パワーハラスメントの6つの型とは|パワハラの典型的場面を弁護士が解説
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
前回の記事では、事業主がハラスメント事案を速やか・安全に解決するために必要な3つの視点についてお伝えしました。
ここからは、組織で起こりやすい「パワーハラスメンと」「セクシャルハラスメント」「マタハラ(パタハラ)」について、詳しくお話していこうと思います。まずこの記事では、ハラスメント相談件数が最も多いパワーハラスメント(パワハラ)についてご紹介します。
事業主の方はもちろん、上司や部下とのコミュニケーションに悩む労働者のみなさまにも役立つ内容となっています!
パワハラには6つの型がある
何事にも攻略法があるように、パワハラに適切な対応をおこなうためにはまず、基本形とその対応を覚えましょう。
厚生労働省はパワハラについて、イメージがつきやすいようにパワハラの典型的な場面として「パワハラ6類型」を紹介しています。厚生労働省のパンフレットから引用しながら、具体的な場面をみていきましょう。
前回の記事でお伝えした「ハラスメントの第2の視点」の「問題行動判断の4段階基準」にもあてはめながら解説します。
「問題行動判断の4段階基準」の詳しい解説は、前回の記事をご参照ください。
身体的な攻撃
「叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。」
「丸めたポスターで頭を叩」かれる。
というのが典型的な場面です。
「身体的な攻撃」という行為を「問題行動判断の4段階基準」にあてはめると、第1段階の「その行為が、犯罪にあたるか否か(刑事事件該当性)」に該当しますね。
なぜなら、いずれも、「人の身体に対する不法な有形力の行使」であり、暴行罪(刑法第208条)の「暴行」にあたるからです。
ですから、第2段階以降を検討する必要なし。直ちに違法です。
精神的な攻撃
「同僚の目の前で叱責される。」
「他の職員も宛先に含めメールで罵倒される。」
「必要以上に長時間、繰り返し執拗に叱る。」
というのが典型的な場面です。
「精神的な攻撃」という行為を「問題行動判断の4段階基準」にあてはめると、色々な場合があります。
まず、第1段階の「その行為が、犯罪にあたるか否か(刑事事件該当性)」。
身体的な攻撃と違って、「人の身体に対する不法な有形力の行使」はありません。しかし「罵倒」している場合、例えば侮辱罪(刑法第231条)の成立を検討する必要があります。
もし第1段階をクリアした場合は、第2段階の「その行為が、不法行為にあたるか否か(民事事件該当性)」を検討します。
「執拗に叱る」場合、行為として必要性相当性があったのか、受忍限度の範囲か否か等が問題になります。
さらに、第2段階もクリアした場合、第3段階「労働者の就業環境が害されるか否か」を検討します。
違法ではない(第1段階、第2段階にあてはまらない)レベル…例えば業務上必要な注意・指導(叱責)をする際、例えば一言、二言ならともかく、多少こみいった話で時間を要するようであれば、人前ではなく会議室に移動する等の配慮が必要な場面はあるでしょう。
人間関係からの切り離し
「1人だけ別室に席を移される」
「職場で無視するなどコミュニケーションをとらない。」
「送別会に出席させない。」
というのが典型的な場面です。
「人間関係からの切り離し」という行為を「問題行動判断の4段階基準」にあてはめると、第2段階「その行為が、不法行為にあたるか否か(民事事件該当性)」か、第3段階「労働者の就業環境が害されるか否か」にあてはまる場合が多いでしょう。
6人チームなのに「空気を読めない発言をするから」等という理由で、『1人だけ定例ミーティングに声をかけずに参加させない』といったパターンも、この「人間関係からの切り離し」にあたります。
コンプライアンス研修でパワハラ6類型の説明をする際、これが一番、意外そうな顔で聞いている人が多い気がします。パワハラ6類型の紹介は【「人間関係の切り離し」もパワハラということを知ってもらう為にある】といっても過言ではないほどです。れっきとしたパワハラですから、気をつけてくださいね!
過大な要求
「新人で、仕事のやり方もわからないのに他の人の仕事までおしつけられ、同僚は、皆、先に帰ってしまった。」
というのが典型的な場面です。
「問題行動判断の4段階基準」に照らすと、第1段階「その行為が、犯罪にあたるか否か(刑事事件該当性)」、第2段階「その行為が、不法行為にあたるか否か(民事事件該当性)」にあてはまることはあまりないですが、度重なる場合には該当することもありえます。主戦場は第3段階「労働者の就業環境が害されるか否か」になるでしょうね。
これについても「自分が新入社員のときには、これくらい出来ていた」「本人が、無理だと言わなかった」などは理由になりません。
事業主は、労働者がすこやかに働ける環境を整えなくてはなりませんから、各人の業務遂行能力に応じた采配が必要です。「人手が足りない」「同じ給料なのに」などの不満はまた別の課題であり、パワハラをしていい理由にはなりません。
過小な要求
本来、営業まわりを担当としている方に対し、「お前はもう客前に出せない!明日から1ヶ月間、本社のトイレ掃除をずっとやっていろ」と告げ、実際にその仕事に従事させる場合が、典型的な場面です。
当然、トイレ掃除が価値のない仕事という意味ではありません(いや、むしろ大事な仕事ですよ)。しかし、「営業」として働いている人に毎日トイレ掃除だけをやらせても、当然ながら営業能力は向上しません。つまり、これは意味のない指示ですよね。本来の仕事や能力に見合わない仕事を押し付け続ける場合や、意図的に十分な仕事を与えない場合がこれにあたります。少し前までは「窓際族」「追い出し部屋」などという言葉が半ば公然と使われていましたが、現在はこれらも場面によってはハラスメントに該当します。
この「過小な要求」を「問題行動判断の4段階基準」に照らすと、第1段階「その行為が、犯罪にあたるか否か(刑事事件該当性)」にあてはまることはあまりないと思いますが、継続的な場合は第2段階「その行為が、不法行為にあたるか否か(民事事件該当性)」にあてはまるでしょう。
個の侵害
「お前はこんな仕事もできないのか! 嫁の顔が見てみたいな!」「こんなんだからいつまでも独身なんだよ」と侮辱する場合が典型的です。
配偶者、親、子。つまり仕事とは無関係なプライベートに立ち入って、傷つけるような場面です。
「問題行動判断の4段階基準」に照らすと、第1段階「その行為が、犯罪にあたるか否か(刑事事件該当性)」にあてはまることもあるでしょうし、仮にあてはまらなくても、第2段階「その行為が、不法行為にあたるか否か(民事事件該当性)」にあてはまることは多いでしょう。
仕事とプライベートを因果関係で結びつける必要は、まず、ありません。
パワハラ6類型のまとめ
典型的なパワハラの場面を6類型でお伝えしましたが、ここに挙がらなかった行為は問題ないということではありません。あくまで代表的な例を挙げたにすぎず、パワハラにあたりうるすべてを網羅したものではなかったり、実際は複合的にあてはまったりすることがほとんどです。
時々、「『過小な要求』だから、パワハラだ!」とか、「この行為は、パワハラ6類型のどれにあてはまるのでしょう」とか聞かれることがありますが、この6類型はそのような使い方をするものではありません(念の為)。
どちらかといえば、「『人間関係からの切り離し』もパワハラなのか!」と気づくためのツールだと考えてもいいかもしれません。
いずれにせよ事業主は、「パワハラ6類型にあてはまるのか」とか「ハラスメントになるのか」をあれこれ検討する前に、
「実際、どういう状況が生じているのか」
「それがどういった行為から起きているのか」
などの客観的事実を検証し、労働者がすこやかに働ける環境整備をすることに時間を充てたいものです。
次回の記事では、セクハラの型についてお話ししたいと思います。
お楽しみに。
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