指摘される一方で、個人主義が行き過ぎ、自己責任論の声が大きくなっていいる社会的風潮とも無関係ではないでしょう。
このように、社会がいくつものレイヤーに分けられ、その間を行き来することが少なく<分断>している世界に私たちは生きていると言えます。

わたしたちはどう行動すればいいのか

<不確実性>と<分断>、それらに伴う数々の社会課題。いずれも個人の手に負えないような大きな問題で、大きすぎてどこか他人事のようにも思えてしまうのですが、確実に身の回りで起きている現実です。
それらの課題はあなたの、あるいは見知らぬ隣人の(幸せ)に生きたいという願いを阻む壁として、今現在も立ちはだかっていると言えます。

この<不確実性>の波と<分断>の壁を越えて、わたしたちが(幸せ)を見つけ形にしていくにはいったいどうすればいいのでしょうか。

市民と専門家が「一緒に冒険する」

インゴルドを手がかりに市民と専門家の関わりを考える

人類学者ティム・インゴルドは、自著「人類学とはなにか」の中で、「世界は臨界点に達してる」と言い、この<不確実>で<分断>しがちな現代の社会において、「私たちはどのように生きるべきか?」と問いかけています。

そして、「生を持続可能にして、次の世代につないでいくためには」という大きな問いに対して、(彼にとっての)人類学の方法である「フィールドワークする」という問いへの対峙の仕方を教えてくれています。

インゴルドのいう人類学、そしてフィールドワークとは、「人々とともに学ぶ方法であり、世界を内側から知る方法」です。
つまり人や社会を観察して分析するのではなく、この世界を生きていく方法を見つけるために、まちの人々と一緒になって、あらゆる専門家の「知識」とまちの人たちの暮らしの経験と想像力による「知恵」を調和させようとする営みです。(インゴルド「人類学とはなにか」を参照)

これからの時代の「まちづくり」とは

このインゴルドの語りを手掛かりに「まちづくり」という言葉を捉え直してみます。
そのコミュニティで暮らす市民と専門家が一緒に「フィールドワークする」、つまり課題を共有し一緒に学びあい、「知恵」と「知識」を融合させて、自分たちの手でより暮らしやすい"まち"になるよう環境を変えていく。
そんな営みこそがこれからの時代に必要な「まちづくり」であり、市民と専門家の関係の仕方が見えてきます。

「フィールドワークする」=「一緒に冒険する」

つまり、<分断>に対してひとりではなく「一緒に」、<不確実性>に対して安全だけではなく「冒険する」。
不確実で分断しがちな現代において、「一緒に」伴走し、「冒険」できる市民像、専門家像が浮かび上がります。

※「一緒に冒険する」という言葉は、はたらき方研究家の西村佳哲さんの著書「一緒に冒険をする」のタイトルから引用しています。著書の中には、数々の領域で「一緒に冒険」している人たちのインタビューが収録されています。

まちに出て、一緒に冒険する医療の専門家

医療における「知識」と「知恵」のバランス

そして、わたしたちコミュニティドクターもまた医療という専門的な道具をうまくつかって、さまざまなコミュニティの人たちが(幸せ)を創っていくために一緒に冒険できるドクターでありたいと願っています。

医療に関する領域では、近年は、災害やアウトブレイクなど命の危機を感じる経験や、都市化と孤立の問題、健康・ウェルビーイングという言葉の流行にもみられるように、「健康・いのち」への関心が高まっています。
社会と健康に関する「知識」の蓄積、データベース化が進み、どんな行動が健康・不健康とつながるかも分かってきました(社会疫学という研究領域です)。

だからこそ、(幸せ)に生きる・暮らす「知恵」とのバランスが重要です。健康は手段であり過程であって、”正しい”健康の「知識」によって私たちが(幸せ)になれるわけではありません。
しかし「知恵」というものは、容易に言語化できない、量的データ化(数値化)も質的データ化(概念化)で捉えきれない”やっかいな”性質をもっています。
それらを知るためには、生の・暮らしの「場」に身をおいて、まちの人たちが言葉にしていないけれど、そのコミュニティで生きていく上で本当に大事にしているものを肩越しから見つめようとする「フィールドワーク」にという営みが求められます。

冒険のパートナーとなる医療の専門家がいるといい

だからこそ、コミドクフェローの学びと実践では、病院で診察を通して出会う「臨床」とまちの中で出会う「臨地」の2つの学びを組み合わせることを核にしています。
臨床は医師が診療するという行為。患者のことを知りながら、その人に最適なケアを届けるということをやっていきます。臨地とはまち、コミュニティ一員として中に入っていき、一緒に学び活動していくこと。医療機関とまちという違いはあれど、どちらもインゴルドのいう「ともに研究する」フィールドワークです。

臨地、は応答の人類学の清水展さんから教えていただいた言葉です。清水(2022)

ときに病院で、ときにまちで、
人々と出会うことを通して、いのちと健康についての「知識」と「知恵」を混ぜ合い、様々な専門家とも協働しながら、そのまちの人々にとって“「生」が持続可能な未来”へとつながる「場」・コミュニティを紡いでいく冒険を一緒にできる医療の専門家がいるといいなと思うのです。

つまり「コミュニティドクター」とは、「一緒に冒険するドクター」と言えます。

2023年現在、コミドクに参加している7名の医師が、それぞれに臨床と臨地を行き来して、医療機関の中で病気を通して出会うとともに、まちに出て、人や場所と出会い、巻き込まれながら一緒に(幸せ)をみつける、つくるチャレンジをしています。これから、より多くのコミュニティに一緒に冒険するドクターがつながるよう、コミドクという共同体も成長しきたいと思うので応援お願いします。

あなたへ

最後まで読んでいただいた皆さんは、きっと一緒に冒険する仲間です。

コミドクに参加していてもいなくても、ドクターであっても他の専門家であっても、ある特定のまち・コミュニティの暮らしの専門家であっても関係ありません。それぞれに関心のあるまち・コミュニティで、フィールドワークし、偶然の出会いからコトを起こし、わたし‘、あなた'、わたし2.0、あなた2.0となり、いずれはまちが変わっていく、そんな冒険を一緒にしていきましょう!

応援お願いします!

コミドクは、運営や活動もほとんどメンバーが自主運営でやっています。活動に共感し応援したいと感じた方、一緒に冒険したいと思われた方はぜひnoteにイイね!フォロー!投げ銭サポートなど応援お願いします。

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canva 公式クリエイター nico_design.akさんのテンプレート使用  https://www.instagram.com/nico_design.akane/

参考文献)
竹村和久, 吉川肇子, & 藤井聡. (2004). 不確実性の分類とリスク評価―理論枠組の提案―. 社会技術研究論文集, 2, 12-20.
小林哲郎. (2012). ソーシャルメディアと分断化する社会的リアリティ (< 特集> Twitter とソーシャルメディア). 人工知能, 27(1), 51-58.
インゴルド,ティム. (2020). 人類学とは何か. 亜紀書房.
清水展. (2022). 中村哲医師の活動と文化相対主義をめぐって. 文化人類学研究, 23, 91-98.

(文責:よーよー)


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