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(8)まとめ|「非営利組織の弁護士」におれはなる!

こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人の塙 創平(はなわ そうへい)です。りのは綜合法律事務所という事務所で弁護士をしております。

私はここまで、全8回に渡り『非営利組織とコンプライアンス』についてお伝えしてきました。

実は私は、今から10年以上前に「非営利組織の弁護士になる」と宣言しました。今回は、なぜ私がそんな宣言をするに至ったか、というお話しをさせてください。

幸い、今では、自他共に認める「非営利組織のコンプライアンスに詳しい弁護士」になることができました。

非営利組織は、運営が簡単? とんでもない!

2010年代前半、私はとある中間支援組織(いわゆる非営利組織を支援する非営利組織)の偉い人から、

特定非営利活動法人は、もともと『市民活動法人』という名前になる予定だった法人格だから、市民でも(能力的に)運営できる法人格だ。それ以上のことを要求するのはおかしい。

ということを言われました。
私は、これを聞いた瞬間に「そんなわけないじゃん」と愕然としました。

組織運営というのは元々大変なものです。
その中でも、個人商店のような小さな株式会社であれば、オーナー(会社の所有者である株主)と経営者が1:1で結びついているのでわかりやすいです。
しかし、特定非営利活動法人(NPO法人)は、社員(NPO法人の構成員を「社員」といいます。従業員という意味ではありません。)が10名以上必要ですから、毎年、総会を開いて議論するだけでも大変です。
相当の努力をしない限り、運営できない法人格でしょう。

しかし、この当時は、偉い人でさえ、こういう発言をする程度の認識であったことは否定できません。
さらに言えば、実際に運営している当事者でさえも、その程度の認識でいる人が多かったことも否定できません

たとえば当時、特定非営利活動法人は、毎年、資産総額の登記を義務付けられていました。私は、特定非営利活動法人から相談を受ける際には必ず、この登記を期限内に行っているか登記情報を確認してから実際の相談に臨むことにしていました。
ここにその法人のコンプライアンスのレベルが現れるからです。

毎年、必ずやらなければいけないことを、期限内に行っているか…、仮に一度失敗しても、その後は反省してちゃんとやるようにしているか、登記をみるだけですぐわかります。

しかし、一般の人(市民)にとっては、法務局とか登記って、縁遠いですよね。残念ながら当時は、私が相談を受けた、大多数の特定非営利活動法人が法令を遵守できていませんでした(ため息)

最低限のルールや手続きを定めた法令を守ることができない組織は、ほぼ感覚だけで組織を運営していることになります。コンプライアンスを理解していないばかりに、問題が発生しやすかったり、こじれやすかったり……。

だから、非営利組織のコンプライアンスは難しいんだよ!
なんとなくやっていたら痛い目にあうから、ちゃんと理解しようよ!

同じような相談を受ける度に、こんな気持ちが強まりました。

だいたいみんな同じ失敗をします。
失敗例は専門家の下に集まるから、同じ失敗を繰り返したくないなら、専門家に頼ることが必要だよ!ゼネラリストでは対応できない分野もあるんだよ!

私はこう声高に叫ばずにはいられなくなり「非営利組織の弁護士になる」と宣言することになったのです。

「非営利組織の弁護士」なんておかしい!?

私は、その後、折に触れて「非営利組織の弁護士になる」と言って回っていました。すると、ある日、とあるコーポレートガバナンスの大御所の弁護士から「『株式会社(専門)の弁護士』なんていないから、『非営利組織(専門)の弁護士』なんておかしい」と苦言を呈されてしまいました。

確かに、『株式会社の弁護士』はいません。
会社法や企業法務に強い弁護士はいますが、株式会社を当事者とする事件ばかりを取り扱う弁護士はいないのです。

この大家の先生は、「法人格という器が何であれ、法律問題である以上、弁護士であれば出来て当たり前だろ。」ということをおっしゃりたかったのでしょう。
当時の私は、まだ未熟だったので、「なるほど、そう言われてみれば確かにそうかもしれない。」と思ってしまったのですが、今なら「それは違う」と胸を張って言えます

確かに、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」は、実は会社法とほぼ同じ建付けですから、「非営利組織の弁護士」だって会社法を学んでなければいけません。
何より、「法律問題である以上、法人格という器が何であれ、弁護士であれば出来て当たり前だろ。」という点も間違いありません。

…しかし。法律問題は、必ず、人と人の間で起こります。

人が異なれば、使う言葉も違います。
人が異なれば、起きる法律問題の内容も違います。

使う言葉も、起きる法律問題も異なれば、それはもはや全くの別世界です。

たとえば離婚するとき、企業法務に強い弁護士に相談には行きませんね。
離婚事件を複数担当したことがありそうな弁護士に相談すると思います。
それと全く同じことです。

たとえどんなに会社法に詳しい弁護士でも、「非営利組織では熱心な職員の善意による行動……という名の暴走が頻発する」ことを、事前に予測することは難しいでしょう。

実はコレ、非営利組織ではよく起きるのです……。

だからこそ「特定の法律の専門家」という意味ではなく、「非営利組織の文化をよく知る法律の専門家」という意味で、「非営利組織の弁護士」は必要だと、私は、今、自信を持ってそう答えます。

追記
なお、そのコーポレートガバナンスの大御所の弁護士は、「顧問弁護士に就任すると、必ずその顧問先の社内報に毎月目を通す。」と話していました。理由は、その顧問先特有の文化や言葉、業界を把握する上で、社内報が有用だからだというのです。つまり、その組織特有の文化や言葉、業界への理解が必要、という前提は、その大御所の弁護士と私は、共通していたのです。

今思うとおそらく、弁護士らしく「法人格はただの器」という意識が強く、「非営利組織」というある種の業界があることをあまりご存知でなかっただけなのかもしれません。
今となってはこの分野については、私のほうが詳しいですからね(えっへん

コンプライアンスの理解は生活に役立つ

無事に(?)非営利組織の弁護士になれた私は、より広く、非営利組織とコンプライアンスについての理解を届けたいと思いました。
それが、このnoteを始めたきっかけです。

非営利組織とコンプライアンスについて理解できれば、たとえ自分の勤務先が株式会社であっても、基本は同じなので対応できます。

さらに育児や介護、学校など、生活に必要な対人援助で利用しうる場所は、非営利組織が運営していることがかなり多いです。
育児であれば、保育園を運営する特定非営利活動法人、社会福祉法人。
介護であれば、社会福祉法人。
学校であれば、学校法人。
つまり、誰でも「非営利組織とコンプライアンス」について知っておいて損はありません(それどころか得がたくさん!)。

さて、次回からは、コンプライアンス問題の中でも特に注意が必要な「ハラスメント」についてお話ししてきます。
これからもどうぞ、私と一緒に学んでいきましょう。

  りのは綜合法律事務所・代表弁護士
  非営利組織とコンプライアンス研究会・代表世話人 塙 創平


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